時刻は、夜の10時過ぎ。ふとケータイを眺めて想うのは、彼の事




唯、想フ

君恋し、春




最近使用頻度の高くなった携帯を見つめて、かれこれ数分…いや数十分は時が経ったと思う。受信メールは来ていないのに、何度も何度も携帯のメールフォルダを開いては、とある人物のメールばかり眺めてる。受信者名は「斎藤一」私の携帯の使用頻度が高くなった理由の人物である。筆不精(メール不精?)の彼は殆ど自分からメールしてくれる事はないものの、私の他愛もないメールにちくいち返事を返してくれる。そのため、今やメアドを知ってる誰よりも多くメールしている―――その彼との関係は俗に言う、恋人同士だった。

一番最新のメールをさっきも見たと言うのに、また莫迦みたいに開いて、目に焼き付けるように見つめる。文面は先ほどみたのと変わらない。「ゆっくり休め」の一言。そう、このメールで今日のやり取りは終了だと言う彼なりの合図だ。そっと携帯の画面を手でなぞる。絵文字も全く使わないそっけないメール。いつもならそれだけでも全然嬉しいのに。…心の中はもやもやした気持ちでいっぱい。なんか、すっきりしない。このまま終わりなんてヤダって思っちゃって。…更に数分後、私は葛藤の末、決めた。
メールを閉じると、続いてアドレスを開く。そして先ほどの受信者の名前の行まで辿っていって―――表示したのは、彼の携帯番号。それを数秒見つめて、私は思い切って通話ボタンを押した。そっと携帯を耳元にやってくると、ややあって、トゥルルルル…と無機質の呼び出し音が鳴った。最近では待ちうたとかあるのに、彼はそんなの使わない。前、そうゆう話をした時に「使う意図が不明だ」とか至極真剣に悩んでいた気がする。そんな姿に生真面目だなと呆れ半分でもそんな姿すらも愛しいとか思っちゃって。
とかなんとか思っていた間に、呼び出し音が途切れ、続いて低いその声が私の鼓膜を刺激した。

?どうした』

今日のやり取りはもう終了だと思っていたんだと思う。その声は本当に不思議だと言う風な声色だった。緊張が走る。言え、言うんだ。コクリ、と生唾を飲み込んで、私は先ほどからずっと思っていた気持ちを口にする。

「斎藤さん、逢いたい、んですけど」

・・・・・。

きっかり五秒の沈黙が私と彼の間に流れた。この後に来るものが何か、何となく…想像付いた。はあ。と大きなため息が聞こえる。ああ、やっぱり。そう思ったけれど、でもどうしても逢いたくなって仕方なかったんだもん。こうゆう、恋する気持ち女の子なら誰にだってあると思う。呆れたままの斎藤さんに、また「…逢いたい」と控えめに、言ってみる。すると、また大きなため息が聞こえた後

『今何時だと思っているんだ』
「夜の10時ですけど」
『ああ、それはちゃんと分かっているようだな』

何気に莫迦にされた…?そう思ったから「もちろんわかってますよ!」とちょっと言い返すように言うと、三度のため息。それから紡がれる低い声。

『俺はゆっくり休めと先ほどのメールに打った筈だが』
「今時10時に寝るなんて、小学生でもいませんよ」
『だからと言って決して早い時間帯ではない筈だ。なのに会いたい等と、常識に欠けると思わないのか』

厳しい口調。もっともな物言いに私はぐっと言葉を呑み込んだ。斎藤さんの言う事はいつも正論だ。正論だ、けど…でも、たまにはそんな正論覆すようなことがあっても良いと思う。それに、恋愛は正論ばかりでなりたつものではないと思うのだ!時には、情熱的に愛を育むものだ、といつぞやの映画でもやっていたと思う。

「…だって、逢いたいんだもん」

でも強く言えないのは、惚れた弱みだ。あまり強く言って、嫌われたくない。でもだからと言って諦めたくないと言う頑固さもあって。やっぱり控えめに主張すると、今度は小さく斎藤さんがため息をついた。呆れすぎじゃない、ですか?しゅん、と電話越しに縮こまってしまう。でも「やっぱり良い!」とは言えなくて、

「…そりゃあ、我儘言ってるって、わかってますよ?でも…やっぱり私は斎藤さんの事、大好きですからちょっとでも逢いたいなーとか、思っちゃうんです。…斎藤さんにとっては負担かもしれないですけど。でも、こんな非常識な時間に会いたいって思っちゃうくらい、斎藤さんが好きなんです」

すっごく、すっごく好きなんです。

ぽそぽそとだんだんか細くなった声は、最後まで斎藤さんに届いたのかはわからない。そのあとに流れるのは沈黙で、少々、気まずい。なら言わなきゃ良いのに。いつも私は選択ミスをするのだ。言って後悔するなら言わなきゃ良いのに。さすがにヒかれたかもしんないとか重い女とか思われたかも!とか不安がどんどん押し寄せてくる。これほどまで沈黙が痛いと感じた事はない。すう、と受話器越しに、斎藤さんが息を吸うのがわかった。次に発せられる言葉が別れのセリフだったらどうしよう!そんなの聞きたくなくて、ぎゅっと瞳を強く閉じた。すると、「莫迦か」と、一言。…でもその声はいつもよりも温かみがあって…どこか、優しさが含まれているのが、わかった。

「え」
『…いくら4月になったからと言ってこんな時間に外出して、危険な目にあったらどうする。また暦の上では春だと言ってもこの時期の夜風は刺すように冷たい。風邪でも引いたらどうするんだ』

これは、私を案じてくれて、る?…口下手なのに、一生懸命喋ってくれる彼の言葉が、胸に浸透していく。

『風邪をひいたら、明日逢えないだろう。だから、今日のところは休め』
「で、でも」

それでも逢いたいんです。てゆうか、そんな優しい事言われたら、余計に逢いたくなっちゃうよ!
言いたかったのに、それを言わせる前に、斎藤さんの言葉が更に続く。私を呼ぶ声が、咎めているはずなのに、やっぱりどこかそこには愛情があって。

『…逢いたいのは、俺も同じだ。それとの事を負担等と感じた事は一度だってない。お前も変な勘違いをするのは寄せ』

聞こえてきたのは、この上ないくらいの優しい声と、不器用な愛情。ああ、もう…。

「……ズルイ」
『……何がだ』
「だって、そんな事、ゆわれたら…我慢するしか、ないじゃないですか…っ」
は少し我慢を覚えろ』

ほんとは今でもすっごく逢いたいけれど、でも

『きちんと俺もお前の事を好いている』

逢うよりも、貴重な言葉が聞けたから、今回は我慢してあげようと思う。

「斎藤さん!」
『なんだ』
「愛してます!」

今日も貴方の事を想って眠るから、だからあなたも私の事を想って眠ってね!





― Fin





あとがき>>四月馬鹿盛り上げよう企画その2!初書き斎藤さん!…む、むじかしい…!
2010/03/29