今、僕らは日直の仕事をしていた。あとは戸締りをして、日誌を書くだけ。
日誌を書く人と戸締りをするほうに分かれようと言われ、僕は戸締りの担当になった。
それから数分、…そんなにかからなかったかもしれない。
僕は戸締りを全部確認して、日誌を書いている同級生のほうに歩いた。
それから彼女の前の席に座る。椅子の背に腕を置いて。
必然的に向き合う形にして、僕は暫く日誌の字を追っていた。
「…あれ?何か、食べてる?」
そうして気づいたのは、書かれてある字を追い終わった後。
もごもごと不自然に動く彼女の口元を不思議に思った。
僕は思わず声を出して問う。
そうすれば彼女はん?とずっと日誌に向いていた顔を上げ、僕を見た。
その間も動く、口。
「口、動いてるから」
そう付け足せば、彼女はあ、と声を漏らし口を手で覆った。
それから罰の悪そうに苦笑する。そして、ぺろ、と出されるのは、赤い舌と…
「飴?」
舌先に転がるのは少し小さくなった飴玉。
それを僕が見たのだとわかると、彼女はまた口の中に戻した。
今度は鞄の中に手をやって。出されるのは開いた袋。次に差し出されるそれ。
「…不二君も、どう?」
苦笑いの彼女を一度見て、差し出されたそれに視線を移す。
それからまた彼女のほうを見て…。
「じゃあ、もらおうかな?」
袋の中に手を突っ込んで、僕はひとつ掴んだ。
「新発売なんだって」
わたし、そういうの弱くって…言いながら照れる彼女。
「あはは…学校ではお菓子禁止、だよね」
「でも、それは授業中であって、今は放課後だからいいんじゃない?」
良く、ファンタを飲んでるうちの1年ルーキーを思い浮かべた。
「それに、たまには良いんじゃない?こういう悪さも、ね?」
そう言えば、彼女は一瞬きょとんとした顔をして。そうだね、と悪戯な笑みを浮かべた。
甘いキャンディーが口内に広がる。それは、僕と彼女の小さな秘め事の証。