いつもあなたを見ていたいから。

この気持ちには気づかないでおきたいの。

だから、そんなに軽く「好きだ」なんて、言わないで――――――――。





Always...
-cool girl-






ー!」


私は、名前を呼ばれて、後ろを振り返った。
そして、その人物はバタバタと大きな音を出しながら私の元へと駆けつける。
その足の速さにさすが、強豪と呼ばれる男子テニス部のレギュラーだな、と感心した。


「おっはよん!!」


そうして彼は、身軽な身体を利用し、いつものように、私に抱きついた。
こんなやんちゃな面があるにも関わらず、私より数段大きくて、しっかりとした体つきだ。
そんなことを頭の隅でぼんやりと考えていると、どんどん恥ずかしくなってくるもので。


「おはよ、ていうか、離して?英二」


だから私はそれをいつも素気なく返してしまう。
駄目だとわかっていても、どうしても素直になれなくて。
可愛くない。こんな自分が嫌になる。そう心の中で自分を罵る。


「や〜だね!」


……冷たい態度を取ったつもりだった。
でも、逆につけあがるのが、この菊丸英二と言う男。
反対にぎゅうっと強く抱きしめられる。こういった反応、嬉しい反面、とても恥ずかしい。
かあっと顔が熱くなる。きっと今の私は茹蛸のように真っ赤になっているんじゃないか、と不安になった。


「離してったら!」


それを悟られぬよう、ぐいっと英二を引き離す。
横目で英二を見やるとむぅ、と頬を膨らませながら、私のほうを見ていた。
私は「そんな顔しても駄目だよ」と突き放すようにいうけれど、英二は納得いかないようにじっとこちらを見ていた。


「お早う、英二、

「あ、不二ぃ!酷いんだよーのヤツ!!」

「不二、おはよう」

「今日も抱きついて引っぺがされてるの?良くも毎日公衆の面前で……恥ずかしくない?」


苦笑交じりに不二が言う。全くだ。
その言葉に私は大きく頷くとそれを否定する英二の声が聞こえた。


「ぜーんぜん!!俺が好きだもん!!」

「……有難う、嬉しいよ」


確かに嬉しいけれど……こんなに簡単に言えてしまうのは、やっぱり友達だからで。
彼は、決して私を恋愛対象としては見てなどいない。
そう思うと、とても悲しくて、空しく思えた。

……そしていつものように雑談をしながら教室に入る。

きっと、告白なんてしたら、もうこんな日常は取り戻せない。
そう考えると、言えない。今の関係のままのほうが良い。
もし、告白して、気まずくなるくらいなら、この思いは言わずにずっと英二と笑い合っていたいのだ。
最後の1年間だからこそ、最後まで楽しい思い出として残しておきたいのだ。

卑怯者と言われるかもしれない。
臆病者でも構わない……。友達で良いんだ。
……このまま3人で仲良く卒業して、そして高校でもまた一緒に……。

そう自分に言い聞かせながら、私は自分の席に座った。





、おはよ!」


頭上から、明るい声が聞こえた。
考え事をしていた私に声をかける親友の声に、私は俯いた顔を上げ、「おはよう」と返す。
は私の前の席に座ると、私の顔をじっと見た。


「何?」


の視線に気づいて、私は首を傾げる。
はにこっと微笑むと頬杖をついた。


「朝から一緒にご登校か〜と思って」


「しかも、抱擁つき!」と続ける。

……………………前言撤回。(前思撤回?)

にこ、なんて綺麗な笑いなんかじゃない。これは……言うなれば、にや、だ。
私は目を細めて、頭の隅でそう結論付けると、素っ気無く答えた。


「ああ……アレの事か」

「私、絶対いけると思うの!」


ぴん、と人指し指を立て、顔を近づけて声をひそめる
私は無言で首を横に振ると、を見た。
するとは「何でよ」とでも言いたげな様子で私を見ている。
私ははあ、とため息をついて口を開いた。


「アレは、英二のスキンシップであって、誰でもすることなの」

「でも、不二君にはしてなかったじゃない?」

「………」


なんだか複雑だ。不二と一緒にしないでよ。不二は男であって、私は一応女のはずだ。
それなのに、一緒くたにするとはどういうことか?
そう思ったけれど、その言葉は飲み込んだ。
私は静かに横目で英二を見やる。
英二は席に座って何かを書いていた。
多分、昨日出された数学の宿題だろう。
はあ、とまたため息をつくと、がぱっと目の前に現れた。
私は驚いて、思わず身を引く。


「聞いてるのかっ!?」


どうやら、反応が無くなったということと、目線が自分に向いていないことが納得いかなかったらしい。
怒った声色では、私を見る。私は「はは」と苦笑をこぼした。


「ごめん」


両手を合わせてに一言謝る。
と、は「ま、良いけどさ」と口を尖らせた。


「あ、私自分の席に戻るね!」

「うん」


は立ち上がって、がたん、と椅子を入れる。
……私はその動作を黙って見つめる。
すると、頭上から「じゃ」との声が聞こえたので、私は笑ってに手を振った。
時計を見ると、そろそろ朝のHRの時間だった。









― Next










あとがき

再UPです。
ちょっと訂正を加えて見ました。
でも全く変わってないとはどういうことか……(ノォッ!!)










管理人:時枝 華南