毎年、この日が来るのが待ち遠しかった。
大好きな家族や、友達に「おめでとう!」って言われる瞬間が大好きだった。
だけど、貴方に会ってから、この日が来るのが、怖く感じるようになった。
笑顔の君に振り回されて
「誕生日おめでとう!」
教室のドアを開けると共に聞こえた声。確かめなくても解る。その声の主は、あたしの大事な友達だから、だ。笑顔でひらひら〜と手を振ってる友人に、同様にあたしも手を振り返した。それから自分の席に荷物を置くと、その友人と別の友人数人があたしの周りを囲む。そして口々に紡がれる言葉は、「おめでとう」の言葉。とっても嬉しく思う。「おめでとう」と祝ってくれる人がいると言うのは本当に幸せなことだと思う。何年も続く、プレゼント渡し。もう恒例になってるそれに、顔が綻ぶのが解る。
「ありがと!」
代わる代わるに渡されるプレゼントを、有難く頂戴して、あたしは一人ひとりにお礼を言った。
「いやー、でもアンタももう15かぁ」
「皆より一つ年上になっちゃったね」
くすくすと冗談っぽくおねえぶって見る。すると、友人の一人が調子に乗るなとあたしの頭を軽くチョップした。良い音をしたおでこを数度撫でて、また笑う。だけど、胸のうちでは確かに、ズキリと痛む気持ちもあった。祝われることが不快なわけじゃない。おめでとうって言われるのが嫌なわけでは決していないけども。
…15、かぁ…
チクチクと痛む胸元を押さえて、友達にバレないように笑顔で誤魔化す。確かに、彼女達にお祝いされるのは嬉しいのだ。それは嘘じゃない。紛れもない真実で嬉しいし幸せだと思う。…けど。
「先輩!」
ガラリ、と扉が開いたと思ったら、次の瞬間聞こえた自分の名前。呼ばれたんだと気づいて、その時、一瞬一際大きく高鳴る胸の鼓動。ドキっと反応するのは、きっとその人に呼ばれたからだと思う。今でもトクトクと小さくはなったけれども鳴り止まない心臓に手をやって、平静を装って振り返った。振り返らなくても、相手なんてあたしの中では出ているんだけど。だって、あたしのことを先輩なんて呼ぶ人、一人しかいないし。それに、この声は、今、あたしの中で一番大きな存在になっている人なんだから。
「あっ、赤也!」
あたしの、片想いの相手。あたしが名前を呼ぶと共に歩き出していた赤也は、あっという間にあたしのところにやってきた。それから、目の前に立って、にっかと笑う。その時に彼の黒髪のクセ毛がふわ、と揺れた。嬉しそうな笑顔に、きゅう…と胸が締め付けられる。その瞬間に、どうしようもなく自分が、赤也を好きなんだということが解った。
「ど、どうしたの?」
平然を決め込もうとしたけども、意識しすぎて反対にぎこちない。声は変に裏返ってしまったし、何よりどもってしまった。不意打ちの笑顔に顔が紅潮していくのも解る。こんなんじゃあ誰がどう見てもあたしが赤也のことを好きなんだってことがモロバレだろう。だけど、解ってるけど、好きなものはどうしようもないし。隠せるならとっくにやってる。未だ早鐘を打っている心臓はどんどん速さを増していく。あたしの、彼への気持ちに比例しているみたいだ。
「いやー、今日、先輩誕生日っスよね?」
それから紡がれる、赤也の言葉。嬉しそうに、にこーと笑う彼。途端、さっきまで鳴っていた心音が、ズキっと痛んだ。そんなあたしの心情には全く気づかない赤也は「誕生日おめでとうございます」と変わらない笑顔で続けた。去年も言われた祝いの台詞。去年までは嬉しかった台詞。だけど、今年は。
「あ、りがと…」
嬉しくない、と言えば嘘になる。けども、何だか複雑で。その言葉を言われる度に、胸が苦しくなるのも本当で。嬉しいけど喜べない。それが今の心境なんだと思う。お礼を言いながらも、ひきつる笑顔がその証拠。こんなんじゃ本当に喜んでるなんて思われないだろうのに。
「先輩も今年で15歳っスか…四捨五入すればハタチじゃん!」
言われる度に、グサグサとまるでナイフで心臓を抉られるような痛みが胸を襲う。四捨五入すればハタチ。きっと、彼に恋をしていなかったら素直に喜べていただろう言葉。けれど、今のあたしにとってはただあたしを苦しめるだけに過ぎない台詞で。まるで、赤也との距離を、見せ付けられてるみたいで。遠い存在だって解らされたみたいで。辛くなる。
「…あは、でも四捨五入って言っても、実際はまだ15って言う子どもだしね。赤也は13だっけ?2コしか違わないんだもん」
頑張って笑顔を作って言えば赤也はほう、と感嘆の息を漏らした。
それから輝いた瞳があたしを見る。
「さっすが先輩、なんか言うことが大人みたいっスね」
言った言葉は、更にあたしを追い詰めた。
…違うのに。
さっきの言葉は赤也に言ったと言うよりも、自分に対する言葉だった。2コしか違わない。と思うことで壁を、距離を、少しでも縮めたかったんだ。それなのに、それを見事壊してくれた。
「もう、からかわないで」
ずきずきと刺さるような胸の痛み。何も知らない赤也の笑顔が妙に悔しくて、苦しい。
でも、同様にとても、愛しい。そして、また好きだって、彼に惚れていく自分。
甘酸っぱい恋心を抱きながら迎えた誕生日。
そして今日もあたしはあなたの笑顔に振り回されてしまうんだ。
切ない気持ちを胸に、あたしは今日も少年への想いを胸に秘める。
― Fin
あとがき>>てわけで(どうゆうわけで?)自分の誕生日に自分のためのプレゼントとしてアップした夢。あとあと不二のを書かないってことはついに一番が赤也に!?と言われる原因になったブツ(笑)違うよ!あたしは不二が一番なのさっ!…VSでも書けばよかったのか…。いや、でも、ナ…さすがに年齢が年齢だし(笑)
2006/06/13