「わぁ…もうすっかり秋だね〜」
そう俺に言うと彼女は顔をあげた。目に映るのは、大きな紅葉。
赤く色付いたそれは、本当に綺麗だと思った。
「この前まで台風で凄い雨だったのにね?」
ふわりと優しく微笑む彼女に自ずと俺も笑顔になる。
俺は彼女の隣りにやってくると、彼女の手を握った。
「わわっ、幸村さんっど、どうしたんですか!」
そうしたら紅葉に向けられた顔が俺を向く。その顔はほんのりと赤い。
急にタメ口から敬語に変わった彼女の態度に少し笑ってしまった。
緊張や照れると敬語になるのは彼女の癖。
まだ治ってなかったんだ。なんて頭の隅で考える。
「ん?ほら、紅葉ってさ人の手の形に似てるでしょ?」
言えばどうして今そんな話を…とでも言いたげな君の顔。
それでも俺は気付かないふりして続けた。
「それ見てたら、手、つなぎたくなったんだ」
にこっ、と彼女に向けて笑う。そうすれば更に顔を赤くした君の顔。
「なっだ、だからって…!!」
「駄目?」
聞けば彼女は黙りこくってしまった。抗議のために開いた唇の上下がゆっくりと重なる。
それから苦々しげに眉根を寄せて一言。
「駄目、なんて言えるわけ、ないじゃんか…」
それはポツリととっても聞き辛いくらいの音量。
でもそれはちゃんと俺まで聞こえた。聞こえて彼女を見れば、ホラ。
「耳まで真っ赤」
思わずプッと笑ってしまった。笑い混じりの俺の声が彼女に届いて彼女が俺を見る。
キッと少し不機嫌そうな表情。
「幸村さんのせいでしょっ…!」
わなわなと体を震わせて今だ赤みの引かない顔で。…文句を一つ。
俺は頭を撫でながら笑って
「可愛いよ」
「…反則だよ、それ」
そういえば彼女は呆れたように溜め息を付いた。
紅葉の色付いた木が風に揺れる。葉が一枚俺たちの前をふわりと舞った。