やっぱり年下の男の子






「あ!」

中々泣き止まない私を優しい手つきで撫でていてくれた切原君だったけれど、急に大声を出した。唐突な声にえ、っと鼻声で彼を見やると、彼は「ハンカチありました、ハンカチ!」と私に差し出す。

「ちょっと汚れてますけど、多分大丈夫ッス」
「……」

そう言われたら、「有難う」なんて素直に受け取れる筈も無い。黙してしまった私に切原君は小首を傾げると私の掌にそれを押し付けた。さっきまで言わずとも察してくれた彼とは思えない。不本意ながら受け取ってしまったハンカチを見つめる。彼にしては上品…て言うよりも彼の好みでないような渋いハンカチ。でもそれは何処かくしゃくしゃだ。誠意だとは解っていたが、聞かずには居られない。

「コレ…なんでぐしゃぐしゃなの?」
「え…あーそれ、真田副部長に借りてたんス!」

それだけじゃ、意味が解らない。ただ一つ解ったのはだから渋い色なんだという事だけだ。これが真田君の物だと聞けばちょっと頷ける。じっとハンカチを見つめていると黒い染みのようなものまで発見してしまった。無意識に眉根がよる。だけど彼は私の異変には気づかずに、続きを喋り始めた。

「俺、ハンカチとかそーゆーの持たないんですよね、それを前に真田副部長に指摘されちまいまして『ハンカチくらい持っとるのが常識だ!なっとらん!』って説教くらっちまって…持ってないって言ったら『しょうがないから貸してやる!』って借りてたままだったんス」
「……」
「基本ハンカチなんて普段持たないから使わないし、借りてたこともすっかり忘れてたんスけど、そのお陰で今こうしてハンカチ出せてよかった!さ、ズズイと使ってください、先輩!」

何だかどんどん使いたくなっていくハンカチ。

「ちなみに、どれくらい前なの?それ…」
「え?…えーっと……三ヶ月前くらいっすかね?」
「……………」

それ、使って無くても汚いよ!そんなの出すなよ!言いたいことは沢山あったけれど、彼が良かれと思ってしてくれてるんだと思ったら、押し留まることが出来た。

「いや…必要ない、よ」
「…あ、ほんとだ。涙、止まったっすね!」

使われなくてちょっと残念ですけど良かった。と本当に嬉しそうに笑うから、私は釣られて笑う事にした。
本当にさっきまでどうやっても止まらなかった涙が止まってしまうなんて、それ程強烈な話だったのだ。私にとって。

彼と付き合うと決めたの、ちょっと早まったかな?と早くも後悔し始めた私だったけれど、純粋無垢な笑顔を見ると言い出せなくて。まあそれもチャーミングって事で許せるのかもしれない、と思ったり思わなかったり。

「…とりあえず、これからはチェックしなくっちゃね」

ポソリと呟くと切原君は聞こえなかったのか「え?なんっすか??」と聞き返してきたので私は笑顔を貼り付けて「ううん、こっちのこと」って返す事にした。

とりあえず、三ヶ月前のハンカチとやらを洗って、真田君に返してあげなくちゃ。そう心に決めて。





― Fin





後書
こういうオチ。『年下の男の子』を鼻歌で歌っていたら、『その歌赤也っぽいよね』と言う話から『汚れて丸めたハンカチ持ってそう』と言う結論に達した。それが書きたかったのです。くだらなくてスミマセン。でもたとえそうだとしても愛せる!…と、思う…いや、愛せないかも(…)
2008/06/14