君に届かないアイラブユー




「え?花火大会?」
『そ、もちろんも参加するだろ?』

夏休み真っ只中、突然の加護嶋君からの電話にも驚いたけれど、その内容は更に驚くべきものだった。花火大会、と聞いて思い浮かぶ日は今日しかない。あまりの唐突な事にあたしは困惑して、すぐに返事が出せなかった。と言うのも、今日の花火大会はすでにと約束しているからだ。クラスの団結力を深めるためにもと言われたらむげに断る事も出来ずに、とりあえずと約束しているから、行けるかどうか…と言う風な事を話して改めて掛けなおす事を約束して切った。そして、慣れた手つきでのおうちの電話番号を打ち終えると、受話器を耳に当てる。三度目のコール音の後、聞きなれたソプラノの声が聞こえて来て、あたしは事の顛末を話して聞かせた。

『ああ、その連絡なら私のところにもきたよ』

で、にも連絡しようかと思ってたところ。続きを聞いてみると、まあ今回は新1年生って事だし、一応クラスに慣れておくために参加しておこうって事になった。「そっか、それにまた学級委員長だもんね」クスクス笑って言ったら、『そうだよねー。クラス長が参加しないってのはさすがにアレなわけよ』って至極面倒くさそうな声が返ってきたけれど、でも知ってる。がそう言うの何気に好きな事。とりあえずと今日の花火大会の話をまとめると、あたしは最後に最終チェックとして時間と場所を聞いて、電話を切った。それからまわしてくれた加護嶋君の電話番号を連絡網から探して、かけると、すぐに本人が出て来てくれて、今回の参加をOKすると加護嶋君が電話の向こうで楽しそうに『そうこなくっちゃな!』って笑ったのが聞こえた。



★★★



カラン、カラン、自分の奏でる下駄の音を聞きながら、あたしは慌てて早歩き。左手につけた時計を確認すると、あとちょっとで約束の時間。ヤバイヤバイっ。きつけに時間がかかったって言うのもあるけれど、すごい人でなかなか前に進めなかったのだ。時間に厳しいのことだから、きっともう待ち合わせ場所についてるに違いない。そう思うと、これ以上待たせたくなくて、あたしは転ばないようにでも出来るだけはやく走った。人ごみはまだまだ続いてる。

「う、きゃあ!」
「あぶなっ!」

気をつけていたにも関わらず、足が縺れて、こけそうになってしまった。けれど、こけようとする身体とは反対の方から腕を引っ張られて、なんとかこけるような事はなかった。あ、ありがとうございますっ。引っ張ってくれた人の方を見つめると、「と、しちゃん」寿ちゃんの姿があった。「全く、浴衣着てるときくらい走るのはやめたら?」クスクスと寿ちゃんが笑った。その笑い声が、なんかちょっと…違和感。それを黙って見ていると、寿ちゃんが「?」って不思議そうな顔するから、あたしは戸惑ってしまった。「あ、ち、違うの!あの…その」

「なんか、寿ちゃんの声、違うって思って」
「…あー…なんか、変声期、みたいなんだ。最近声の出がおかしいなって思ってたんだけど」
「へ、んせいき…」

寿ちゃんの言葉がなんだか、不思議だった。そりゃあ中学生になったんだもん。そうなってもおかしくないことくらいは、保健体育の時間でならってはいた、けど。でも…実際そうなって見ると、なんか不思議な感覚。ぼんやりと見ていると、寿ちゃんがまたクスリと笑って「…声変わりのことだよ」なんて言うから、う、わあたしどんだけバカだと思われてるんだろう!って思って、顔が熱くなった。「し、知ってるよっ!それくらい!」思いっきり反論して、寿ちゃんの胸をぽかぽか叩く。そんなあたしを軽くいなした寿ちゃんは(さすが、慣れてる)「ほら、早く集合場所行かなきゃだろ?」って、あたしの背中をぽん、と支えた。

「あっ、そうだった!待たせてるんだった!」
「だからってほら、走るとまたこけるよ」
「うっ」

そう言われて、前科があるからあたしは走り出すのを辞めた。どこで待ち合わせてるの?そう言われて、あたしは中央の噴水の下。って言うと、寿ちゃんは「じゃあこっちから言ったほうが早いよ」って人込みから外れた。え、ちょっと待って!慌てて追いかけようとしたけど、あっというまに人ごみに阻まれてしまって、寿ちゃんと離れてしまう。なんとかあたしも人ごみから抜け出そうと試みるけれど、人の波に逆らう事が出来ずにどんどん寿ちゃんから遠ざかってるような気がする。「う、あ!寿ちゃん!」すると、ぐいって腕を引っ張られて、「えっ」って思うと同時に、ボスンって誰かの胸にダイブした。さすが寿ちゃん!そう思って「ありがと!」って笑って見上げると

「君、一人でこんなところ危ないよー」
「………え、あの…」

知らない、男の人。多分あたしより全然年上。高校生、くらいの人。一瞬困ってしまったけど、でも助けてもらったことには変わりなくって、あたしは慌ててお礼を言った。すると男の人は「良いってー!」とやっぱりにこにこ笑った(ああ、良い人で良かった!)「あ、じゃああたしこれで」つられて笑ったら、「あ、待って」ってまた腕を引っ張られる。えって思って振り返ると「一人は危ないって言ったろ?俺が連れてったげるよ」って。その申し出はありがたかった。けど見ず知らずの人にそんなのお願い出来るわけもない。

「あ、でも…良いです。一緒についてきてくれる人、近くにいると思いますし」
「まあいいから良いから。ね」

あたしの話を聞いているようで聞いてないみたい。にこにこ笑った顔は変わらないままだけど…なんかちょっと苦手な感じ。困っていると、そんなの関係なしに男の人はあたしの肩に腕を回してきて、ぐいって引き寄せられる。これはいわゆる、恋人同士がするような、アレ。全く知らない人がこんなに近くにいることに軽くパニックになる。「あ、あの!」なんとか押し返そうとしたけれど、でもびくともしない。ど、どうしよ。「あの、気持ちは嬉しいんですけど…あの、でも」「まあいいからいいから」うーどうしよう…。善意で言ってくれてる、気はするんだけど…。

「いいから、じゃないんですけど」
「…寿ちゃん!」

すると、ちょっと不機嫌そうな寿ちゃんの顔。でもそれは一瞬の事で、すぐに笑顔になると「面倒見てくれてありがとうございます。もう大丈夫ですから」そう言って、あんなにあたしが押してもびくともしなかった身体をあっさりと離してしまった。男の人を見ると、「ちぇ」って言いながら、人ごみの方に消えていく。

「…何、やってんの」
「…う」
「知らない人にはついていっちゃいけないって習っただろ」
「そ、それは誘拐の話でしょ?」
「同じようなものだよ。あんな典型的なナンパに引っ掛かっちゃって」
「ち、違うよナンパじゃないよ。あたしが人ごみでおろおろしてるところを助けてくれたんだよ。それで、一緒に友達探してくれるって」
「それがナンパだって言ってんの」

さっきの笑顔とは別人のように、寿ちゃんはまた機嫌が悪くなってしまった。なんか、言葉の端々が冷たい。…てゆうかなんでこんなことでケンカしてるんだろう。てゆうかなんでこんなことで寿ちゃんは怒ってるの?意味わかんない。そう思ったら、あたしもなんかイライラしちゃって

「寿ちゃんが、悪いんじゃん」
「は?なんで」
「寿ちゃんが、急にいなくなっちゃうから!」

一人で、ちょっと心細かったって言うのに。そう言ったら、寿ちゃんは呆れたような顔をした後、ふうってため息をついて…それから「…しょうがないなあ……」言いながら、あたしの方に左手を差し出した。えって見上げると、「はぐれると僕の所為になるんでしょ?だったら手繋いだ方が良いんじゃない?」正論、だ。たしかにあたしの言った事はそう取られても仕方ない。…じっと手を見つめていると「ああもう。ほら、委員長待たせてるんでしょ?急がなくちゃ」そう言って、あたしの動きを待たずして、寿ちゃんがあたしの手をにぎった。……なんか、不思議な気分。小学校の時は気にならなかったのに、なんか…別の人の手みたいだ。あたしより大きくなった手のひら。でもあの頃と変わらず、豆だらけの手。

「ほら!急がないと花火はじまっちゃうよ!」
「ええ!もう!?」

繋いだ手を決して離さないように、集合場所にたどり着いた頃には、結局ケンカしてたことなんてすっかり忘れてしまっていた。










2009/08/29
結局何が書きたかったのか。ただ、ナンパさせたかっただけ。時間軸的に、携帯持ってない設定です。今では当たり前の携帯ですが、あたしが中一の時は持ってる子はほんと一人二人だった。だから時計をしてるのです。てか、やっぱ携帯ないと不便だね。連絡こうゆうときとれないもん。