『クラピカのイメージカラーは、緑だね』

そう言って微笑むのイメージカラーを、オレンジだ。と思った。





IMAGE color





オレがふっと、目が覚めたのはすぐだった。まだ日も昇らない外を見れば、今が随分早い時間だと言う事が容易に想像できる。
オレは小さく息を吐き出すと、のそのそとベッドから起き上がった。高級なそれはふかふかとオレが身じろぐ度に、小さくスプリングする。
立ち上がったオレは冷蔵庫からミネラルウォーターを手にとって、口をつけた。コクン、と音が鳴ると共に冷たい水が喉を潤す。
冷たいそれが喉を刺激する度に覚醒していく頭。飲み口から口を離すとオレはふう、と小さく息を吐き出すと、数度頭を左右に振った。

さっき見た夢。それが頭の中で何度も何度も思い出される。
夢の内容は、前にオレがに言われた事だった。思い返すのは、彼女と出会って、行動を共にするようになった頃の事だ。

『クラピカは、緑って感じがする』

『どういう意味だ?』ふわっと落ち着くような笑顔で言われたそれに間髪いれず質問をすると、はくすっと笑う。
『悪い意味じゃないよ?』言いながら笑みを絶やさぬ彼女は、莫迦にしたような素振りは一切無い。どうやら彼女の悪い意味じゃない≠ニ言うのは本当らしい。
は訝しげに自分を見ている視線にもう一度笑顔を向けると、コテン、とオレのほうに体重をかけ寄りかかった。さらり、と彼女の髪の毛がオレの肩に掛かる。

『・・・安心、するんだ』

それは至極小さな言葉。安心?オウム返しに返すしか術は無いオレは、寄りかかっているを更に怪訝そうに見つめる。
そうすれば、小さくこくりと肯くのが感じ取れた。

『・・・クラピカは、あたしにとって、空気なの。緑ってね、自然でしょ?植物は空気を作ってくれるのよ?』

何かの文献で読んだの。ちょっと得意げに言うは、子どものようだった。そのとき、嬉しそうな彼女の笑みを見ると、どこか安心した。
しかし、そのときのオレは何故、自分が安堵するのかわからなかったのだ。が笑えば、自分も嬉しくなった。その道理がわからなかったのだ。

――――――だが今なら、わかる。



オレはもう一度ため息を吐き出して、いまだ眠るに顔を向けた。すぅすぅと規制のよい寝息が聞こえてくる。
本来ならこんなに無防備になったら命取りなのだろうが、今は一仕事を終えた後だからなのか。
それともオレが傍にいるからなのか。安心しきっている。多分、後者が強いだろう。
・・・それはオレの自惚れなのだろうか?―――そうじゃないと、嬉しいが。

変わらぬ呼吸音を聞きながら、オレはを起こさないように静かに彼女に近づくと、の髪の毛をすっと触った。
サラサラとの髪の毛がオレの指を滑るように落ちる。優しく髪の毛を撫でる。

あの時はオレの事を「緑だ」と、そして「空気だ」と言った。ずっとずっと不思議だった。こんなにも落ち着くわけが。
同胞を殺されて、仲間を失ったあの日から、オレは一人で居ることを誓った。もう、誰も失いたくは無いのだと。
危険な目には合わせたくないのだと。自分が進むべき道は、光ではなく闇なのだと言うことを知っていたから。

でも、に出会ってしまった。彼女に会って、自分が変わっていくのを感じたのだ。
彼女が笑えば自分も無意識のうちに笑ってしまうこと。傍にいるだけで心がこんなにも穏やかになること。気づいてしまったのだ。

自分が、を好きなのだと。・・・失いたくはないから、近づきたくはなかった。深く関わるつもりなんて毛頭なかったと言うのに。
彼女はいつの間にか、自分の固い殻を破って、奥の方まで入り込んでしまったのだ。
もう、離れるなんて考えられなかった。

「あの時お前は私は空気だから、離れたら生きていけないのだと言った」

ぽつり、と呟かれる言葉は夢の中にいるには聞こえはしないのだろう。
だが、それでも・・・それでも言わずにはいられない。

「でも、違うのだよ?」

さら、と痛んだ痕跡のない髪の毛を救い上げては自分の指をくぐり抜け滑るように落ちるのそれを見つめ、言葉を紡ぐ。

「もし、私がの空気なのだとしたら。それは、お前が私の傍に居てくれるからだ」

自分のイメージを緑だと答えてくれた少女。もし、オレがグリーンだと言うのなら、今安穏と眠っている彼女は「オレンジ」だろう。
つまりは、光。自分を植物だと例えてくれるのならは、自分を照らす太陽だ。

「植物は、太陽の日を浴びないと、空気を作れないのだから。・・・だから」

オレがこうして穏やかに居られるのは、お前のお陰なのだよ。・・・呟くように落す。
そうして数度柔らかな髪の毛を撫でた後、から己の手を放した―――筈、だった。
ぐい、っと突然握られた掌。数度瞳を瞬かせると、いつの間に起きたのか、がへらりと笑った。

「・・・起きて、いたのか?」
「そりゃあ・・・あたしだってハンターの端くれですから?・・・近づかれたら起きちゃいますよ」

ドッキリ成功!と言った風に笑うにオレは呆れたようにため息をつけば、彼女がベッドから起き上がった。
それからまた、にこっと笑うのだ。頬はどこか赤らんでいる気がする。きっとそれは気だけではないのだろうが。

「へへへ、」
「・・・なんだ?」
「うん?ううん。ただね、クラピカがそんな風に思ってくれたことが嬉しくて」

しまりのない笑顔で笑うはどこか実年齢よりも押さなく見える。
そうして褒められた子どものように純粋に微笑んだ後、ぎゅっとクラピカに抱きついた。
突然縮まった距離に驚きはするものの、嫌な感じは全く無い。寧ろ耳元で聞こえるに安心する自分がいることにクラピカは気づいた。

「クラピカが緑で、あたしがオレンジ、かあ・・・。ふふ、相思相愛だね!」

そうして今日も、その笑顔で自分を照らしてくれるのだ。





― Fin





あとがき>>わけわかりません。久しぶりにHUNTER書いてみたけど、難しいですね。自分見る専門なのかも(><)
2007/06/03