もうすぐ「ばれんたいんでえ」だ。いっつもこの日になるとママがパパにチョコレートをあげてて、パパはお仕事から帰ってくるといっぱいのチョコレートを持って帰ってくる。「ぎりちょこ」ってゆうチョコを毎年理由はわかんないけどラッキーって感じで食べてた。そういえば幼稚園にいたときもまわりのともだちが好きな子にチョコレートをあげてた気がする。でもあたしはそうゆうのって良くわかんなかったし、あんまり男の子と仲良くなかったから今までばれんたいんでえに何かしたことって…パパやおにいちゃんにあげたくらいだ。「パパ!おにいちゃん!いっつもありがとー!」って言ってちゅーするの。そしたらパパとおにいちゃんは喜んでくれてお返しにちゅーしてくれる。それくらい、だったけど。
「ねえねえマーマ」
いつもと一緒にママとお買いものに来て、あたしはチョコレートを見てママを呼びとめた。くいくいってママのお洋服を引っ張ると「なあに?」ってママがあたしを見る。「きょーはチョコ買わないの??」聞いたら、「そうね、そろそろ買おうね。今年は何チョコにしようか」パパは洋酒(ってゆうお酒のチョコ)が好きだから、ってママがチョコレートを選んでる。はどれが良いと思う?っていろんなチョコレートを手にとってあたしに聞いてくるからあたしは「パパにはこれ!おにいちゃんにはこれがいいと思う!」って二個のチョコレートを手に取ったらママがじゃあ今年のパパとおにいちゃんへのチョコはこれにしようねってママがにこって笑ってカゴの中に入れた。それからお会計に向かっていこうとして、あたしは「待って!」ってまたママを呼んだ。そしたらママが振り返って「どうしたの?」って笑うから、あたしはもじもじしてしまって
「あ、あのね?あのね?ばれんたいんでえってね、すきなおとこの子にチョコレートあげるんだよね?」
「そうよ」
「あ、あのね?あたしね、としちゃんにあげたい!あのね、いっつも遊んでくれてるしあたしとしちゃんだいすきだから!」
だからね、だからね!うまく言葉に出来なくって両方の手をバタバタさしてたら、ママがくすくす笑って、うんじゃあ寿也君のも買おうねって、またあたしのところに来てくれた。どれにする?ママがしゃがみこんであたしに聞いてきて、あたしはあたりを見てみる。色とりどりのチョコレート。どれが良いかな、としちゃんに似合うチョコレート。考えてたら、上のほうに、やきゅうの形したチョコレートを見つけた。でも、背が足らなくって、つま先で立ってみたけど取れなくって、「ママぁ…」ってママに助けを求めたら、ママがどれ?って聞いてくれた。
「あのね、あのチョコレート!やきゅうのアレ!」
ピンって指さしたら、ママがちゃんとそれを取ってくれてあたしの手に入れた。にぱって笑って、うんこれ!って言ったら、じゃあお金払いに行こうねってママがあたしの手を引いて歩き出す。うんって頷いてからチョコレートを離さないよーにぎゅうって胸にだっこしてママとレジまで歩いて行った。ばれんたいんでえがすっごく楽しみだった。
★★★
ついに今日はばれんたいんでえだ。うきうきして、どきどきして、わくわくして早くとしちゃんに会えないかなーって嬉しくなるっ。ランドセルにちゃんとチョコレートを入れて、がっこーに行って今はもう放課後。としちゃんとはクラスが違うからがっこでは会えなかった。ドキドキしながらがっこを後にして、いつもの河川敷に向かう。いっつもここでとしちゃんとキャッチボールするのがにっか?になってるのだ。いっつもは急いで走って行くけどでも今日はチョコレートが入ってるから、一生懸命走れない。だって、チョコレートがきずついたらやだもんねっ!
ってそんなこと考えてたからいっつもより着くのが遅くなっちゃった。下にはもう一人で練習してるとしちゃんがいて、としちゃんの名前を大きな声で呼んだ。そしたら、ボールをキャッチした後あたしのほうを向いて「!」ってあたしとおんなじくらいの声の大きさであたしの事を呼んだ。スタタって降りていって、「じゃあ今日もキャッチボールしよっか」ってとしちゃんがにこにこして言った。いつもならうんって言うところだけどでも今日は違う!
「あ、待って待って!」
「ん?」
「あ、あのあのね!あの、あたしね、としちゃんにあげたいものがあ、あるの!」
別に緊張してるわけじゃないのにこーふんすると噛んじゃうくせがある。ママになかなか治らないねえって言われるけどでもそんなの簡単に治るもの?って、今はそんなことどうでもいい!としちゃんを見たら「なに?」ってきょとんって顔してて、あたしはランドセルを下して、それから「としちゃんめーつぶって!」ってお願い。素直にとしちゃんは目を閉じてくれた。とりあえずほんとに目つぶってるかわかんなかったから、いっかいとしちゃんの前で変な顔してみたけどとしちゃんの顔はかわんなかったから、ほんとに目つぶってるんだと思う。
「良いって言うまで目開けちゃダメだからね?ね?」
何度も何度も言ったら、としちゃんが笑いながらうんって言った。それからあたしはしゃがみこんでランドセルのフタを開けて、今日ずっとカバンの中に入れてたチョコレートを取り出した。お店のお姉さんにかわいくラッピングしてもらったチョコレートをぎゅって両手で持って、としちゃんの前に立つ。
「そのまんまで手出して?」
「こう?」
「うんっ」
目をつぶったままとしちゃんが手を出すから、あたしはチョコレートをその上に乗っけた。「え?」としちゃんがびっくりした声が聞こえたけど顔を見たら目をつぶってるからちゃんと約束を守ってくれてる。それが嬉しくって、「もー良いよっ」ってとしちゃんに言った。そしたらぱっちりと目があいて、としちゃんが下を見た。それから「え、これって」って言うから「チョコだよっ、今日はばれんたいんでえってゆう日だもん」って得意げになっていった。としちゃんはぽかんってしてて、全然笑ってくれない。あれ?もしかしてヤだったかな?…怖くなって、おどおどしてとしちゃんを見て
「ちょ、こ…キライ?」
「え、ううん!好きだよっ!ただ、ぼくチョコレート初めてもらったから」
「ええ、ママにもらったことないの??」
「いや、それはあるけど…家族以外の人にもらったことなかったから」
としちゃんの顔を見たら、ちょっと紅くなってる。あ、テレてるんだ。「じゃあ家族以外ではあたしが一番乗りだね!」にって笑ったら、としちゃんがやっと笑ってくれて「ありがとう」って喜んでくれた。嬉しくなって、うんって頷いて…あ、忘れてた。いっつもパパやおにいちゃんにすること。チョコレートを渡して…それで
「としちゃん!」
え?ってとしちゃんの声が耳の近い場所で聞こえて、あたしはちゅってとしちゃんのほっぺたにちゅーをした。それからとしちゃんの顔を見て、
「だーいすき!」
えへへって笑ったら、としちゃんが真っ赤になって、すっごくびっくりするから、うちではいっつもするんだよ?って教えてあげた。それでもとしちゃんは顔を真っ赤にしたままチョコレートを握ったまんま。あれ?パパなら「ありがとう」ってちゅーかえしてくれるのに。不思議。
「と、としちゃんはちゅーかえしてくれないの?」
「え、ええ?!」
「だって、パパやおにいちゃんはありがとーってちゅーか、かえしてくれるよ?」
ちょいちょいってあたしは自分のほっぺたをぷにぷに押して、だからとしちゃんもちゅーしてよ!って言ったら、としちゃんに「む、むりだよ!」って断れちゃった。ええ…っなんで…!しょっくだ。そんな思いっきりイヤがらなくってもいいのに。
「としちゃん…あたしのことキライなの?」
「えっ、ち、違うけど」
「じゃあちゅーしてよ、ちゅーって好きだよーって意味なんだよ!」
すきんしっぷなんだよ!って強くいったら、としちゃんがごにょごにょなんか言って、それから、本当にするの?て聞いてくるからあたしは大きく首を振った。んってほっぺたをとしちゃんのほうにむけて待ってみる。そしたら、ちゅって、当たったかどうかびみょーな感じのちゅーがされて。え、今のしたの??って見たら、「ちゃ、ちゃんとしたよ!」ってとしちゃんがさっき以上にまっかっかになってるから、なんか可哀想になって諦めた。
「ちぇー…ま、いっか。チョコレート、食べてね」
「うん」
「来年もあげるからね!来年の来年もあげるからね!」
「う、うん!」
「そしたら来年もちゅーしてね?」
「えっ!?」
2009/02/10
いわずともがなバレンタイン夢です。ヒロインの「すき」はパパへの「すき」と同じ好きです。