次の日のこと。いつものように河川敷でれんしゅうしてると、「おーい!」って大きな声が上の方から聞こえてきた。ボールをうまくキャッチして、上を見ると、あ、昨日の女の子だ。女の子はにこって笑いながら大きなランドセルをしょって、ぼくのところに走ってきた。なんかその足取りが危なっかしくってハラハラしてしまった。けど、なんとか女の子は転ばずにこれた(ぼく、なんの心配してるんだろう!)

「えへへ!やっぱりいたあ」

にこ、って言うかへにゃーって感じの笑顔で、ぼくの前に来ると、女の子は嬉しそうにカバンを下した。「ね、今日もきゃっちぼーるするんでしょ?」って言いながら、「じつはねえ」ってランドセルの中を探り始めた。それから、「じゃじゃーん!」って声と一緒に、出されたのは

「グローヴだ」
「えへへ!あのね?あのね?うちのおにいちゃんもやきうで遊んだことあって、持ってたんだって!」

あたしにはちょっとちっちゃいんだけどね?で、でもね。って興奮気味にしゃべりだすから、ちょっと笑ってしまった。

「うん、これでちゃんと一緒にキャッチボール出来るね」
「う、うん!」

にこにことほんとうに嬉しそう。その顔見てたら僕まで笑顔になれてしまう、ような気がする。「あ、あのねママにね、キャッチボールするお友達ができたんだよって言ったの」女の子の声がぼくの耳に届いて、そのキャッチボールする友達って言うのがぼくのことを言ってるんだってわかって、ちょっと照れくさい。「とも、だち」独り言で呟いたけど、彼女にも届いたみたいだった。「ともだちでしょ?」って、当たり前のように言われて。

「え、…う、ん」
「なーにそれ?ハッキリしないなあー」
「ご、ごめん。でも」

いやじゃないよ、ってうれしいんだよって、どうしたら伝えられるだろう。あわてて言い訳を考えたけどでも女の子はお見通しって感じだ。

「昨日も言ったけど、よろしくね?としやくん!」
「あ、うん、よろ、しく」
「ねーねー、あたしの名前はおぼえてくれた??」
「えっ」

う、うん。大きな目をくりくりさせてぼくを見つめるから、思いのほかぼくはあせってしまった。そうしたら、今間があった!って、ちょっとキゲンが悪くなっちゃったみたいだ。「ほんとは覚えてないんじゃない!?」なんてうたがわれちゃって、

「お、おぼえてるよっ」
「うそぉ」
「ほ、ほんとだよ!……、ちゃんでしょ?」

ちゃんと彼女の名前を言ったら、ふてくされた顔がやっと笑顔に戻った。にへらって笑うと、八重歯がのぞいて、それがちょっと可愛い、なんて思った。女の子、ちゃんは「あたしね、おともだちにねそう呼ばれるのすきなの」ってうれしそう。
それからぎゅってぼくの手をにぎって、「ともだちのあくしゅ」ってぶんぶんと手を上から下に下から上にと動かす。ぼくはされるがままで、もうなんだかちゃんのペースって感じだ。
ちょっとだけ、ほんとにちょっとだけ…ゴロー君に似てる、気がする。なんて、思った。
積極的で、明るくて、お日様みたいな子。そんな、イメージ。

手をつないでるってことにいまさらだけど気付いて、ドキドキしてきた。顔が、あつい。ぼくの想像どおり、顔が真っ赤になっちゃってたみたいだ。ちゃんが「としやくん顔赤い」って笑った。笑われた事がさらに恥ずかしくって、また顔があつくなる。う、だって。ってしどもどして、でも手をつないでるのが恥ずかしい、なんて言えなくって、ごにょごにょしてたら、ちゃんがじいってぼくをみて

「なんか、としやくんって、女の子みたいだね!」

にこって。そりゃあもう、悪気はないって感じの言い方だった。
でも、実際ぼくは男の子だし、少なからずショックだ。「な、なにそれ」言い返したけど弱い。「そうゆうとこ、女の子っぽい!」なんてケラケラ笑うちゃんの声が耳につく。バカにしてる気はないんだろうけど(それだけがゆいいつのすくい、ってやつだ)

「としやくんっていうよりも、としちゃんのほうがしっくりくるかもね!」
「や、やだよ!ちゃん、なんて…女の子みたいで!」
「ええー可愛いじゃん!としちゃん!」
「やだってば!」

そんなこうぎをしたけれど、ぼくの意見がとおることはなかった。
でも数日後にはそれが当たり前みたいに定着してた。順応力ってやつだと思う。てゆうか、なんかもう彼女に何を言っても効果がないって、思ったのかもしれない(人生あきらめもかんじんだって、だれかが言ってたような気がする)
でも、それでももし、ぼくが男の子っぽくって、もしぼくが本に出てくるような王子様のような人だったら、きっと“としちゃん”なんて呼ばれなかったんじゃないかな、ってちょっとだけ、残念に思った。

でも、ぼくが「王子様」なんて柄じゃないか。

落ち込んでたら、ちゃんが「暗い顔は似合わないよ!笑顔だよ」って笑いかけてくれるんだ。
…だれのせいで落ち込んでるんだよ、ってつっこんでみたかったけど、でも、なんかちゃんの笑顔見てたらどうでもよくなっちゃうんだ。

「としちゃーん!早くボールボール!」
「……もう」

しょうがないから、としちゃんでがまんしてあげることにする。
ぼくが大人にならなくっちゃね。

、いくよー!」










2009/05/17
タイトルはお題サイト【Seventh Heaven】さまからお借りしました。リンクはM&Tのトップにて貼ってあります。