天体観測




「ねーね、寿ちゃん!がっこうで、星座のべんきょうした?」

今日やった理科のじぎょうのことを思いだして、あたしは毎日のこうれいになったキャッチボールをしながら寿ちゃんに聞いてみた。とおくのほうで寿ちゃんが「うんしたよ!」って答えてくれたら、これからがほんとにいいたかったこと。「あ、あのねあのね」寿ちゃんから飛んでくるボールをちゃんとキャッチして、あたしはタタタと寿ちゃんにちかよった。

「じ、じゃあ、きょうてんたいかんそくしよ?」

それが、はじまり。





『じゃあ、夜ここでしゅうごーね!』そう言って寿ちゃんと約束した。子どもだけなんてあぶないよとかずっと寿ちゃんは言ってたけど、でもうちのおにーちゃんは「ちっちゃいころに悪さの一つや二つしとかなきゃ、しょうらいグレるんだぜ」って言ってたし(グレるって、悪い大人ってことらしいだからしょうらい悪い大人にならないためにもここは悪さにひとつをしてみようって思ったんだ。もちろん、理科のじぎょうでまんてんの星をみたかったってゆうのもある、けど。
だってせっかく夏なんだもん。なつの…なんとかってのみないとさあ!
河川敷までやってきて、あたしはペタンってすわりこむ。まだ寿ちゃんの姿は見えなかった。
もしかして、来ないのかな?ずっとしぶってたし。それに寿ちゃん男の子なのに怖がりっぽいイメージがあるもん。もしかしたら夜にお外でるの怖かったのかもしれない。…それなら寿ちゃんちまでむかえにいってあげたのにぃ。おにいちゃんから借りたジーショックを見る。さいしんのやつだからこわすなよってなんどもなんども言われた。(だって、はりのとけい見づらいんだもん)とけいを見るとあと4分でやくそくの時間。だけど寿ちゃんの姿は見えない。
ほんと、こないかも。…なんかちょっとこころぼそくなってきた。

「…寿ちゃんのばぁか」
「バカ、ってせっかく来たのに」

とつぜん、後ろから声がふってきて、えって見上げると、息を切らした寿ちゃんがいた。それから、ぽかって軽く頭叩かれて、「とし、ちゃん」って声をかけたら、次に寿ちゃんがあたしに飲み物をくれた。大好きなココアだ。「ありがとう!」それだけできげんがなおっちゃうんだから、あたしってほんとすなおだなあ。

「…てゆうか、こんな時間から出るなんてちゃん怒られなかったの?」
「だいじょーぶ!うちほーにんしゅぎしゃだから」
「それもどうかと思うけど」
「と・に・か・く!これでそろったことだし、てんたいかんそくはじめーー!」

そろったって、二人だけじゃん。そう寿ちゃんが言ったけど聞こえないふりをした。寿ちゃんってこうゆうところこじゅーとみたい。(前にママがガミガミゆう人をこじゅうとって言ってた)あたしは河川敷にごろんと仰向けになると、寿ちゃんが小さなためいきをついて、それから同じようにあたしのとなりにすわった。手には、なんか本を持ってる。「それなーに?」って聞いたら、「星座の本だよ」って教えてくれた。

「理科で習ったって言っても初歩的なものだし、本ないとわかんないかなーって」

それじゃあつまんないだろ?星座みたいんだから。って寿ちゃんのこうゆうところだいすきだ。さっきこじゅうとなんて思ってごめんね。って心の中であやまって、あたしは起き上がって寿ちゃんに抱きつく。「ありがとー!」ぎゅーって抱きしめたら、「ちょ、ちゃん!」ってびっくりしてる声が聞こえて、あたしはからだをはなした。「ね、早くみよっ!」ね、ねって言ったら、寿ちゃんは「う、ん」ってちょっとなれない手つきで本を開いた。片手にはかいちゅうでんとーも準備して。ほんと、ものもちいいなー(あれ、なんかちがう?)

「今はなつだから…」
「ね、ねえ!なつって言ったらこの前じぎょうで言ってたなつの……なつの…しかっけい?だっけ?見たい!」
「……それ言うなら夏の大三角形だと思うけど」
「い、良いから!ね、それってどこにあるの??」
「ちょっと待って、調べてみるから」

そういって、寿ちゃんは夜空と本を変わりばんこに見てた。あたしはそれをだまってみる。

………。

何分経ったのか、だいぶ待ってるだけって飽きちゃった。星ただみるだけも飽きちゃった。だって、全部一緒に見えるんだもん。「ねえ、としちゃーん」声かけたら、「ちょっと待って、」って、すっかり星に夢中見たい。あたし、ヒマだよ。「ねえ、一人でわかってないでー!」

「ちょ、ちょっとちゃんが夏の大三角みたいって言ったんでしょ?」
「そうだけど…もう何分もこのままなんだもん。あきちゃったよ」
「速いよ。星だって、時間によって出る位置とか変わってくるんだから」
「むつかしいこと言わないで」
「むずかしくなんてないよ。それに、ほら。もうちょっとだから」

そういって寿ちゃんは笑った。それから空を見上げて、「あ、ほら!」って指さす。えって顔をあげたけど、ほらって言われて指さしてる星がどれかがわかんない。「…なにがほらなの?」言ったら、寿ちゃんが嬉しそうに「あれが多分ベガだと思うんだけど」

「ベガ?」
「大三角の一つだよ。で、その少し先にあるのがアルタイルとデネブ」
「……わっかんないよ!それにせんせーが言ってた名前と違うよ!あたしが見たいのは夏の大三角で!」
「だから、言ってるじゃん。ベガはこと座、アルタイルはわし座、デネブははくちょう座。授業でならったとおりでしょ?それにちゃん見てる位置違うんだよ、もうちょっとこっちに来て観て」

そういわれて、あたしは寿ちゃんの横にすり寄った。そしたら「ちゃん!ち、近すぎ!」って言われた。けど、だってわかんないんだもん。それに近づけって言ったのは寿ちゃんでしょ!って拗ねて言ったら、寿ちゃんはなんかごにょごにょ言ってだまりこんだ。何も言い返してこなかったから、あたしはさらに寿ちゃんにぴったりくっついて、できるだけ寿ちゃんの目線と同じになるように見上げる。「ほ、らあれ」寿ちゃんのいつもより変な声が隣で聞こえてきた。寿ちゃんの指の方向をじっと見つめる。そしたら、みっつのお星様。「あ、わかった!」「三角形になってるだろ?」「うん!」発見するとなんだか楽しい。ほんとに三角形なんだね!って、寿ちゃんのほうをみたら、すっごい近くに寿ちゃんの顔があって、あ、ってビックリする間もなく、寿ちゃんがあたしから一気に離れた。……そんな、はなれなくたって良いのに。

「と、とにかく。ちゃんが見たがってた星座は見つけたわけだけど」
「ねえ、じゃあおりひめさまとひこぼしさまは?」
「……え、だから今探したじゃん。織姫様がベガで彦星様がアルタイルなんだけど」
「え!そうだったの!?」

あまのがわってどれのこと?そう聞いたら、寿ちゃんがその二つの間だよって教えてくれた。ほえー…そうなんだ。てゆうかそういう事だったんだ!じぎょうであんまりわからなかったけど、寿ちゃん教え方じょーずだね!って言ったら、寿ちゃんがちょっと照れてるみたい。「べ、別に」って言いながらメガネをくいってあげてるようすが可愛くって、また寿ちゃんにすり寄ると、「ちゃん!?」ってまたびっくりされてしまった。

「だって、せっかく一緒に見てるのに、こんなにはなれてちゃさびしいよ!こんなにはなれちゃって、まるでおりひめさまとひこぼしさまみたい!」
「……」
「寿ちゃんはちかくにいるのヤ?」
「イヤじゃないよ!」
「じゃあ、ほら!ねっ、ちかくでみよーよ」

そう言って寿ちゃんの手をぎゅうってにぎった。だって手つないでおいたらもうにげられないでしょ?ニって笑ったら、寿ちゃんがしょうがないなって、顔して、それでもなんだかんだ言いながらあたしの手をにぎってくれた。みあげた空はすごくきれいで、お星様がきらきらとかがやいていた。

「来年もてんたいかんそくしよーね!」
「そのときにはもうちょっと星の勉強しとこうね」
「うっ、でも寿ちゃんがおぼえててくれるから平気だもん!」










2009/08/29
夏の大三角形って、肉眼で見えますか?(アホですすんません)