4月20日。
それはあたしの運命を分ける日。
その日に決着を付けてやる。覚悟しとけ、ドンカン男!
ハッピー?バースデー
今日は待ちに待った4月20日だった。あたしはいつもより早く起きて、いつもより念入りに髪を梳かして、いつもより気合いを入れて家を出た。いつもよりも早い時間に出たから、これまたいつもより早く学校に着いちゃったりした。それからいつもと同じように教室へ続く階段を、いつも通りに上って、いつも通りに教室のドアを開けた。でもそこはいつもみたくガヤガヤと騒がしくなく、シンと静まり返っていて、まるでそこだけ別の空間みたいな感覚だった。それでもそんな筈は無いって分かってるから、あたしは何気無しに教室に入って、自分の席に鞄置いて、また何気無しに黒板を見た。別に見たいワケじゃなかったけど、真正面にあったから本当に何気無しに、だ。それで何気無しに見たら、昨日の日直はきちんとして無かったようで、黒板の日付が昨日のままだった。あたしは19日、と書かれたのを見て立ち上がる。それから19日と書いてあったそれを綺麗に消して新たに20日と書いた。そんな小さなコトに満足して、思わず顔がニヤける。
「何やってんだよ」
一人黒板に向かってニヤけていると、横から声がかかった。その声に反応して勢い良くそっちを向く。そうすれば、ブン太がそこにいた。ヤバイ。瞬時にそう判断してニヤけた顔を何とか元に戻そうと試みる。
「何も」
何とか元に戻った顔でブン太に素っ気無く答えるけれど、もう既にバレバレなのは一目瞭然。横からの角度ではバッチリとニヤけた顔は見られてしまっている。ブン太は堪えきれなかったのか、行き成り吹き出すとあたしの元に来て、同じように黒板を見つめた。そして一言。
「……ニヤける要素ねぇだろぃ」
そりゃそうだ。君にとっては笑う要素なんてあるわけがない。そう言いたかったけれど、その言葉は飲み込んだ。コトをややこしくなんかしたくない。
「だから何もって言ったじゃん」
それからまた素っ気無く返すとあたしは何気なしを装って、黒板に背を向けた。それからいつもと同じテンポで席まで歩いて、ゆっくりと腰をおろす。瞬間ブン太と目が合った。ブン太は?とワケが解かっていないようで黒板と睨めっこしていた。
「プッ」
それが何だか面白くて、あたしのツボに大ヒットした。一度吹き出したら止まらないのが笑いのツボと言うもので。あたしは目の前にブン太がいることも忘れて、お腹を抱えて爆笑した。そうすればブン太のきょとんとした顔は一変して不機嫌そうな顔になる。微かに眉をひそめ大きな瞳を少し細めるその表情は、訝しげな、って言葉がピッタリだと思った。それできっとその顔のままでちょっと拗ねたような声を上げて"なんだよ"って言うに違いない。
「なんだよ」
ほら、ね。やっぱり。ブン太の言いたいことなら、大体解かるようになってきた。それは長年友達と言うものをやっているからだと言う理由だけじゃない。きっと、あたしがブン太に惚れてしまったから言うのも関係しているんだと思う。そんなブン太をあたしはチラっと見つめて笑いを堪えながら「何でもない」って答えた。そうすればまた今度はもっと怪訝そうな顔をする。
「気になるだろぃ!」
「気にすれば?」
本心だ。だって癪だ。
いつもいつもあたしばかりこの男に振り回されて、その度に悩んで。(それはあたしがブン太に惚れてるからなんだけど)だから少しくらい気にすれば良い。それで悩めば良い。(それくらいきっとバチは当たらないハズ)それで、今日1日ずっとそれだけ考えれば良い。(あたしのコトだけ)今日1日くらい、良いハズだ。(それだけでも嬉しいから)
「なんだよ、意味わかんね!4月20日っつったら……」
そこで急に言葉が切れる。何だか嫌な予感がするのはあたしだけだろうか。そう、とてつもない不安と言うか。急に心臓の音が煩くなって、まさか、って思う。そうすれば、ブン太がにや、って言う笑いを向けるんだ。
「もしかして、俺の誕生日だから嬉しいとか?」
なんて意地悪い笑みだろう。(でもそんなところも好きなんだ)
なんでこうやってあたしを振り回すのだろう。(ほんのたった一言で。それでも好きなんだ)
なんで、なんで。(あたしはこんなにも、ブン太のことが、)
「……そうだったら?」
だから、可愛げなく返す。ちょっとした反抗。振り回されっぱなしじゃ悔しい。
「プレゼントを貰うまで!」
にへら。って嬉しそうに。でもちゃっかりと両手はあたしの前に出されていて。悔しい。勝てないのが。結局は惚れた弱味って奴で。振り回されてばっかりなんだ。
「…あげるのは良いけど……」
「けど?」
「良く考えて受け取ってね?」
そうすれば、きょとんって顔して。今日何度も見たその間の抜けたブン太の顔をじっと見つめる。あたしはブン太が大好きなんだよ。そう言ったら、ブン太は綺麗な赤い髪と同じように頬をほんのりと赤く染めた。ずっと変化の無かった二人の関係。少しはこのドンカン男にも伝わったかな?
― Fin
2005/05/07