こんなこと言ったらきっと、ハリーは怒るだろうけど。
 でも、あたしは思うんだ。それはきっと、必然だったんだよって。





   君 の 離 で と ル ン ッ

    と 距 ま あ マ セ チ





 針谷幸之進との出会いは、本当に偶然だった。(でもきっと必然だったんだって思う)それは、入学式を終えてだんだん学校にも、友達にもなれてきた頃のこと。
 その日は、課題物を机の中に入れっぱなしにしていたことに気づいて、友達に謝って一人で学校に戻ったときのこと。
 きっと、そうなることは必然だったんだと思う。
 もうあと十分もすれば家につくって頃になって思い出したそれに、ああもうついてないなぁなんて思いながらため息を一つついて学校へとリターン。そんなプリント一つ、無視すればよかったのかもしれないけど、その日に限ってその課題に自分が当てられていたことを思い出せば、引き返さざる得ないと思う。
 忘れ物忘れ物!と頭の中で繰り返しながら、自分のクラスまで足早に滑り込んで、今現在使っている自分の机の中をごそごそと探ってみれば、ああやっぱり。少し萎びれたプリントがあたしの前へとご対面。
 見つけて一安心。さあ、帰ろう。帰って宿題を済ませて隣の家の子――遊くんと遊ぼう!そう思ったあたしは乱暴に、でも決して破れないようにそのプリントを鞄の中に仕舞いこんだ。
 帰りは一回目と違って、一人で通る帰り道。ちょっと寂しさを感じながらも、足は玄関の方へと向かうはず、だった。
 何せ、夕陽が既に傾いていて、部活動をしている人以外いないから校舎内は凄く静かだ。今日に限って吹奏楽部は部活を中止していることを思い出した。
 静か過ぎる、のだ。怖いほどに。一人の学校ほど怖いものはない。と思う。

 「お、おばけなんてなーいさ、おばけなんてうーそさ!」

 幼少時代、夜怖くなったときに唄っていた子ども歌を思い出して口に出して唄う。でもそんなの気休めにしかならないってわかりきっているから、あたしは出来る限り足を早く動かした。
 そんな、時、だった。

 遠くの方で、あのメロディーが聞こえてきたのは―――。

 一瞬本気でデタのかと思ったあたしの胸はドキっと跳ねたのがわかった。でも、そんな怖い思いなんかなく、何ていうのかな。…優しいメロディーで。そのメロディーの出所を無意識に探している自分に気づいた。―――此処は、三階のとある廊下。その優しい曲調は、上から聞こえてくるようで。上と言えばもう一つしかなくて。…でもそこは一般性とは立ち入り禁止の場所のはずで。
 色々考えてみるけど、結局最終的にはあたしの足は立ち入り禁止の、その場所へと向かっていた。
 案の定、そこへの入り口の前には、「立ち入り禁止」とゴシック体で書かれたプレートが掛けられていて。ああ、やっぱり。なんて思っていたけど、やっぱりさっきよりも聞こえる音楽。廊下で聞こえたときには音楽だけだったそれには、どうやら歌詞がついているらしい。……その音楽には微かだけど、男の子の声も混じって聞こえた。力強いその音調に心が弾むのが解る。…あたしは今、凄くドキドキしている。
 恐る恐るドアノブに手をかける。―――気分は、悪いことをしようとしている子どものようにドキドキした。内緒だよ、って言われたことを聞くときみたいにワクワクしていた。
 この扉を開けば、全てが解るんだ。宝物のある場所までたどり着いた勇者みたいな気持ちに胸躍らせて。

 ―――かちゃ、と扉を開いた。
 そして、目に映るのが、ギターを持って楽しそうに歌う、ハリーの姿だった。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 「やっぱりここに居た!」
 「おっす、

 かちゃ、とまるで自分チの玄関みたいな軽いノリで、扉を開ければ、案の定探していた主は簡単に見つかった。おっすと返事されたから、同じように「おっす」って言いながら彼の名前を呼ぶ。ハリーはあたしが来たためか、一旦ギターを弾く手をやめてくれていた。あたしはハリーの横に腰掛ける。
 そうすれば、ハリーがまたギターを弾き始めた。でも、それはただの音慣らしにしか過ぎない。これをするのはもうあたしとハリーが知り合ってから随分前からの習慣だ。

 「今日はさ、昨日ライブで弾いてた3番目の曲が聴きたいな」

 そして、あたしがこのようにハリーに弾く曲をリクエストをするのも、もう大分前からの習慣だ。にこっと笑いながら言い寄れば、ハリーがああ、あれか。と納得してくれる。それから何度か音出しをして、曲を弾き始めた。
 ハリーの指によって、メロディーが奏で出される。
 ラブソングらしいそれは、しっとりとしていて、どこか優しい曲調だ。
 その音調に目を自然と閉じれば、その音調が更にすうっと耳に入ってくる。
 ハリーはメロディーに歌詞を乗せる。悲しくも切なくも甘いその言葉達は、本当にこのメロディーにあっていると思った。
 アガリ症で有名なハリーだけど、あたしの前では何故かそれはない。彼の最大のコンプレックスで、プロを目指すうえで避けては通れないそれをあたしの前では感じさせない。
 …ハリーには悪いけど、ちょっと嬉しかった。だって、あたしだけは特別だって言ってくれてるような気がしたから―――。他の誰かじゃ駄目なことがあたしは大丈夫って言われてるみたいで嬉しかった。

 音楽はテンポ良く進んで最後の最後まで穏やかな曲調に終わった。
 ギターの音が止んで、ハリーがふうっと息を漏らす。あたしはそれを訊いてパチパチと拍手を送った。

 「良かったよ」

 そういえば、ハリーの顔がちょっと紅くなる。それからペシっと軽く額を叩かれて。痛って言えば、ハリーがそれを遮るように口を開いた。

 「俺の作った歌なんだから良いのは当たり前だって何度言ったらわかんだよっ!」


 …真っ赤な顔して怒ったように言っても説得力ないよ、ハリー。


 心の中でハリーに忠告。…解ってる。一見怒りんぼに見えるけど、一見どっかのナルシストとか、キザ男に見えるけど、全部それが彼の照れ隠しだってこと。あたしはハリーの台詞にはいはいって適当に相槌を打って、次の曲をリクエストする。ハリーはあたしの適当な返事に納得がいかないみたいだったようで「無視かよ」とかなんとか言っていた。けど、それもすぐのことで、あたしがリクエストした曲を弾く準備をしているのがわかった。



 「…ここで、さ」

 曲を弾きながら、ポツっと呟いたのは、ハリーだ。あたしはギターの音に消されそうになっている彼の言葉を何とか拾い上げて、うん?と問いかけるように声を出す。頭を傾げれば、ハリーがちらっとあたしのほうを一瞥したのがわかった。

 「と会って、もう2年に以上も経つんだよな…」
 「そうだね」
 「あんときはさ、なんかうぜーのが来たくらいにしか思ってなかったんだよなぁ…」

 音楽が響き渡る中に聞こえたハリーの本音に「ええ!」と大声を出せば、ハリーがあたしを見てから「待て待て」と制止するを出した。あたしはしぶしぶと口を紡いで、ハリーの言葉を待つ。…自分でリクエストしておきながら、もう音楽なんかそっちのけだ。
 じっと見つめていると、ハリーが瞳を閉じた。

 「初めて会った時凄いね!なんて純粋にはしゃいで、なんだコイツくらいにしか思ってなかったし、初めて遊びに行ったときなんか、面倒極まりないって感じで結構酷い態度とってたにも関わらず、お前全然めげずに俺に話しかけてくるし…ほんと、暫くは変な奴とか、ばっかじゃねぇのとか思ってた」

 …やっぱり、あの態度は良く思われてなかったんだ…。ハリーの言葉にショックを隠し切れなかったけども、何もいえなかった。まだ続くハリーの言葉を遮ってはいけないって、思ったからなんだと思う。コクン、コクンって無言で肯きながらハリーの声に耳を傾ける。
 いつしか、ギターの音は止んでいた。…いつの間にか終盤に差し掛かっていて、メロディーはそこで終わってしまったんだろう。

 「だけどさ、今はお前といるのが当たり前っつーかさ…反対にいないと落ち着かないって言うかさ」

 続いたハリーの言葉に、あたしの心臓は跳ねた。いや、まあ…いつの間にかハリーが心を許してくれるようになったのはなんとなく気づいてたけど、改めて言葉にされると照れた。かあ、と顔が紅くなるのが解る。

 「大人しいかと思ったら、結構子どもっぽいとこもあるし、…初めは何とも思ってなかったのにさ。…今じゃそういうとこ、好……」

 そこまでテンポ良く舌を回していたハリーの声が急に止んだ。ん?と首を傾げると、さっきまで普通だったハリーの顔が、真っ赤に染まる。え、何、その反応。酢?ってあたしが言えば、ハリーはなんでもねえよ!となにやら慌てながらまくし立てた。

 「…その反応気になるんだけど!言いかけてやめないでよ」
 「あーーもうっ!何でもねぇったらねぇんだッ!」
 「何でもなくないじゃん〜ねえ、何ていおうと思ったの?」
 「すっ呆け!!」
 「す、すっ呆け?!」
 「そうすっ呆けてやるよなあって言おうと思ったんだよ!」

 それから、あーもう、この話は終わり!とハリーが言って、この話は終わりになった。結局最初から最後まで貶されて終わった気がする。納得がいかないといった風に、口を尖らせて恨みがましくハリーを見れば、やっぱり彼の顔は少し紅く見えた。…なんですっ呆けって言うのに顔紅くさせるのよ…。

 「で!次は何弾いて欲しいんだよ!このハリー様がわざわざ弾いてやるんだからありがたいと思えよ!」

 でも、きっとその答えは教えてくれないだろうから。…仕方ないから気づかないフリしていてあげる。

 「えっとねー、じゃあ!only you歌ってよ!」



 まあ、すっ呆けだろうと何だろうと一生に居られることがすっごく嬉しいし、こうしてあたしのために唄を歌ってくれるのが何よりも嬉しいから。
 今日のところはよしとしよう。

 今日も晴れ晴れとしたいい天気の下、ハリーの歌声が空に響いた。





 ― Fin





 あとがき>>ハリー大好きです。勢い余ってGS2書いてしまったけど!口調はでたらめです。うう、わからん!でもハリー大好きだっ!

2006/10/04