何度目になるんだろう。パカ、と開けるケータイ。
何度目になるんだろう。メール問い合わせのボタンを押して受信を待つ。
でもディスプレイに映るのは『新着メールはありません』の文字。
そのたびにガックリ肩を落とすのは…一体何度目なのか自分でもわからない。
「やっぱり来てない、か」
ポツリとつぶやく声が空しい。それからケータイをベッドに放り投げてみる。
ボフっと小さな音がした。でも放ったらかしにできなくってすぐにまた手に持ってみる。
『…大事な話があるの…今日、メールするね?』
脳裏に浮かぶのは少し緊張した面持ちのあの子。
同い年で、同じクラスで、同じ部活のマネージャー。
―――…俺の、片思いしてる女の子。
ずっと友達やってて、他愛もない話して。バカみたいに笑いあって。
いつも隣にいてくれたから、それが当たり前になってて。なかなか自分がまさかあの子のこと好きになってるなんて気づかなかった。
でもいつの間にか、隣にあの子がいないと落ち着かなくなる自分がいて。あの子が俺以外の男と喋ったり、笑ってるのを見ると、胸がぎゅーっと苦しくなって。
本格的に気づいたのは、不二の一言。
『…それって恋なんじゃない?』
そのとき、ああ、そっか。ってバカみたいに自然に納得した。
そのとき、初めてあの子に片思いしてるって気づいた。
「また新着メールありません、かぁ〜」
こうして待つことかれこれ数時間。部活を終えて、家に帰ってまずケータイチェック。
次はご飯の前後。(ご飯中一回見たけど姉ちゃんたちに怒られた)それからテレビ見てるとき。そんでもやっぱりこなくって…。お風呂の前後にまたチェック。
そして、今。だんだん髪の毛が自然乾燥してきてる。
いっつもはドライヤーするけど、もしドライヤーの音で着信音聞き逃すのなんかヤじゃん。
でも一向にこなくって。
もしかして忘れちゃってんのかにゃ?―――不安に思う。
もしかして疲れて寝ちゃったかな?―――それなら仕方ないと思う。
でもどっちにしても残念には変わりはなくて
「ああもう!なんか俺ってバカみたい!」
こんなことで、慌てふためいて。でもしょうがない。
だっていつもと違う雰囲気で送るね、なんて言われたら、誰だって不安に思う。
俺から送るって手もあるんだろうけど、その「大事な話」を切り出されるのをちょっと怖がってる自分がいる。そんなんだから、もう俺には待つっていう選択肢しかないわけで。
基本的にメールって送るよりも送られて来た方が嬉しい。
メール待ってる時間は楽しみだし案外好きだけど
でも。でも、でも。
「メール待っててこんなに緊張すんの初めて…」
ドキドキがとまらない。わくわくがやめられない。でも同様に不安が大きくなっていく。
こんな風に思うのは君だからだってこと、わかってんのかな?
あの子のたった1通のメールで、そわそわして。
あの子の一言で、ばくばくして。
あの子の何気ない仕種にどきどきして。
君の一挙一動に振り回されてる。
「はあ、やっぱり新着メールありません…か」
俺はケータイの時計を見た。…あと少しで今日が終わる。
ケータイの時計の数字は23:59:22
どんどん進んでいく秒数を目で追うこと数秒。
ついに、ケータイの光が切れて、俺はディスプレイの文字が見えなくなる。
ため息をついて俺はベッドにねっころがった。そんときにケータイもついには手放して。
でも、それもつかの間。
ピカと、さっきまで押さないと光らなかったケータイの画面。
俺はすぐさまケータイを引っつかんで画面を見つめる。
食い入るように見つめると、さっきずっと待っていたメール受信の文字。
―――どきどきが最高潮。わくわくが急上昇。
『メール1件』
震える手で、メールボックスを開く。そうすれば、見慣れた文字。
ずっと待ってた人の名前。大好きな人の…名前。
ゴクリと生唾を飲み込んで、親指でボタンを押した。
「……!」
メールを読んで、もう考える暇なんかない。次にするのは、彼女に電話。
メールなんかじゃすませれない。メールなんかじゃ物足りない。
トゥルルルル、長いコールが数度鳴り続けたあと、聞こえるのは大好きな人の、声。
"……ずっと言いたかったんだ。私、英二くんのことが大好き。"
時刻は0:00
この日、この時、この瞬間、俺と彼女は恋人同士になった―――