ぼんやりと、思う



今年も来年も君の隣で



佐藤寿也と言う少年について、考えてみた。今や我が友中のプリンスと呼ぶに相応しい彼。
成績優秀スポーツ万能先生からの人望も厚い彼は、それはもう女の子にモテた。
そんな彼と付き合うようになったのは、いつの事だっただろうか。
元々、幼馴染として仲の良かったわたしたち。まさか、あの眼鏡でがり勉君だった彼がこんなにもかっこよくなって、今では野球部のキャプテンなんてものやってるなんて思わない。
…ほんと、人生ってわからないものだ。あーにしてもせっかくの大晦日。紅白歌合戦どうなってるんだろう。紅組優勢なのかな?(わたしはいつも紅組派だ)



「何考えてるの?」

そう問い掛けられて、わたしは今、受験勉強の為今寿也のおうちにお邪魔している事を思い出した。ハッと窓に向けていた顔を寿也に向けると、苦笑のそれが瞳に映って、気分が沈む。ごめん、小さく呟いて、暫く休んでたテキストに目を向けた。今わたしは受験勉強のために寿也に勉強を教わっている最中だったと言うのに。教えてもらう態度では無かった事に反省をして、しゅん、と思わず身を小さくした。そうすれば、クスリと笑い声が聞こえて次に大きな手のひらが頭に乗っかった。そのままくしゃくしゃと決して乱暴ではなかったけれども撫でられて、

「良いよ。ずっと休みなしで頑張ったんだし、本当なら、紅白見たかったのにTV見ずに頑張ったんだもんね」
「!紅白は…確かに見たいけど…でも、せっかく出来が悪いわたしに勉強教えてくれてるのに…寿也に悪いよ」

本当はすっごくすっごくすっごく紅白みたいけど!紅組か白組かどっちが勝つかすっごく興味あるけど!でも、今年は受験生。わたしにとっては難関な海堂高校へ受かるか受からないかが決まってくる勝負の年。それなのに、いくら大晦日だからと言って、『やったー!紅組リード!』とか言ってる場合じゃない…!
それくらい、わたしの成績は悪かったのだ…(正確には、数学の、だ)先生に「本当に良いのか。お前の(数学の)成績ならもうちょっとレベルを落としたほうが…」という先生の太鼓判つきだ(なんか違う)
だから、とにかく、先生を見返すためにも、ムリだと笑った友達にどーだと言ってやるためにも、そして何より大好きな寿也と同じ高校に行くためにも、わたしは頑張らなくちゃならないのだ。寝る間を惜しんで…!だ、だから…紅白、なんか見てる場合じゃ…

「じゃあ、僕が休憩したいから勉強は一時中断ね」

スマートだ。なんて、気遣いのできる男だろうか。感心してしまった。(きっとこれも奴のモテる所以なのだろう)
そう言ってわたしの(進んでない)テキストをひったくると、パタンと閉じてしまった。あっと言う暇もない程の手早いしぐさにポカンとしていると、寿也がわたしの腕を引っ張る。「ほら下行くよ。紅白どっちが勝つか見よう」なんて言いながら。あ、う…と結局言葉に出来なくて立ち上がる。

「それに、おじいちゃんやおばあちゃんもとTV見たいだろうしね」

今日はずっと勉強で僕の部屋に閉じこもってたからおばあちゃん寂しがってたよ。と声が笑ってる。そう言えばご飯もそこそこに寿也の部屋に上がってずっと勉強勉強だったなぁ…。おばあちゃんには悪い事したかも。と少しだけまた反省。手をつなぎながら部屋を出て階段を下りる。

「寿也」
「ん?」
「…ありがとう」
「何の事かわからないけど?…紅白は僕が見たいから勉強を一時中断なんだよ?」
「……ばーか」

素直にお礼を言ったと言うのに、素直に返してくれない。そんな彼の手をぎゅっと強く握り締めると、「僕をバカなんてくらいしか言わないなー」なんて茶化すから「新鮮で良いでしょう?」と笑って返してやった。



こうして、今年も寿也の隣で終わって、寿也の隣で始まるんだろうな。





― Fin





あとがき>>大晦日SS夢です。本気でMAJORにハマってるよ。やばいよ。引き返せないよ!(笑)
2008/12/30