「かったりぃー!」
前を見れば大好きな彼女。
もっとも楽しい時間のはずなのに、何故か下を向けばもっとも大嫌いなノート。
大嫌いな勉強道具が一式揃えられていた。
ガムをくちゃくちゃ噛む。俺の大好きなグリーンアップルの味はだんだん薄れてきた。
「で、でも…ブン太君、やろうよ」
やる気の全くない俺を見てか、目の前に座っている彼女が話しかけて来た。
困ったような顔にぐっときて思わずコクっと頷きたくなる衝動にかられて、はっと我に返る。
「だってやる気でねぇ」
こんなこと言ったらコイツを困らせるだけってわかりきってる。案の定コイツは更に眉をハの字にさせて俺を見た。
―――この顔は苦手。
さっきもだったけどグラッときちまう。だけど、ここで「やる」とはどうしても言えなかった。
だって、せっかく久しぶりに部活がオフになって彼女と二人きりなのに。それなのになんで勉強なんかに時間を注ぎ込まなきゃなんねぇんだ。
「…でもあの……明日、補習、だし…早く、受かって欲しいし…その…真田君に怒られてるブン太君、見たく、ないし」
……自業自得、なんだよな。
まるで心ン中読んだみたくコイツは言った。たどたどしい口調がやけに現実感を感じさせる。
いや、まあ補習っつーのは紛れもなく現実で事実なんだけど。
「だから大丈夫っつーのに。ただこの前の小テストは、」
つい、睡魔に負けて爆睡しちまったんだって
何度も言い聞かせたセリフ。まぁわかんなかったっつーのも要因ではあるけど、そのことは言わなかった。
言えば絶対「じゃぁやるべきだよ…!」って泣きそうな顔するに決まってんだ。
「だからさ」
「…きゃっ…!」
言いながらコイツの手を引っ張る。
少し高めのコイツの声が俺の耳に届いた。
そして目に写るのはさっきよりも近くなったコイツの顔。
今ならキスできるんじゃないかってくらい近い。
「ぶ、ブン太君…っ」
顔を真っ赤にして俺の名前を呼ぶ。
こんな瞬間、大好きだなぁと自分がどれだけ本気なのか思い知らされる。
勿論嫌じゃねぇけど。
「勉強は必要ねぇだろぃ?」
教科書を部屋の隅に投げ捨てて目の前で慌ててる彼女にキスをした。