暖かい陽気に誘われて、隣りにいる彼女を見れば、
「…ワリィ」
「う、ううん!良いんだよ、気にしないで…?」
そうは言うものの、気にならないわけない。蒸気した頬。薄く開いた口から漏れるのは少し荒い呼吸。額に浮かぶ汗。横目で見れば今にも倒れそうなのは一目瞭然。
俺たちが今いるのはストリートテニスのコート。
ここに来てかれこれもう2時間経つんじゃないだろうか。本当なら今日は久々のオフでのんびりと「学生の休日」っつーやつを楽しもうと思っていた。そのために、コイツを呼んだのに。
それまでは良かったんだが、行き成り跡部から電話が来て急きょテニスをすることに。
断ることも出来たんだけど、そんなときコイツが「宍戸君テニス好きなんだから行こうよ」なんて言うから。
気を遣ってくれたんだとは気付いた。それでも無理に笑うコイツの優しさにいつも甘えてしまっていた。
「おい、無理、すんなよ」
不器用な自分が嫌になる。もう少し優しい言葉をかけたい気はするんだが、うまく言えない。
大体にしてそんなこと軽々しく言うのはなんかはずいし激ダサだろ。
「大丈夫」
出た。コイツの口癖。『大丈夫じゃないくせ』に俺が心配すれば必ずそう言いやがる。
迷惑かけたくないっつーコイツの気持ちもわかるけど。もう少し頼ってくれてもいいんじゃないか。
「大丈夫じゃねぇだろ」
今にもフラフラして、辛そうなのに知らん顔出来るわけがない。俺は溜め息混じりで呆れ声を出した。
そうすればコイツが「うっ」と言葉を詰まらせた。それからごにょごにょと文句のような言葉を何度か一人ごちる。
「ったくしょうがねぇな…」
「えっ宍戸君…?ひゃ…!」
………はずい。流れる沈黙が果てしなく重く感じる。
下を見ればコイツの呆気にとられた顔が見えた。それが更にはずくて思わず視線を外す。
「えと…?ひざ、まくら?」
疑問系のコイツの声が下から聞こえる。
するんじゃなかった、心の中で少し後悔するも、下を見下ろせばそんな気が失せた。
「…何笑ってんだよ」
「だって…なんか新鮮だなって」
へへへ、とはにかみ笑いを浮かべて。
「宍戸君、ありがとっ」
「もう二度とねぇからな」
暑い日差しが眩しかった。