「離してよ!!!」


英二を叩いた右手がとても痛かった。





Always...
-Her tear-





走って走って、此れでもかって言う程に私は速度を上げて走る。
暫く周りも見ずに走って、私は足をとめた。


「はあ、はあ、はあ……っ」


乱れた呼吸を整える。
私は近くの公園に入って、目の前の誰も使っていないブランコに座った。
キィキィと金属の音を立てながら、ブランコが小さく揺れる。
私は未だ整わない呼吸をしながら、深く深呼吸をして、心を落ち着かせようとした。



「好きだよ」



英二の真剣な顔を私はさっき初めて見たような気がした。
まるで、英二じゃない、別の男の子のような……。
私は、掴まれた腕を擦った。
……本当は嫌じゃなかった。
本当は好きだって言って貰えて、嬉しかったのに。


「私……酷い事しちゃった……」


自己嫌悪に陥って、知らず知らずのうちに涙が溢れる。
後悔したって遅いけれど……。


「あんな、優しい人、傷つけちゃった……」


きっともう、話かける事、出来ない。
そうさせたのは、紛れもなく私。
素直になれない私に、神様は罰を与えたんだ。
なんで素直になれなかったのだろう……。
私は下唇を強くかみ締める。


「あの時、私もだよって言えば良かったのに……」


後悔を感じつつ、私は顔を伏せてゆっくりと瞳を閉じた。





次の日は生憎の雨で、私はピンク色のビニール傘を差して学校へと歩いた。
………いつも通る道には、ちらほらと学生が通っている。
私は歩く速度を上げて、早めに学校へと向かった。
学校の校門が近づくにつれ、私の体がずっしりと重くなる。
いつも、この門をくぐれば、英二が後ろからやってきた。
でも、今日はきっと、来ることはない。いつもより早いからと言うのもかもしれない。
でも、それだけじゃなくて、一番の原因は昨日のこと。
自分がしたことのくせに、いつものように猛スピードで駆けてくる英二の姿がないことに、私は寂しさを感じた。

案の定、予想していたとおり8時前に学校に着いてしまった。
教室には誰も居らず、私は自分の席に鞄を置きテニスコートを覗いた。
此処の窓からのテニスコートは良く見えて、英二を見つけるのにそう時間はかからなかった。


「英二……」


其処で見た英二は、やる気が無さそうで、まるで感情の無い人形みたいだった。
そんな英二を見ると、胸が痛々しかった。



そうして、朝礼が始まりそうになった時、英二が教室に入ってきた。
いつもなら、挨拶をしてくれる英二だけれど、今日は目すらも合わせてはくれず、自分の席に座っていった。
……わかっていたことだったけど、覚悟していたことだったけど、辛い。
私は泣きそうになるのを必死に堪えた。


、英二と喧嘩でもしたの?」

「え!?」


そんな私達を不審に思ったのか、不二が声をかけてきた。
私は俯いていた顔をあげる。
そして「そんな、事ないよ」と、苦笑を零し、不二を見た。
……昨日の事が言える筈も無く、私はただ手を横に振っていた。
不二は、暫く私をじっと見ていたが、「そっか」とだけ呟くと、いつもの笑顔で笑っていた。
そんな優しい不二に心の中で謝りながら、私は俯いた。

なんで、こんな事になったのだろう……。
全ては、素直になれない私に原因があるのだ。


「何があったのか、言いたくないならそれでも良いけど。後悔してるなら、行ったほうがいいよ」

「え……?」


不二の言葉に私は顔をあげる。
そこにはやっぱりいつもの笑顔の不二。
優しげに微笑んで、なんて僕の独り言。って呟いて。


「どうするかは、次第だけどね」


ポンと私の肩を優しく叩いて。
不二は自分の席に帰ってしまった。
私は不二の言葉の意味を、考えてみる。


「……アイツ、知ってたな?」


知らないふりしてたくせに。
本当は全部お見通しだったんだ。
いつも不二はそうだ。
こうやって私が英二のことで悩んでると、助言をくれる。



「最後くらいは、素直にならなくちゃね……」


私は呟いて、窓越しに空を見つめた。
……空はまだぐずついている。





「英二」


ざわざわとしだす、放課後に私は意を決して英二を呼んだ。
英二は静かに振り返ると、私を見て驚いた顔を浮かべた。


……」

「ちょっと話があるの、良い?」


英二は少し躊躇った表情をしたが、小さく頷いた。










屋上へと来た私と英二は、フェンスにもたれかかった。
すると、申し訳なさそうに、英二は小さく押し殺した声で何度もごめんと謝る。
私は、謝るのは英二じゃないのに……と思いながらも、言葉が出ずに、ただ英二を見つめていた。


「俺、の気持ち無視して、ほんとごめん!!!」

「英二……」

「でも、ほんとに好きだったんだ、だから……」


伏せていた顔を上げて私の顔を見る。


「英二」


私は英二の口を手で押さえて、続きの言葉を遮る。
そして、今度は私が口を開いた。


「ごめん、なさい……。私、英二に嘘、ついた」

「え?」


英二はわけがわからない、といったようなニュアンスを含めた声を己の口から発すると、私を見やる。
私は、一度深呼吸をして、英二の瞳を見た。


「……本当は、私……私も、英二の事好き」



そして英二に聞こえるか聞こえないかくらいのか細い声でそう言った。









―Next










あとがき

やっぱり、この6〜7話は展開早すぎだよねぇ…。
回を増やそうかとも考えたんですけど、面倒なのでやめました(爆)










管理人:時枝 華南