大好きだ。って。 言えたら、どんなに楽だったか。 だけど、私は生憎、そんな可愛らしい女じゃなく。 ましてや、年下なんかに弱音を吐くのは、私のプライドが許さなかったのだ。 恋しくて、会いたくて 赤也が、来なくなって、どれくらい経つだろう?いつの間にか、長い長い夏休みは終わりを迎え。いつの間にか、あの暑いと感じていた日々は、少しずつではあるけれども、和らいでいった。夜は少し、肌寒いと感じるくらいだ。と言っても、まだ半袖で十分な気温だけれども。今は、9月の半ば。新学期に突入して、もう暫く経つ。だんだん不規則だった生活習慣も整えられて、朝が辛いなんて思うのも少なくなってきたところだった。赤也に会わなくなって、約一ヶ月、何だかあっと言う間に過ぎたような気がした。あっという間だけれど、それでもあの時のことは今でもすぐに思い出される。 「じゃ、さよなら。 さん」 鮮明に蘇るのは、あの時の悲しそうな赤也の表情。…本当は好きだったのに。赤也と過ごす日が何よりも大切で。…愛しさがそこにはあったのに。なのに、どうして自分は素直になれなかったんだろう。…そんなの簡単だ。自分のくだらないプライドの所為だ。 「!」 不意に声を掛けられて、私は突っ伏していた顔を上げた。のろのろとやる気なさそうに上げたので、声を掛けたは膨れッ面になる。それでも私はあえて無視して、何、ときだるそうに尋ねた。…気だるいわけじゃないけども、そうしないと、このもやもやした気持ちが溢れ出そうだった。 「何、じゃなーい!なんなのよ、新学期に入ったにも関わらず、どうしてそう、腐ったしいたけって言うか、カビが生えた隅っこって言うか……」 はブツブツと文句を言い始めた。それを私は横目で見やる。……いつも、思う。この子は、表現がいちいち回りくどいと。いつまでも最後に結びつかないので、私ははあ、とため息をついて、の代わりに答えを言ってみた。 「つまりは、元気がないって?」 「そう、それ!辛気臭いの!」 それでも、あれだけ回りくどいとか馬鹿にしていたくせに、一発でわかってしまう私は、凄いと思う。自画自賛じゃなくて、本当にそう思ってしまう。きっと、長い付き合いだからだろうか?多分、そうなんだろう。いつの間にか仲良くなって、気が付けば学校の時間は殆ど横に彼女がいたからだ。 「……なんか、あったの?」 そんなことを心の中で考えていて、不意に聞こえたのは、心配そうな、の声。じっとを見やると、同じように心配そうな顔がそこにはあった。私はふっと笑うと、静かに首を振る。でも、次の瞬間、私のおでこに小さな痛みが走った。……でこピンされたのだ。 「……、痛い」 言うと、は頬を膨らませた。私はそれに苦笑する。そしたら笑い事じゃないって、怒られた。分かってる。が私のことを本気で心配してくれてると言うことくらい。わかっていたけど、それでも、私はあえて知らないふりをやり通したいのだ。私の、ちっぽけな、プライドなのだ。 「本当に、なんでもないから」 それでも、尚も納得のいかないって顔、してた。私は、そんなを見上げて、フッと笑う。すると、クラスメイトに呼ばれた。私はゆっくり立ち上がる。きっと、委員会か何かの所用だろう。私はクラスメイトを一瞥して、それからまたを見やった。それから、ゆっくりと席を立つ。椅子が、ガタンと小さく音を立てた。 「じゃあ、行くね?」 「……行ってらっしゃい」 そういえば、ふて腐れた顔をして、至極あっさりと返してくれた。私は、少し口元を上げて、の頭をポンポンと軽く叩く。それからすぐに手を離すと、そのままクラスメイトの待つ出口へと向かっていった。 ごめんね、。本当のこと、言えなくて。もう少し、待って欲しい。今はまだ、時間が欲しい。……全てを受け入れる時間が。そしたら、笑顔で言えるようになるから。でも、今はまだ無理だから。だから、今はまだ知らないふりをしていてほしい。ごめんね、わがままで。でも、暫くそのわがままに付き合ってほしい。……今だけは、私の嘘に付き合って。 私は、じんわりとしてきた涙腺を押さえ込むように、硬く瞳を閉じた。 ― Next あとがき>>第二章スタートです!二章目のプロローグみたいなものなので、今回と次回は短めです。 |