「秋の夕日って、格別だよね」
ポツリと呟かれた彼女の言葉。
突然の物言いに少し呆けながら彼女を見た。
「お前、唐突すぎるんだよ」
「むっ、だってそう思っちゃったんだもんっ」
呆れた目でこいつを見れば、こいつは頬を大きく膨らませた。その幼すぎる言動に思わずため息が漏れる。
だけど、そんな子どもっぽい言葉・仕草に引き寄せられる自分がいる。いつの間にか、抜け出せなくなっていて。
「リョーマ君?」
いつしか、愛しさが出て。
「まだまだだね」
「え?ちょ、どういう意味!?」
ポツリと呟いた自分自身に言った言葉。
でもこいつは勘違いしたらしく、少し怒った、納得のいかないって顔。良くコロコロと変わる表情。
怒ったり、かと思えばすぐに笑ったり。悲しいときには泣いて。叫んで。素直な、性格。
そんなところに惹かれたんだろう。いつの間にか目が離せなくなっていた。
笑顔を見るたび、優しくされる度に、照れた。
「…別に、独り言」
そう言って俺は帽子を深く被り直す。
顔が熱い。これはさっきまでテニスをしてたからじゃなくて…。
「ほんと俺もまだまだだね」
ポツリとまた呟いた。そうすれば、彼女の不思議そうな問いかけ。
目の前に現れた彼女の顔に、少しドキドキして。
でも、そんな様子を悟られたくなくて。俺は悪戯に笑って
「…っ!リョーマ君っ!!」
不意打ちのキス。真っ赤になった彼女の顔。
「何?」
そう問いかければ、コイツはブツブツと何かを呟いて。
「何でもない」
腑に落ちないって顔をしながら、少し口を尖らせた。そんな姿が、愛しい。
秋の夕日に少し小さい影が二つ。