名前を呼ばれて、ふっと彼女のほうを見た。
何か不安げな表情が目に映る。僕はん?と尋ねるように小首を傾げた。
すると彼女は言いにくそうに口をもごもごと動かしたあと、大きく息を吸い込んだ。
「不二、くんは」
少しだけ、口調が強まったように感じて、僕はまたうん、と肯いてみる。
そうすることで、彼女が次に続く言葉を言いやすいようにしてるつもり。
すると彼女の眉間に深く皺が刻まれた。それから、一言。
「…不二くん、はその…私と付き合ってて、た、楽しい…の?」
突然の彼女の物言いに、僕はがらにもなく呆けてしまった。でもそれは目の前の彼女の表情を見て、すぐに我に返る。
しゅん、とした姿に愛しさを感じずには入られない。でも、ずっと悩んでいたんだと思うと、胸が締め付けられる。
「楽しい、とは違う…かな?」
言えば、え!と声があがった。
その表情は不安顔。誤解させてしまったのは一目瞭然。
「だって、楽しいだけなら、ただの友達だって一緒でしょ?」
「…」
「僕は、君が好きだから…だから付き合ったんだけど?言うなれば、楽しいし、面白いし、嬉しいし、幸せ」
ぎゅ、と抱きしめる。小さく声が上がった。
きっと照れてるんだろう。表情は見えないけど、きっとそうだと解った。くす、と笑みがこぼれる。
「あた、し…ずっとあたしだけが不二くんのこと好きなんだ、って思ってた」
声が震えているのは多分気のせいじゃない。ああ、ずっとそれを抱えていたのか、って今更ながら思った。
ぽんぽんと彼女の頭を優しく撫でる。すると彼女の手が僕の背中に回った。
それから、しがみつく様に、強く服を握る。
「嬉しい。あたしも不二君が大好きです…」
「うん、僕もだよ」