仲直りの方法
同い年のはずなのに、いつもお兄ちゃん風を吹かせてくる幼馴染が、凄く好きな半面時折凄く嫌いだった。「結局いっつも悪いのはあたしなんだよね!!」ケンカになったって、結局怒ってるのはあたし一人だ。同じ子どものくせにクラピカはいつも冷静だ。一人プリプリ怒るあたしを見たら、周りはみんなあたしが悪いって風に思ってる。それが悔しくて、あたしはクラピカのこれから読むであろう本を掴むと、勢いよくクラピカに投げつけて外に飛び出した。
「……クラピカのばかばかばかばか」
こう言ったケンカなんて、日常茶飯事ゆえに、誰一人として追って来てくれないことが悲しかった。ケンカ相手であるクラピカだってそうだ。結局あたしだけなんだ。一人で怒っててバカみたい。遠く離れた原っぱにちょこんと座りこんで、先ほどの事を想い浮かべる。投げた本は、結構分厚かったように思う。…クラピカ、大丈夫だったかな。多分、ぶつかったのは顔や頭ではなかったと思うけど…と言うかぶつけた本人が心配することではないのかもしれないけど。…怪我、しないでほしい、な。なんて思うなら、するなって話だ。
「…でも、絶対謝ってなんかやんない」
一人ごちて、あたしは原っぱに咲き乱れる白い花をぶちりと手折ると、心を静めるために花冠を作る事に決めた。
★ ★ ★
「…んのーーーーーっ!!」
それから、数分後。心は落ち着くどころか更にイライラしてきた。その原因は花冠にある。綺麗に作れるはずだった花冠は無残としか言いようのない程の出来栄えで。自分が思い描いたように作れなかった。納得がいかない。あたしは何度目かの失敗作をぽーんと後ろの方に放ると、また新しい花に手をつけた。
「その辺で自然破壊は寄せ」
そうして、聞こえてきた声。あたしはムっとなって、その言葉をわざと無視すると、身近にあった花をぶちりと折ってやった。すると、後ろから、またふう、と呆れたため息が聞こえてくる。顔、見なくても一体どんな顔してるかなんて、容易に想像出来てしまう。それくらい、あたしと後ろの人物の交友は深いのだ。返事を返さないあたしを、差して気にも止めなかった彼は、平然とあたしの隣に座りこんだ。それから「そろそろ冷えるし、帰るぞ」なんて、まるでケンカなんてなかったかのような言い草で。あたしはカチンと来て「一人で帰れば」と可愛げなく言った。
「みんな心配してるぞ」
「そんなわけないもん。どうせみんな煩い奴がいなくなったよしよし。くらいにしか思ってないに決まってるんだ」
「良くわかったな」
「…はあ!?」
「はは、冗談だ」
思わず、相手の顔を見てしまってから、しまったと思った。怒っていたハズなのに、余りにも普通に会話を返してしまったからだ。はは、と笑うクラピカの顔を見て、あたしは気まずくなってまた眼を伏せる。手にとった花をさっきからやってる要領で花と花をつなげていく作業を再開すると、クラピカは笑うのをやめたみたいだ。笑い声がやんで、それから…みられてるような、気配。
「本当に心配してるぞ」
「嘘だ絶対」
「いや、俺が心配なのだよ」
「だから、帰るぞ」とあたしの目の前に手を差し出す。男の子にしては色白い手が目に映って、とっさに取りそうになってしまった自分を心の中で叱咤して、あたしはフイっと顔をそむけた。「クラピカだって、ただ、うちの親に言われてるからしょうがなく来てるくせに!」だって、もし本当に心配してたと言うなら、何故こんなに遅くなってからだと言うのだろう。
「あの後すぐ追って、が大人しく帰るとは思わなかったからな」
正論だ。いっつもクラピカはそうだ。普通、10前後の子どもなんて、後先考えず行動するのが当たり前なんじゃない。なのに、クラピカは違う。確かにあたしの性格上、きっとすぐに追いかけられても余計に意地になって怒ってしまうパターンだと思う。だけど、それがわかって冷静に判断するところがまったくもって可愛げがない。キっと睨むと、クラピカはやっぱり怒っておらず、むしろ手のかかる妹を持ったお兄ちゃんみたいな顔して、「だから頭が冷えた頃にきたんだよ」なんてふわりと笑った。その笑顔が、またムカついて、あたしは「ヤダ」としか言えない。
「花冠完成させるまで絶対帰らないって決めたの」
「……野宿する気か?」
「何それ!失礼!」
「……この残骸を見てれば俺じゃなくても言うと思うが」
そう言われて、周りを見渡したら、確かに無残な花がバラバラと散らばっていた。その花冠(になる予定だった花)をクラピカは手に持つと、やっぱりまたあたしの隣に座りこんで、それを解きほどく。じっと見つめていると、クラピカは慣れた手つきでまた別の花冠(になる予定だった花)と先ほどのほどいた花を合体させた。それらとそれらの端をつなぎ合わせて…
「ほら、出来た」
見事綺麗に円に出来たそれをあたしの頭に乗せて、また笑った。頭にのっかったそれをあたしは両手で掴んで見つめると…自分では何分もかかって結局出来なかったのに、こうもあっさり作ってしまうクラピカにまた腹立たしさが沸きあがってくる。「んな!」「ほら、帰るぞ」そうしてあたしの腕を掴むから、あたしはやっぱりムキになってその手を振りほどいた。
「クラピカが作ったってしょうがないじゃん!」
睨みを利かせると、クラピカがやれやれと言った風にため息をつくので、やっぱりムキになって怒ってるのはあたしだけなんだと悟る。だって、本当は…あたしが花冠を完成させて、仲直りってそのしるしにクラピカにあげようって、思ってた…のに。
なのに、なんで完成させちゃうのがクラピカなんだろう。なんで、こうも簡単にやってのけちゃうんだろう。そしてなんで自分はこんなに手のかかる子どもなんだろう。色々考えてたら自己嫌悪に陥りそうで、あたしは急いでそっぽを向いて「とにかく!あたしが作るんだから!クラピカは帰って!」違う、本当に言いたい事はそうじゃないのに。ほんとは、本当はクラピカがあたしを探しにきてくれたことが、すっごくすっごく嬉しかったのに。ほんと、なんてガキ。これじゃあクラピカが大人になるしかないじゃんか。妹扱いされちゃうのも、当たり前だ。クラピカがお兄ちゃんみたいになるのなんてもっと当たり前だ。
色々考えてたらなんだか本当に自分はどうしようもないような奴な気がしてきて、視界がぼやけるのがわかった。ヤバ、泣きそう。そう思ってでも絶対クラピカの前でなんか泣いてやるもんかって思って(だってこれ以上子どもだなんて思い知らされたくない)あたしは身近にあった花をまたプチリと折った。それを更に花と花に繋げて…でも、視界がくぐもってる所為か、うまく出来ない。
「」
あたしを呼ぶ声とともに、ぽん、と優しいぬくもりが頭に振った。多分、クラピカの手なのだと推測すると、其の手が不器用にあたしの頭をなでる。黙っていると、「帰るぞ」何度目かの、誘導。でもウンとはどうしても頷けなかった。進まない花冠を手に、あたしはいまだにクラピカの顔を見る事が出来ない。すると、クラピカが小さく息を吐いて(でも、嫌な感じじゃなくって)ポン、ポン、と二三度あたしの頭を撫でて
「のその気持ちだけで十分だ」
「なんの、こと」
「…さあ?」
ああもう。本当は全部わかってるんでしょう!子どもだからしょうがないけど、子供じみた事ばかりやってるなって呆れてるんでしょ!どうしてもケンカ腰になってしまう自分がイヤだと思うのに、どうしても素直になれなくて、ひとつ文句いってやらねばとつい、クラピカの方を見てしまった
そして、後悔。
「…ほら、帰ろう」
「………」
ああもう。
視界に映るクラピカの笑顔に、毒気抜かれちゃったじゃん。クラピカは本当に、何事もなかったかのように。それはもうケンカなんてしてなかったみたいに、あたしに微笑んで、そっと手を差し伸べている。でもその手を掴むことが出来ずにいると、しびれを切らしたのかクラピカがあたしの手を取った。
「…帰らないって、言ったのに」
「夕飯、食いっぱぐれるぞ」
口をつくのは文句の数々なのに、それなのにクラピカの手を払いのけることはどうしても出来なかった。いつも低体温のくせに、今はあたしよりあったかく感じる。その手がぎゅっとあたしの手を掴んで離さない(いつも手をつないだら嫌がるくせに)時々、こうして優しくされるからどうしてもあたしはクラピカに甘えてしまうんだ
「明日、天気が良かったら花冠の作り方教えてあげるよ」
「……なんでそんな詳しいの」
「文献で読んだ」
「……勉強の虫め」
結局なんだかんだ言ってもこの幼馴染が、大好きだ。
― Fin
後書>>upすんの忘れてた。てか、何これ…?出来上がり去年の11月って!(笑)
2009/11/07