12月って言えば、もう凄く寒くなってまして。
マフラーやコートなんて必需品で、手放せないものになってまして。
コタツに入ったら、出られなくなるのもしょっちゅうでして。
ついつい外に出るのが億劫になっちゃいまして。
それでも、12月って好きなんです。
ぽかぽかがいっぱい
「さむーーい!!」
冬に突入すると、必ず言ってしまうこの台詞No.1。(ちなみに、夏は「あつーーい!!」である)わたしはマフラーに顔半分をうめて、コートのポケットに手も突っ込んだ。本当に、有り得ないくらい、今日は寒いと思う。(本気で)まあ、もう12月だから当たり前なんだけど。なんだか、月日が経つのが早く感じられる。(そう言ったら、友達にババ臭いって言われたけど)うう……手袋もしてくれば良かった。そんなことを思ってると、隣からは元気な声が聞こえてくる。
「そんなに寒いかにゃ?」
……一瞬、殴りたいと思った。コッチはこんなに必死になって、防寒してると言うのに。それなのに、全くもってそんな雰囲気を醸し出さないこの男。菊丸英二。わたしの彼氏。わたしは英二のほうをじろりと睨む。と言っても、やっぱり英二の方が身長高いから、見上げた形になって、何とも格好がつかない。英二は、やっぱり怖くないのか、男にしてはクリクリと大きな瞳をわたしに向ける。この目は反則だと思う。わたしは、睨むのを諦め、代わりに地面を睨みつけた。それから、口を開く。
「寒いですっ!寒くないなんて、おかしいよ!」
「うーん、寒くないことはないけど、そんなに言うほど寒くないってこと。それに俺体温高いし?」
マフラー越しに口を尖らせた。すると、英二はそれに対しケロン、と答える。……それがまたむかつく。
「うっわ!基礎体温が高いなんて、子どもの証拠!いや、まあ英二は子どもっぽいけども!」
「にゃにお〜!?」
だからわたしはこのままでは悔しいと思い、ふふんと鼻で笑ってやった。そしたら、思ったとおりの反応を返す。(そこが子どもっぽいんだと思う)それでわたしがくすくすと笑うと、英二はぷんすかとご立腹になった。今度は英二が口を尖らせる。そんな表情が可愛いと思う。(わたしがやるより可愛いともさ!)
「そんな拗ねないでよ〜」
「拗ねてないし!」
全く、失礼だ。って、英二は愚痴る。(そういうのを世間では拗ねるって言うんだけど……)わたしは苦笑いして、ポケットから手を出した。今までぽかぽかとポケットで温められていた手が、冷風に突きつけられ、一気に体温を奪う。わたしは寒い、と思いながらも、その手を英二の方に伸ばした。それから、ポンポンと叩く。
「ごめんごめん」
そう言いながらも、顔がにやけてしまう。言葉と表情があってないと自分で思った。やっぱり、ぶっすーとする英二。多分気づいてるんだろうなーと思いながらも、今度は英二の髪の毛を触った。それからぐしゃぐしゃ撫でる。
「ねーってばー」
「うわっ!やめろ〜〜っ!セットが乱れるだろっ!」
英二はうわわと慌てながらわたしの手を振り払って髪の毛を直す。
「ふふっ、あははっ、面白い……っ!」
「むむっ、笑い事じゃないんだかんな〜!?もこうしてやるっ!」
「え、わ、きゃっ!!」
人の不幸を笑うべからず、というやつだろうか。仕返しだと言わんばかりに、英二はわたしの頭をぐしゃぐしゃと触りまくる。わたしは急なことに、戸惑うばかりで、何も対処できず、されるがままだ。それでも、と思い少しの抵抗を施してみるが、やっぱり無駄に終わる。
「ぷっ、にゃははっ!!」
「……もうっ」
そうして、しばらく経って英二の手から解放されたわたしは、大爆笑をする彼氏をキッと一喝して、鞄から鏡を取り出した。見ると、なんともまあ、情けない頭だ。鳥の巣よりも酷い気がする。わたしは文句を言いながら続いてくしを取り出して、ぐしゃぐしゃになった髪の毛を梳かす。すると、英二がつまらなそうに「なんだ、直しちゃうのか〜?」と問い掛けていた。当たり前だ。わたしはそう心の中でぼやいて、休むことなく梳く。その甲斐あって、なんとかまともな髪型に戻った。ほっと一息つく。のもつかの間。ひゅうと風が吹いて、わたしは慌てて身を縮めた。やっぱり、どうやったって寒い。しかも、さっきの騒動で、頑張って温めた手は今や氷のように冷たくなっていた。(大げさじゃなくて本当に!)
「うぅ、英二のせいで、手がこんなに冷えたじゃない!」
わたしはそう英二に愚痴を零す。元はと言えば、英二にちょっかい出したわたしのせいであって、コレは自業自得なんだけども、納得がいかなかった。英二は吃驚したように目を大きく見開く。わたしはそんな英二を一瞥して、手をこする。摩擦熱を利用して再度温かくしようという魂胆だ。……けれども、上手くいかない。部屋の中ならば、すぐに体温があがるんだけど、生憎今は外。風を直に受けているので、そうそう温かくはならなかった。
「うーん……どれどれ?」
すると、英二の手がすっと伸びる。それからわたしの手を包むように握った。英二の手は大きくて、温かかった。本当に子どもだ。思わずそういいそうになった口をぎゅっと結って、英二をチラリと見る。英二は「まじだ!」と驚きながら更に手を握った。
「冷え性の辛さ、思い知れ」
手を握られながら口を尖らせる。そしたら、英二はううん、と悩みだした。
それでも手は握ったまま。そうして、何やら思いついたらしい。にぱっと笑う。
「じゃあ、これからはさ、手繋いで帰ろっ!」
「は?」
ナイスアイディア!とでも言いたそうに英二は輝くような笑顔で言い放った。
しかし、その提案に思わず素っ頓狂な声が漏れる。すると、英二が、だからー、とまた口を開いた。
「俺の手、あったかいっしょ?」
「うん」
頷く。
「の手、冷たいっしょ?」
「うん」
また、頷く。
「手、繋いでたら、足して2で割って、丁度良くなると思わにゃい?」
そして、次の言葉にも頷きかけて。
「お、おおお思わないっ!」
ブンブンと勢いよく首を横に振った。
そしたら、英二は不満げな表情を浮かべる。
「にゃんでさー」
「ぜ、絶対わたしのほうが体温低いもん!」
と、言うか、恥ずかしすぎる。手を繋いで帰るのは。
まだ、少し抵抗があるのだ。けれども、そんなことは言えない。
「大丈夫、大丈夫!」
言わなかったら、やっぱり伝わらなかったようだ。冷たい風も逃げていくような笑顔であっさりと否定された。わたしはがっくりと肩を落としてみせたが、それさえも効果がない。「と、いうわけで!決定〜!」英二は握ったままのわたしの手を、自分のほうに引き寄せて、更にきつく握った。わたしは文句を口々に言ったけれども、結局聞く耳持たずの英二には意味のないもので、わたしはため息をついた。でも、そんな文句を言いながらも、伝わってくる英二の体温が温かくて、優しくて。わたしは英二に顔を見られないように、俯きがちに笑った。
寒いのは大嫌いだけど、でも、いつもよりも近づけるのは、この季節の特権かもね?
― Fin
あとがき>>きっと、英二君の手はあったかいと思う。って言うお話
2004/12/08