5月5日。それはGW中の休日で、こどもの日で学生にとっては嬉しい一日。
でも、まさか雲雀の誕生日でもあったなんて…!私、何もしてないじゃんか!え、てゆうか別にしなくても良いんだけど!日ごろお世話になってるわけでもない、反対に迷惑かけられっぱなしっていうか、雲雀の我が侭に振り回されてばっかりって言うかさ?でも、なんか誕生日とか聞いちゃうと、ね。
…もう!そういうことは早めに言えよ!ん?違う!言わなくっても良いんだよ!
…多分、今の私をはたからみたら、一人で百面そうしている変な女決定だ。
掌の中の絆創膏
「…何、これ」
ゴールデンウイークも終わり、また平穏な(そうでもないかもしれないが)学校生活が始まった。時は月曜、放課後。そして、雲雀の誕生日を知った数時間後だ。
この大型連休中、結局私の休みは1日だってありはしなかった。なんだかんだであの資料を片付けた後、風紀委員の資料整理をさせられて、体を休めることもままならなかったわけである。そして、訪れた、月曜日。ついに黄金週間は終止符を打たれたわけだ。てゆうか誰さ、黄金週間なんて名前つけた奴!私にとっては灰色週間だったっちゅーねん!
それもこれも今目の前で訝しげに私を見ている人物の所為だ。目の前の人間、雲雀恭弥は先ほどの言葉を口にした後、何をすることもなく私を見つめていた。いや、実際には私の手の中のものだ。そうじっくりと見られるとどうすれば良いか困ってしまうものである。普通に何の気なしに受け取ってもらえたらありがたかったんだけど…。まあ雲雀に限ってそんな素直な反応するはずも無いから考えればこうなるのは予測できた筈だ。私はまだ自分の掌の中に眠っているそれを一瞥して、何だか恥ずかしい気持ちになった。
だって、言えるわけ無い。…2日遅れちゃったけど、誕生日プレゼントです!…なんて。
「、僕が聞いてるんだけど」
黙っていたらやっぱり逆鱗に触れたらしい。不機嫌そうに目を細めた雲雀の顔が私の目に映った。ひ、と声をあげたくなるくらいの冷たさがそこにはあって、内心ビビる。まあ悟られたくないから平然を装っちゃうわけですが。
「べ、別に!別に深い意味はないから!」
私は未だに掴んでいたそれを雲雀の手に半ば無理やり押しやって早口で捲くし立てた。そうすればまた訝しそうに顔をゆがめるのだ。「だから、僕はこれが何だって聞いてるんだけど」と雲雀が言った台詞は勿論私に聞こえていたけど、あえて無視の方向だ。多分トンファーがそろそろ飛んでくるんじゃないかとヒヤヒヤするけれど、誕生日プレゼントだと言うよりはトンファー突きつけられたほうが良い。いや、怖いけどね!プレゼント!って言うのは恥ずかしくてそれはもう死ぬんじゃないかってくらい恥ずかしくなると思うんですよ。
「さ、仕事仕事!」
「」
雲雀が私の名前を呼ぶ。ああ、怒ってる。これは怒ってるに違いない。振り返るのが怖くて目先のプリントを手に持って目を通す。そうすれば、ガッと掴まれた肩。重力に従って私は雲雀の顔を見ることになった。
「無視とは良い度胸だね」
「い、いいいい委員長!殺人はや、やややややばいと思うんですけれども!ハイ!」
「だったら答える。さあ、これは何?何企んでるんだい」
……って!企んでるって、かなり失礼な奴だ、雲雀恭弥。一体コイツは私のことをどういう人間だと認識しているのか、一度雲雀の脳を見てみたい。―――そうまで考えてその考えを打ち消した。いや、やっぱり見たくない。恐ろしい脳内構造っぽいからなんか怖いわけだ。
案の定突きつけられたトンファーはこのクソ暑い気温に反して、とても冷たかった。ひんやりとしたそれは冷却シートみたいな感じだけれども、そんな和やかになれる雰囲気でもない。委員会初日を思い出す。頬に当たるトンファーの感触があの頃の気持ちとかを思い出させた。
さっきは言うくらいならトンファー突きつけられたほうが…とか思ったけど、撤回だ。命は惜しい。
「べ、べべべべべ別に深い意味はないんです!」
「だから…」
「ば、ばばば絆創膏!」
「絆創膏?」
「そ、そう!委員長、時々怪我、してるし…それに、あの!5日誕生日、だったんでしょ!」
震える声で真意を述べると、私の頬からトンファーが退けられた。そして、冷静になって、改めて恥ずかしくなってくる。顔が朱色に染まる。雲雀が私の名前を呼ぶから尚更恥ずかしくなってしまって、私はバッと雲雀との距離を空けた。
「べ、別にお祝いしたかったわけじゃないのよ!違うんだからね!本当は誕生日知ってもあげるつもりなんてなかったんだけど、ちょ、丁度絆創膏があったの思い出して、んで、委員長見たら頬っぺた怪我してるし、更に丁度良いかなって!」
「それでわざわざ?」
「ち、違うってば!ほ、ほっといても良いと思ったんだけど、あの…5日にほんとに柏餅買ってもらっちゃったし…か、買ってもらった柏餅が美味しかったから、だから…!それに、私だって貰うだけなのは悪いなって思うんであって!べ、べべべ別に雲雀のために何かしてあげたいってわけじゃなくて!い、言うなれば……そ、そう!粗品なのよ!粗品!」
マシンガントークで言い放った言葉は、冷静に考えれば矛盾しまくりで良くわからなかっただろう。雲雀を見れば呆れた様子の顔だから頷ける。早口で言い終えた台詞。…雲雀の反応が気になった。でも顔をじっと見るなんて今の私には出来なくて、視線を宙に通わせる。行き場の無い視線をふよふよと浮かせていると、雲雀が私の名を呼んだ。
「…今、僕のこと呼び捨てにしたね」
その台詞に、ピシ、と体が硬直するのがわかった。…しまった。やってしまった。心の中では何度も雲雀雲雀と呼び捨てにしていたけれども、実際私は雲雀よりも年下なわけだ。今言った台詞を思い返してみると、私、タメ口にもなってないか?や、ヤバイ。非常に危ない、私の命。
「ご、ごごごごごごめんなさい…!」
慌てて大声で謝罪すると、雲雀がふっと不敵に笑った。ヤバイ、ほんとヤバイ。私の享年14歳で終わっちゃう?顔が青ざめていくのが自分でも解った。雲雀の手が動く。う、わ!ヤバイ!ぎゅっと目を固く瞑った。殺 ら れ る !
コツン。
「ま、貰っといてあげるよ…ついでに、ありがとう」
「…………………………………え?」
でもやってきたのは痛みではなかった。目を瞑っていた所為で何をされたのか良くわからなかったけれども一つ解ることは、生きていると言う事だ。パッチリと目を明ければさっきまで向かい合わせにいた雲雀が後姿になっていること。スタスタスタと間合いを広げる雲雀にポカンとするしかない私。
「いつまで間抜け面してるの。仕事しなよね」
振り返ってないから私の顔なんて見えてないはずなのに、その言葉はまるで後ろに目がついているかのよう。私は「ハイ」と小さく返事をすると、椅子に腰掛けた―――。
それから朝に見つけた頬っぺたの傷を隠すように私の上げた絆創膏が貼ってあったのを私が知るのは、今日の帰る時間のことだ。「使ってくれたんですね…」と使ってくれなきゃあげた意味がないのだけれどもまさか使ってくれるなんて思っていなかったから、驚いたように問いかけると、「勿体無いから仕方なくだよ」と素っ気無くかえされてしまった。けれどもそれでも嬉しいなんて思ったことは雲雀にはバレてないと良いな。
…遅くなっちゃったけど、誕生日おめでとう……雲雀。
― Fin
あとがき>>てことでSSです。グダグダですが許してください。ヒロインの台詞の前の「」の中のは雲雀さんの言葉です。
遅くなったけど誕生日おめでとう、雲雀さん。結局何歳なんだろうか。ううん?
2007/05/06