はじめはただの、好奇心だった。
リトルに俺が入団してから、いつも俺らの座るベンチとはちょっと離れた青いベンチに座ってるおんながいた。そいつはただ練習が始まると必ずそこに座ってみていて、ときどきうちのチームの応援をしたりする。でも野球をするわけじゃない。ただ、そのベンチから応援するだけの存在。
毎日毎日応援ばっかで楽しいのか?(少なくとも俺は姉貴の応援に行ったことはあるけど、実際やってみるほうがよかったと思う)それでもその人はずっと笑ってこっちを見てるから、だからいったいどんな物好きなんだろうって、ただ、それだけの好奇心。
初めて、その人に声をかけられたのは、俺が入団テストでのときだった。野手のテストのときに、こっちに向かってきたボールをキャッチしたら、「ナイスキャッチ!」って大きな声が聞こえてきた。見れば、ベンチに座ってたはずのその人が立ち上がって、俺の方を見てた。でもそのとき別にしゃべったとかそうゆうことはなくって。
二度目のコンタクトは、それから数日経ってから。ウォーミングアップで寿先輩と当たって、二人でキャッチボールしたあの日。その日寿先輩に筋が良いって褒められて、帰り際、ちょっと先輩と話したかったから、寿先輩の姿を探した。そしたら、寿先輩はすぐにおっきなバックを肩にかけると、一目散に一点の方向に向かって走っていく。ただぼんやりと見つめてたら、それがあの青いベンチに向かってだって、気づいた。ベンチに座っていたあの人が、寿先輩の後姿からちらっと見えてにこって笑ったのがわかった。応援のときのあの笑顔とはちょっと違う、安心したようなそんな感じの笑顔。無防備な顔のまま寿先輩にタオルとドリンクを渡してる。
無意識のうちに、俺は歩き出していて、
「あ、寿先輩お疲れ様です」
あくまでふつーどおりに先輩の後姿に声をかけると、ひょこっと寿先輩の横から覗く顔。「うん、大河もお疲れ様」寿先輩が俺のほうに気づいて、そんな言葉をかけてくれたけど、俺は寿先輩の目の前にいる人のほうが気になって仕方が無かった。いったい、どういう関係なんだろうか。おんなを見てたら、その人も俺を見たみたいで、視線が合う。そしたら「お疲れ様!」って明るい声と笑顔。突然の笑顔に、びっくりして固まってしまった。そしたらその人(確か、寿先輩が練習中って呼んでた)があ!って顔した瞬間に、寿先輩がこれまた突然噴き出した。
「僕の幼馴染なんだ」
なんで噴き出したのかわからなかったけど、でもそれよりも寿先輩の言葉でようやく俺の好奇心のなぞが埋まる。ああ、それでいつも。仲が良いのか。納得してたら「です、よろしくね。たいが、くん?」って自己紹介されて、てかなんで「何で疑問系なんスか」思ったら聞いてしまった。そしたら彼女がにがわらいするのがわかって
「あ、いやちょっと自信なかったから」
「…ふう…。清水大河です」
それが、さんとのちゃんとした出会い。
★★★
「今日は寿先輩いないんスね」
「あ、大河君お疲れ」
今日の練習も終わって、なんだかあのベンチを見るのが癖になってしまった。ちょこんって座ってるさんに話しかけるとにこって笑顔で迎えられる。
あれから、しばらく経ってなんだかんだでさんとよく話す間柄になった。てゆうか、こんなベンチに一人でいられたら気になるのは仕方ないって思う。でも今日はいつもいるキャプテン(寿先輩だ)の姿が見つからず、きょろきょろしてたら「今日は寿ちゃん用事があるんだって」って言う返事。委員会もあるみたいだし、そのまま家に帰るみたい。って続く言葉にそういえば二人は同じクラスだったってことを聞いたような気がする。へー。口から出たのはどうでも良さげな声(実際どうでもよかったのかもしれない)
「寿先輩いないのに来てたんですね」
「え、何かそれってあたしが寿ちゃんしか見てないみたいな言い方じゃない?」
「そうじゃないんですか」
「ちっがうよ!あたしは寿ちゃんのプレイ見るのも好きだけど、この横浜リトル自体もだいっすきなの!」すかさず反撃を食らってしまった。さんを見ると怒ってますって感じでほっぺたを大きく膨らませてる。ふぐみたいで可愛くないです。って言ったら、さんがショックを受けた様子。ころころ変わる表情に、これで俺より二つも上なんだよなーなんて思うと、なんか信じられない。ひどーい!ってさんが俺の服をぐいぐい引っ張って(そういうところ、ガキだ)
「今の訂正!女の子に可愛くないは言っちゃいけないんだよ!」
ちょっと自分が可愛い顔してるからって…って言われたから、じゃあ男に可愛いって言うのも言っちゃいけないんですよって教えてあげた。そしたらうぐって言葉につまるから、なんかほんと見てて飽きない。
「つか、話し戻しますけど、じゃあ今日は一人で帰るってことですよね」
「うん」
「じゃあ俺が一緒に帰ってあげますよ」
そういったらさんはきょとんって目をまんまるくさせて俺を見た。なんか、変なこと言ったか俺?なんスか。ってさんを見たら、「いや!なんていうか、大河君がそんなこというとは思って無くって」って。ちょっと失礼じゃないかな、この人。はあ?って怒り口調で言ったら、さんが屈託ない笑顔で笑って
「ごめんごめん、傷ついた?」
「別に」
「うん、じゃあ一緒に帰ろ!」
そういって、歩き出すから、俺もさんについてく。隣に並んだ瞬間に、突然手に何かがぎゅって握ってきて、えってみたらさんの手。驚いた声がさんにも届いて?って首を傾げられて、俺の視線に気づいたみたいだ。「あ」って声と一緒にパって離される手。それから早口の「ごめん!」
「えっと、ごめんね!なんか、手繋ぐの癖になっちゃってて!」
いっつも寿ちゃんと手繋いでたからかなー。って笑いながらさんが言う。普通12歳くらいにもなったら幼馴染同士で手なんか握るもん?そんなに仲が良いってことなのか、考えたら、ちょっとイライラしてきて(なんで、俺イライラしてんの)今度は俺がさんの手を握った。え、って今度はさんが驚く声が俺の耳に届く。
「大河くん?」
「…手、握るの癖なんでしょ」
付き合ってあげるよ。って言ったら、さんははじめその意味をわかってないみたいでただ黙って俺を見てたけど、次第にその表情が笑い顔に変わっていった。それから、「うん!」って大きな返事。何がそんなに嬉しいのかにこにこして、バカみたい。そう思うのに、しょうがないって思う俺もなんかバカみたい。
んでもってあったかいさんの手がぎゅって俺の手を握り返してきて、その瞬間、俺の心臓がどくどく早くなる。いまさらながら緊張してるの俺。ほんとバカみたい。
手なんて繋いだの、いつぶりだよ。自分でもびっくりするくらいの行動で、恥ずかしいはずなのに、でも何故か俺と手を繋いでるさんの笑顔を見ると、やっぱり手繋ぐのやめたってどうしてもいえなくて。
ううん、違う。なんか離したくなかった、のかもしれない。
小さなドキドキを胸に、俺は自分のうちとは反対方向の道をさんと歩いて帰った。色々さんがしゃべってたけど、何一つ覚えてなかった。
2009/01/10
番外編で大河視点。淡い恋心。別にだからって何になるわけじゃないですけどね。調べによると大河は「年下好き」らしいですが、自称する前は年上すきだったりみたいなところがあると良いなって(笑)
※注意※あくまでM&Tは『寿也との恋愛ストーリー』です。