勉強会も波に乗ってきたのか、時間を忘れてそれに没頭した。
そして、気がつけば3時を過ぎていた。
不二のお姉さんの作ってくれたラズベリーパイの良い匂いが部屋中を包み込んだ。
Always...
-After study-
「はい、」
「有難う」
不二からラズベリーパイを受け取ると、早速私はフォークでそれを突き刺した。
見るからに美味しそうである。私は思わず笑みを浮かべて、パイを口に含む。
甘いパイが口の中に広がる。
頬っぺたが落ちそうになるとは、きっとこの事を言うんだろう。
美味しさの余り、はあ、と息が漏れた。
「、美味しいよにゃっ!!」
私が食べたことを確認すると、英二が私の顔を覗き込む。
私はいきなり近くに英二の顔が現れて、どきっとしながらも、気づかれないように、平然と頷いた。
「本当、美味しい」
「だろ?」
まるで、自分が作ったかのように、自慢するような声色で英二は笑った。
まあ、英二の作ったのも美味しいのだけれど……。
それにしても、本当に心からそう思う。
どうやったら、こんなに上手に作れるのだろうか……?
私はまた無言でパイを口に入れる。
そして、また先程不二が淹れてきてくれたアップルティーを飲んだ。
……二重の美味しさのダブルパンチだ。
「はぁ〜」
「どうしたの?」
「ん?美味しいな〜と思って……羨ましいよ、お菓子作りの上手なお姉さんが居て」
私は不二を見てまたため息を漏らすと、不二はクスクス笑っていた。
そして、不二もパイを口に入れる。
ああ、本当に羨ましい。
私は心の中で呟いて、焼きたてのラズベリーパイを見つめた。
休憩中他愛も無い話をした。
そうして、刻々と時間が過ぎていき、帰る時間となった。
少し名残惜しくも感じながら私と英二は、鞄の中に課題プリントを入れる。
そして、ゆっくりと立ち上がった。
「じゃあ、私たちそろそろ帰るね」
「暗くなってきたしにゃ!」
「うん、じゃあまた明日、学校でね」
私は「うん」と首を縦に振ると不二は何かを閃いたのか、ポンっと手を叩いた。
「、僕の家から遠いよね?」
「うん、そうなるね」
私は、不二の質問に頷く。
「送ってくよ、何かあると困るしね」
するとにこっと笑って不二も立ち上がる。
私はそんな彼を見ながら言った。
「良いよ、其処まで暗くないし。其れに、多分何も無いと思うし」
「でも……」
「お、俺が送るよっ!!!」
「え!?英二が!??」
すると、横から英二が口をはさむ。
そして唐突過ぎる英二の言葉に少し吃驚しながら英二を見た。
「そんな、英二も良いって!まだ夕方……6時だし!!」
「いいのいいの!!」
満面の笑みを浮かべ、鞄の用意をする英二に私は言った。
だけど、そんな私にお構いなしに事を運ぶ。
そうして、私は困惑して助けを求めるように、不二を見つめた。
不二と目が合うと、不二はにこりと微笑んだ。
……しかし、今度の笑顔は、何かが違う。
私は嫌な予感に襲われて、思わず眉間に皺をよせた。
そんな私を見て、何か企んだ笑み浮かべ、不二は英二を見やった。
「そうだね、英二と、同じ方向だし。英二に送ってもらいなよ」
「ちょ……!不二……!??」
……嫌な予感は的中した。
にんまりと微笑んでいる不二が憎らしく見える。
私が制止の言葉をかけようとすると、横から英二が顔を覗き込んできた。
「俺じゃ嫌にゃの?」と、私の淋しげな目を見る。
ある意味、苛め。いや、まるで拷問。
「え?そ、そんな事は無いけど……」
「なら良いじゃん!」
その言葉と表情に、ますます困惑する。
しかし、嫌なわけじゃなかったので、私は否定をすると、英二はにぱっと笑うと、私の手を引っ張って、部屋のドアを開けた。
私達は玄関一直線に進んで靴を履くと、部屋から不二のお姉さんが出てきた。
「また来てね」
ふわりと綺麗に微笑むお姉さんに私は、頷いた。
……やっぱり姉弟だよなあ……なんて、そんなことを思う。
「じゃあ、また」
ぺこりと頭を下げて、私と英二は不二家を後にした。
「うわ〜綺麗な夕焼け」
私は空を見上げて手を大きく広げた。横から英二が「そだね」と笑う。
そして、私はフと先程の事がまた気になり始めた。
何でもないと言われたけれど、やっぱり気になる。
「ねえ、英二?」
「ん?何、?」
首をかしげる英二に私は言った。
「さっきの話、何?」と。
「え!?だ、だから何でもないって!!気にしないでっ!!」
私が問うと、英二がまた慌てて、そっぽを向く。
でも、そんな態度とられると余計に気になるんですけど。
私は英二を凝視して、また問う。
「ねえ、教えてよ」
夕焼けに照らされた英二を見つめ、その場に立ち止まった。
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管理人:時枝 華南