私の好きな人は一個上の先輩で、かっこ良くて、先輩の周りにはいつも沢山の人だかりが出来てしまうほどの人気者。そんな先輩に恋をして、早五年。あの時感じた先輩のイメージは、ずいぶん変わった。
…先輩は、悪魔だ。
デビルな先輩
〜『偶然』はたゆまぬ努力によって生まれるものである。〜
ドキドキドキ。さっきから心臓が飛び出そうなくらいに活発に動いている。
走っている所為も関係してるのかもしれないけど、多分それとは別。
あとちょっと。もうちょっとで折角のチャンスが生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。
とりあえず今の私に出来るのは、いつも以上にはりきって走ることだけだ。
「ああう!あとちょっと」
情報によると、あと一分後、部活に行くためにこの道を通るのだという。
でも先輩は急いでるからもしあと一分後辿り付けなければ手遅れになってしまう。
折角の柳先輩情報。そのために私はありとあらゆる方法を使ったのだ。…思い出したくない事だけど。だからこそ、失敗は許されない。
頭をぶんぶんと振りながら、時計を見る。あと数秒。ああ、ヤバイ!なんて思ってたら、一際目を惹くクセのある髪型。―――先輩だ。
私は乱れた髪の毛を手グシで直して―――
「あ、赤也先輩っ!ぐ、偶然だね…っ!」
「…息を切らした奴が何言ってんだよ」
「こ、これから部活?」
「…シカトかよ」
今日も素敵に冷たい。ハア、と目に見えて先輩はため息を吐き出した。そんな彼の後を追いかける。
「ね、ねえ赤也先輩」
「…何」
「彼女にして!」
「ヤダ」
「そ、即答!」
少しは考えるフリでもしてくれたら良いのに、変なところで素直な先輩。
目に見えて落ち込むと先輩がまた一つため息を吐き出して、私を見下ろした。「お前さ」と続く声に耳を傾ける。
「な、なに!」
「毎回毎回おんなじ台詞言ってて飽きない?」
コバカにしたような声で(いや実際にバカにしてるんだと思う)先輩は私を見下ろすと哀れんだような顔をした。
私は先輩の言葉に思いっきり頭を横にふって完全否定。飽きるわけない。てゆうか飽きる飽きないの問題じゃないのだ。
「酷いよ!純情な乙女心をそんな一言で片付けるなんて!」
「お前のは純情って何だ。乙女って誰だよ」
「わ・た・し!私、先輩のためなら何でもやり遂げる自信あるよ!!」
そう言ったら先輩は「本当にしそうでこえぇよ」とぽつりと溢した。そんな小さな呟き一つも逃さない。
先輩のいう事は私の絶対なのだ。冷たい風に言うけど、そもそも私をこんなにしたのは先輩の発言一つなんだから、そういう目で見るのはやめてほしい。
「そんなに言うなら先輩が私を彼女にしてくれれば」
「なんでそういう発想になんだよ。やだよ」
「なんで!」
「…胸。でかくなってねえじゃん。そんなんじゃ欲情しない」
「!!」
そうして先輩はスタスタとテニスコートへと向かってしまった。
…やっぱり、上げて寄せるブラじゃ先輩の目は誤魔化せなかったか。自身の胸を見下ろして、頑張って作った谷間を見つめ、私は息を吐き出した。
先輩の彼女への道は、茨道だ。
「…意地悪」
誰も居なくなった廊下で、私の呟きだけが小さく響いた。
― Fin
2008/07/02