河川敷で交わしたキャッチボール




小学校一年生になってちょっとたってからのこと。がっこのかえり道、仲のいいお友だちとバイバイして、おもたいランドセルをせおって下校中。ランドセルをよいしょってせおい直したら、初めてランドセルをせおってママに見せた時のママが「これじゃあどっちが背負ってるのかわからないわね」って言ってた言葉を思い出して、一回ちらっとランドセルを見た。…ふつーにあたしがせおってるもん。ぜんぜん可笑しくなんてないんだからっ。むっ、っとママの言葉に思い出し怒り?して。あたしおねえちゃんだから大丈夫だもん!って心の中で強く思って、鼻唄を歌った。あたしがまだ幼稚園のころにいたときのマラソン大会で流れてた曲。あたしの大好きな曲だ。ふふーんふーんってちょっと音ちがうかな?って思っても気にしない。

「えい!」

そんなときだった。下の方から、あたしの歌をじゃまするような声が聞こえてきたのは。好きな曲をじゃまされてむってなって、一体どこから聞こえてくるの?と探したら、また「えい!」って声。…かけ声?おそるおそる声のするほうへ行くと、一人の男の子がボールを壁に投げてる。何やってるんだろ?見たところ、あたしと同じくらいの背格好の男の子。
何回か男の子の投げて取って投げて取ってを繰り返し見てたら、ちょっと自分もやりたくなってきて「ねえ!」って大きな声を出してた。そのときにやっと男の子はあたしに気づいたみたいで、え…ってちょっとビックリした顔。最後に投げたボールがコロコロ転がって、あたしと男の子の間で止まった。どっちかと言えばそれはあたし寄りだったから、白いボールを手で取って、男の子に向かって投げた。ふわふわ〜ってちょっとよわっちい感じでボールは空を飛んだ後、男の子の茶色い皮の何かの中にポスンって入った。

「ね、一人でやってるの?」
「う、うん」
「一人でやってたのし?」
「え…ううんと…」

困った様子の男の子に、「友だちいないの?」ってぱっと浮かんだ不思議を口に出したら、男の子はぐって口を閉じちゃって、あ、またあたしいらないこと言っちゃったかもしれないって思った。口を両手でバシって封じたけど、もうおそいってわかってる。次に言わなくっちゃダメなこともわかってる。「ご、ごめんね」人をキズつけた場合は謝らなくっちゃダメって、幼稚園の先生も言ってたし、ママやパパも言ってた、それに今のがっこの先生にだって言われてること。素直に謝ると、男の子はフルフルって頭を横に振った。それから、茶色い手ぶくろ(なのかな)からボールを取って、じって見てる。

「一緒にやってくれる友だちいたけど、引っ越しちゃったから」

ポソポソっと言った男の子の声と顔はすごく悲しそうで、ぎゅーってあたしの体の真ん中ぐらいが痛くなった。じっとボールを見たまま動かない男の子の前に立って、(あ、もしかしたらあたしのほうが身長高いかもしんない)男の子の手からボールをうばいとった。「あっ!」って男の子が大きな声を出す。それにペロってベロ出して

「じゃああたしがお友だち第二号になったげる!これ、やきうって言うんでしょ?」
「やきうじゃないよ。やきゅうだよ」
「やくう?ま、ま、どっちでも良いじゃん!とにかくー!あたしがやきう友だちになったげるよ」
「え」
「一人でやきうなんてつまらないじゃん」

ね?って言って、ボールを持ったまま男の子からちょっと離れたところで、男の子に向かってボールを投げた。てい!って言ってボールがさっきとは違って、ぜんぜん男の子とは別のほうに行っちゃって、壁にぽん、って当たった。

「むむ…けっこー難しいこれ」

んーって言いながら男の子がボールを取りに行くのを見てたら、男の子がボール拾って、あたしのところにきた。それから、これ貸してあげるよって茶色い手ぶくろをあたしに持たせる。「なあにこれ?」って聞いたら「グローヴだよ」って教えてもらった。匂ったら臭くって顔をしかめたら男の子が笑った。

「あ、」
「え?」
「笑った!」

なんだかそれが嬉しくってあたしまでにかって笑ったら、男の子はえ?ってわけがわかってないみたいだった。でもだって笑ったんだよにこって。はじめてなんだよあたしに笑ってくれたの!ってこうふんして言ったら、男の子の顔がちょっと赤くなって、「と、とにかく…それつけてね。危ないから!僕、もうひとつ持ってるから」ってせっかく笑ってた顔隠しちゃうからちょっと残念だって思った。「この手袋どーやってつけるの?」「手袋じゃないよ、グローヴだよ」「むっ、グローブ!どーやってつけるの」つけ方教えてもらって、よっしこーい!って言ったら、ちょっと離れたところから今度は男の子があたしに向かってボールを投げてきた。あたしとは違ってまっすぐにあたしのほうに落ちてくるボール。

「わ、わわ!」

慌てて取りに行ったけど、それはさっきの男の子と同じように茶色い手袋…じゃなくってグローブには入ってくれなくて、ポトンって下に落ちた。…ちょっと、くやしい。むってボールを拾い上げて、男の子のほうに投げる。へろへろ〜って、男の子とはぜんぜん違うボールの飛び方もすっごくくやしい!そのヘロヘロだまを男の子は簡単に拾ってくれちゃうから、さらにあたしはムキになって遊んでしまった。



★★★



どれくらい時間が過ぎたのかな。気がつけば夕焼けこやけの音楽が流れてて、わ!帰らなくっちゃって言ったら、男のこの方もあ、僕も!って慌ててて。あれからちょっとはボールの投げっこ(キャッチボールっていうんだって)じょうずになった。

「ね、明日もまた会える?」

って聞いたら、男の子はビックリ顔して、それからうん、ってちょっとだけ笑った。それが嬉しくって、「じゃあまた明日もここでね!」って小指を男の子の前に出した。約束の指きりげんまん!って男の子の小指にからめて、「ゆーびきーりげーんまーんうーそつーいたーらはーりせーんぼーんのーます!」

「ゆびきった!」

ニコって笑ってゆびが離れる。じゃあまたね!壁においてたランドセルをせおって、バイバイって手を振って、あ。そういえば…って思って反対方向に帰ってく男の子にまた振り返って「ねえ!」って大声で呼んだら、あっちも振り返って「なにー?」って言うから、「名前!」って叫んだ。

「そういえば、名前、聞いてなかった!あたしってゆうの!」
「あ…」
「君の名前は?友だちなのに名前知らないなんて変だもん!教えてー!」
「さ…佐藤、寿也、だよっ」



それが、寿ちゃんとの出会い。結局あの後帰ったあたしはママにたっぷり怒られたけど、次の日もキャッチボールするって言ったら、ほどほどにねって許してもらえた。その日から、あたしと寿ちゃんの関係は続いてる。










2009/01/05