委員長とあたし




二泊三日の合宿は、まあ色々あったけど無事終わりを迎えた。結構ハードだったと思う。朝六時に起床だったにも関わらず結局一日目の夜も二日目の夜もはしゃいでしまって、睡眠時間はかなり少なかった。いい思い出にはなったけど。

そして、一日だけお休みを挟んで、月曜日、今日は日直の仕事だったから早めに学校に向かっていた。そしたら、前の方に見覚えのある後姿を発見して、駆け足で近づくと、あっちが気づいて振り返る。あ、やっぱり委員長だ。「おはよ!」って声をかけたら、委員長もおはようって挨拶をしてくれた。なんだか、嬉しい。
今までだって委員長と挨拶はする仲だったけど(委員長は分け隔てなく皆に厳しくて優しい)でも言い方変えるなら、挨拶しかしない仲だった。別にお互い嫌いあってるわけじゃなかったけど(少なくともあたしは、嫌いじゃなかった)特別話をする子って言う部類じゃなかった。だから、あの合宿で同じ班になって、色んな面を見れてそれからこうして普通に話せるようになったことがすっごく嬉しい。
へへへ、って笑ったら、「何がおかしいの?」って委員長が不思議そうな顔をした。あたしはそれに「なんでもない!」って言ってから、話題を変えて「今日委員長何か予定あるの?」って聞いてみた。だって、まだ結構早い時間だ。でも日直はあたしだし、もう一人は男の子。日直以外に早く行く仕事あったっけ?って不思議に思ったんだ。そしたら委員長の答えは「ううん」って言う否定。

「私、いっつもこれくらいの時間に行ってるから」
「はやい!」
「…さん遅いもんね」

純粋に驚いたら、クスクス笑われてしまった。でも確かに委員長の言うとおり、あたしは遅かった。遅刻はしないけど、いっつも8時20分くらいの時間に学校に着くって感じ(始業のベルが鳴るのは30分だ)すごいなあ、委員長。純粋に尊敬してたら「それにこれも早く活けてあげたかったし」と、左手をあたしの方に近づけた。今まで気づかなかったけどその手にはお花が握られていて。

「わ、きれい!これ、どうしたの?」
「お花屋さんからね、時々貰うの」

そう言われて、うちのクラスのかびんに花が活けてなかったことが今まで無いことに気づいた。もしかして委員長、いっつも持ってきてくれてたの?先生かと思ってた!って驚いて声をあげたら、委員長の顔がちょっと赤くなるのがわかった(あ、多分照れてる)「たまたま、だよ」それでもすごいって思う。

「ほんと、委員長尊敬しちゃうよ」
「尊敬なんて…からかわないでよ」
「からかってないよ!ほんとすごいことだと思うよ!」
「もう、さん!」

ほんとにほんとにからかうとかそういう気持ちなんて全然なかったのに、委員長がちょっと怒った風にあたしを呼ぶから、あたしは口を閉じた。もう、って言いながら口の先をちょっと尖らせてる委員長を見つめる。もしかして嫌だったのかなーって思ったのは一瞬で、やっぱりその顔は赤くって、照れてる、んだと思う。でもそれを指摘したら絶対委員長は怒るから黙ることにする。だんだん委員長の性格がわかってきて、友達だなあって実感がわいてくる。「えへへ」また、無意識に笑みがこぼれた。

「もう、なんなの。さっきからさんっ」
「ううんー!」

いぶかしげに見つめる委員長にふるふると頭を振って、あ、って気づく。今の委員長の台詞を頭の中でリピートさせて、ん?って不思議に思ったから「ねえ」って委員長に問いかける。

「なに?」
「今委員長あたしのこと」
さんのこと?」
「うん、それ!」
「え、どれ?」

そう、気になったのはそこだ。てゆうか、いまさらだけど!ピンって指を立てて指摘したら、え?って委員長は何がなんだかわかってない様子だったからあたしは「なまえ!」って単語を吐き出す。そしたら繰り返し委員長が不思議そうに言葉にするので、あたしはもっとわかりやすいように説明しだす。

「うん、すっごいいまさらなんだけどさ、さんって何かよそよそしくない?あたしのこと、仲のいい子は下の名前で呼んでるからって呼んでよ」
「え、さんのこと?」
「もー!さんじゃなくってだってばー」

だってせっかく友達になったのに、いつまでもさんなんて他人行儀過ぎる。友達なんだから(少なくともあたしは委員長のこと友達だって思ってる)名前で呼んでくれなきゃやだよっ!そう軽口(でも心の中では本気)で言ったら委員長は黙り込んでしまった。え、もしかして、嫌だったのかな。友達だって思ってるのあたしだけ?不安になって、「いい、んちょう?」って委員長の顔を覗き込んだら、委員長と目がバチって合って、すってそらされた。え、ちょっと軽くショックだよ…!

「…それ、言うなら」

それから聞こえたのは小さな小さな声。「ん?」って耳をすませれば、委員長が言葉をつむぐ。

さんだって…私のこと名前で呼んでくれてないじゃん」

………、小さな小さな声だったけど、独り言っぽいぼそぼそ声だったけど、ちゃんとあたしの耳には届いた。え、えっと…?今度はあたしが考える番。そしたらあたしが答えるよりも先に、委員長が「べ、別に私は今のまんまでかまわないけどね!」って何かムキになっていう。
えっと…もし、かして。

「名前で、呼んで良いの?」
「いや、だから別に今のままでも…!ただ、さんが私に名前で呼べって言うなら、フェアじゃないかなって思っただけで別に」

じっと見つめていると、委員長がいっつもはきはきした声なのに、今は頼りなさげな声でごにょごにょ言う。うぬぼれじゃないなら、委員長もあたしと同じ気持ちなのかなって思ったら、すっごく嬉しくって。

「うん、よろしくね!ちゃん!」
「………うん、よろしく、………ちゃん」
「あは!別に呼び捨てでも良いよ!それならあたしも呼び捨てで呼ぶし!」

そんないつもと違う早い登校中の出来事。










2009/01/08

一部実話。あたしの場合、なかなか名前呼んでもらえなかったんですけどねー(笑)