好きな人が、出来ました。
 凄く、凄く好きな人が、出来ました。
 そんな彼と付き合うようになって、あたしはとてもとても幸せです。
 そして、彼と付き合うようになってから、トントン拍子にいいことばかりが続き、苦手教科だった世界史でなんと!92点を取ったあたしは、念願の、携帯電話と言うものをゲットすることが出来たのです。

 本当に本当にあたしは幸せです。



   * * *



 あたしは携帯を眺めていました。真新しいそれは勿論傷一つなく、ぴかぴかと光っているように見えます。新機種だと言われるそれは、何だか色々高性能。未だに良く使えませんが、まあ追々なれるということであまり気にしません。今のあたしには通話とメールが使えれば十分だからです。
 大好きなオレンジボディの携帯をパカパカと開いたり閉じたりするとその度にディスプレイがピカッピカッと光って画像が映し出されます。
 待ち受け画面は、凄く綺麗に写ると言われる何とかガソ(良くわからない)で、綺麗に写ると言われるだけあって、本当に映りがいい。いや、まあモデルがいいのかもしれないのですが。
 …その待ち受け画面は大好きな、大好きな彼。山本くん。野球部の練習のときにこっそりと撮った、所謂隠し撮りです。(今度撮っていい?って聞いてみようと思う)
 真剣な表情のそれはあたしといるときにはちっとも見せてくれません。笑顔の彼も大好きですが、こういう何か真剣に取り組んでるときの彼の顔はもっと好きです。だから隠し撮りは悪いことだと知っていても思わずシャッターを切ってしまったのです。

 「ふふ」

 真正面じゃないのが残念ですが、とても綺麗なアングルなのでよし。思わず笑い声が漏れて、さっきから口元が緩みっぱなしです。
 たっぷり堪能したのちに、アドレス帳を開くと、そこには親と弟、そして山本くんのアドだけが記載されています。(まだ、友達には内緒なのです)ナンバー00に登録してあるのは勿論、お母さんお父さんでもなく、大好きな山本くんのアドレス。
 今日の帰り道に携帯を買ったことを言ったら、早速教えてくれた、アドにやっぱり顔が緩みます。
 そこでそのときのことを思い出せば、いつでもメールしてOKだからな〜って今日の帰り道に言われた台詞。 いつでも、ってことは今してもOKなのでしょうか…?

 「うーん…でも、部活で疲れてそうだし…」

 今更これから宜しくね、と打つのもなぁなんて悶々と考えてしまいます。だって、会ったときにもうそれに似たようなことを言ってしまったからです。うーんうーんと何度も唸り声をあげながらディスプレイを見つめます。すると長い時間じっと眺めていたディスプレイの光が省エネに切り替わったのか、真っ暗になりました。ああ、そっか。暫く経つと切れちゃうんだっけ?いけないいけないと思ってボタンを押そうとしたとき。

 ブーブーと、手元が震えて光りだす、携帯。 何事!?と思い画面を見れば、メール1件の文字。
 え、誰?なんて思うまでもないです。だって、このアドレスを知っているのは家族以外でたった一人なんですから。まさか下にいるのにわざわざ親がメールしてくるはずもない。叫んだほうが早いしねえ。というか、そんなことで親がメールしてきたら、今あたしはきっとキレると思います。(だって、山本くんかもしれないって、今凄く凄くどきどきしているからです)

 どきどきと震える手でボタンを押せば、受信メールが開かれる。 そこにはやっぱり予想の範疇の人の名前。 用件は一言、これからも宜しくなー。と簡潔。 今、あたしが送ろうかと迷っていた文章で、何だか以心伝心みたいで嬉しかった。にやけっぱなしの口元をなんとか引き締めて、早く返事を打とうと努力します。けれど、まだまだ慣れないので、覚束無い手取りで、何とか数分ののち、送信完了。

 こちらこそ!ていうかごめんね、まだなれないからおそくって。と異様にひらがなばかりの文章に自分自身呆れましたが、まあ携帯初心者しかたない!と一言で割り切りました。もしかしたらこの文章を山本くんは見て笑っているかもしれません。もしかしたらどこかの園児に間違えて送ってしまった?なんて不思議に思うかもしれません。(でももう送信してしまったので今更書き直せません)返事、来るかなぁって期待してるとまた震えだす携帯電話。
 でも、今度は長いそれ。

 電話だと気づいて、慌てて通話ボタンを押しました。あまりにも強く押しすぎたのでちょっとだけ親指が痛いけれど気にしません。だって、相手はさっきメールを返した相手、山本くんだったのですから。どうしたの!?と慌てたように聞けば、慣れてないって書いてあったから電話してみた。慣れてないのに可哀想だろ?とけらけら笑う山本くんの声が耳を通ってあたしの脳を刺激する。ああ携帯っていいなぁなんて改めて思いました。そして同時に、ああ、山本くんってやっぱり優しいなぁなんて余韻に浸っていると。

 「何してた?」

 と、一言。山本くんにとっては何気ない一言だったのでしょう。けれどあたしにとってはひやひやの一言です。まさか、携帯に保存してある山本くんの顔をみてにやけてたなんて言えるはずもないのです。あーとかうーとか変な奇声を上げながら、苦し紛れに友達に借りた漫画を読んでたーと答えました。でもそれはすぐに見破られることになる。

 「嘘だな」
 「な、ななななんで?!」
 「だって、漫画読んでるときのは読み終わるまで集中してて回りに気づかないだろ?」

 良くわかってるね、あたしのこと。そう思うと嘘がばれたというのに、あたしの性格をちゃんと知っててくれていることが嬉しくって笑ってしまいました(これが世に言うノロケ?でしょうか?)携帯眺めてたんだーって言えば、今度はふーん、て返事が返ってきます。あ、れ?なんか素っ気無い?心配になって声をかければ、しばしの沈黙。と言ってもほんの数秒でしたけれど。

 「聞き方が悪かったなー」
 「え、」
 「、今、何考えてた?」

質問内容を訂正されて、さっきの質問より更に焦りました。なんだかどんどん核心に迫って言ってる気がするのはあたしの気のせいなのでしょうか!そんなの、山本くんを考えてたに決まっているのに…っ(いや、山本くんはソレを知らないんですけども!)思わず大声を出してしまって、ソレに気づいて口を手で覆うけど、もう遅いです。鼓膜、大丈夫かな?って心配していると、けたけたと笑い声が聞こえてきました。どうやら大丈夫のようです。うるせーって言いながらのそれは怒ってるかんじは全くなくって、あたしまで笑顔になります。

 「で、何考えてた?」
 「え、あ、えっと…その……」

 けど、すぐに質問をぶり返されてしまって、あたしの口からはしどろもどろな声しかでず。何とかここで話をそらせないものか…。そう考えて、言葉にならない声を何度か出したあと、

 「山本くんは何考えてたの?」

 こんなのでは誤魔化せられないかな?と思いましたが、案外山本くんはそれに誤魔化されてくれたようでした。あたしの問いかけに俺?と聞き返してくる山本くんにうん、って肯きを返すと、また1〜2秒の沈黙があって。

 「…のこと、考えてた」

 ぽつりと呟かれた言葉に顔が瞬時に紅くなるのがわかった。あたし、心臓持つかな…今実際会ってたら照れてるのがバレバレだと思います。電話でよかったって思うものの、そういってくれる山本くんの顔、見たかったなぁって思ったりしちゃったりして。
 なんて、脳内では色々と考える余裕があったけど、口に出てくるのは気の利いた言葉は何一つ出てこず、え、あ、う…なんてまるで言葉を忘れてしまったみたいな声しかあがりませんでした(もう、のバカ!)電話越しに、山本くんのちょっとぶっきら棒な声が聞こえます。何だよ、だからメールや電話したんだろ?って言う声はいつもよりも低くて男らしい。
 でも、きっと電話越しで山本くんも照れてるんだろうなって今の山本くんを想像してみました。う、やっぱり会って言われてみたかったかも!なんて後悔しはじめていると、電話の向こう側から、おい、って呼びかけ。

 「……?」
 「え、あ…はい?」
 「…なんか言えって」
 「あー、うん…えっと」

 なんか言えと言われても最終的には嬉しいとか幸せとか言うのと一緒に恥ずかしさが溢れてて、言葉に出来ないのです。何で山本くんの一言ってあたしを一喜一憂させるんだろう?って、解りきってることを考えた。そんなの、あたしが山本くんを大好きだからに決まってるのに。

 「…えーと…ね?」
 「ああ」
 「あたし、も……ね?」
 「…うん」

 きっと今のあたしの顔、さっきよりも紅くなってる。そして、絶対そんなあたしに山本くんは気づいてる。

 「あ…あたしも、山本くんのこと、考えてたよ?」

 そういったら、やっぱりな!って笑いを含んだ声が返ってきた。



 …本当に本当にあたしってば、今、世界で一番の果報者に違いない!





携帯電話のNo,00





 あとがき>>念願の山本!結局最初に書いてる2作は途中のままですが、ぱっと思いついた分をどんどんUPしていけば良いですよね。ウンウン。日記に初めに載せていましたが、新たに加筆修正をして(あまり変わっていませんが!)UPです。結構評判の方が良くて嬉しいです(ここ、とりあえず庭球サイトなのに!)(笑)改めて復活人気の凄さを知りました(しみじみ)

2006/11/05