だからどうしてこうなっちゃうんだよ……。いっつも空回りばっかしてる気がする。
お前のことになると、いつもの自分を壊される。
truly, madly, deeply
『だからってなんであたしが』
「頼む!!」
午後9時のこと。今回の主役・向日岳人は、幼馴染であるに電話をしていた。それから数分経った状況がこれ、である。は呆れた様子で向日の言葉を返す。すると向日は電話越しであるにも関わらず、ガバッと勢い良く土下座をした。それほど重大な頼みごとなのだろうか。は声色からそれを察知し、はぁ、と溜め息を付く。
『ったく、しょうがないわね!』
「さんきゅー、!!」
やっぱりどんな奴だろうがたった一人の幼馴染。そんな幼馴染がここまで本気になっているのだ。少しばかり納得はいかないけれどもは電話の内容をしぶしぶ承諾した。そして、なんとかまとまったので向日は電話を切る。それからベッドに勢い良くダイブした。
「やったーーーー!!!!」
それから大声で歓喜の声を上げる。続いてベッドにごろごろと寝転がって天井を見た。嬉しさの余り、今日は眠れそうにない。やべぇやべぇと呟きながらも、顔が緩むのを感じた。先ほどの電話の内容は、明日の話である。明日、一緒にどこかへ行かないかと向日が誘ったのである。それについて、初めは意気揚々と頷いた。しかし次の瞬間それが壊れる。
「そんで…あの……、も誘って、さ…」
どうやら、話を聞いていけば、向日はと一緒に遊びたいのだという。しかし二人で遊ぶのはやっぱり恥ずかしい。というか、二人で遊ぼうと言ってが来てくれるかもわからない。もし断られたら、そりゃあもうショックだ。だからと忍足とと自分、4人で遊ぼうと提案したのだ。は自分の幼馴染みだしの親友。忍足は自分の親友だから安心だ。つまりは簡単に言ってと忍足をエサにしてと遊ぶってこと。それがわかっては即座に否定したのだ。
理由は2つ。そんな大事な親友を騙すようなことはしたくない。もう1つは自分が向日の青っちい恋愛なんかのためにせっかくの休日をむざむざ潰したくなかった。どうせ自分ははみ出しもの。つまりは忍足とくっつくことになるわけだ。しかし結局向日の熱意に負け、最終的には頷いてくれた。向日は、ガバっとベッドから起き上がる。それから、カレンダーに目をやって、ベッドから降りた。そして、机の上から赤いペンを取ると、カレンダーに向かった。それから、明日の日にちの場所を赤いペンで大きく丸で囲む。
「……うっわ、やべー。すげー楽しみ!!」
それから一言呟くと、ペンをポーンと放り投げて、またベッドにダイブした。
それから次の日。結局昨日あれからすぐに寝る体勢に入ったものの、向日の睡眠時間は3時間と言う極めて少ない時間だった。そう緊張の余り眠れなかったのである。ヤバイと思いなんとか夜中の2時にようやく就寝したのだが、珍しいことに5時に目が覚めた。それから、眠る事もできずにぼうっと時間が過ぎるのを待つ。そして、今。
「岳人君、大丈夫?」
何度目かになるあくびを漏らした。横から声が掛かる。『岳人君』なんて呼び方をする人は、向日の知り合いにただ一人。そして今は待ち合わせ時間の数分後。……そう考えればもうわかる。向日の今日の最大の楽しみになった、相手。それからこの大あくびの原因。向日の幼馴染みであるの親友でありという少女。は向日のほうを心配そうに見つめる。向日はそれを否定するように、大丈夫そうに大きく頷いて笑って見せた。しかし、その途端また欠伸。完璧の睡眠不足である。
「ばっかじゃないの」
「うっ」
すると、後ろからボソリとがぼやいた。向日は正解を指されて、言葉を飲み込む。視線を漂わせながら頭の後ろに手を回す。にはそれが聞こえなかったようで、?と首を傾げる。「まぁ、早よ行こうや」未だに待ち合わせ場所から動こうとしない3人(向日、、)を見て、何とかこの微妙な雰囲気に終止符を打とうと、忍足が口を開いた。なんとか成功したようだ。三人は各々で頷いて歩き出す。場所は新しく出来たショッピングモール。安い品物が沢山あって種類も豊富らしく学生に人気らしい。歩くこと10分くらいで目的地へと着けた。やっぱり人気なだけあって学生がごった返しである。そして見渡せはほとんどが女子。しかも今日は休日と言うこともあり、いつもよりも多いらしかった。
「凄い人やなぁ」
「……ちょっとこえーかも」
思わず、二人は顔を見合わせポソリと呟く。しかし、そんなのとの知ったことじゃない。はこっちこっちとの手を引いて歩き出す。どうやら、この場所を遊びコースに選んだのはらしい。もしかして、俺の方が利用されてるだけだったり…?頭の中でが高笑いをしている姿が容易に想像でき、ブルっと身震いした。しかしすぐにそれを却下して考え直す。考えすぎだ。神経質になっているだけだ。そして、せっかくがセッティングしてくれたのだから頑張らねば、と。だが、頑張ろうにもその相手であるは今しがたに連れられて中へと入ってしまった。向日はその事実に今更ながら気づいて、忍足に一声かけると、二人でとを追うように追いかけた。
「ちょっと……なんでアンタこっちにくんのよ」
「いや、だって……」
「だってじゃないでしょーが!アンタせっかくこの様が休日をアンタのために使ってやったのよ!?」
本当なら寝てたはずなのに……。ぶつぶつぼやくに、向日は申し訳なさそうに眉を寄せた。今は、ここに来て数十分経った後のこと。しかし数十分経った今でも、向日はと話せずにいた。とにかく、がどうにか場を作ってやろうと、忍足を誘って二人で遠ざかろうと試みる。しかしそれに気づく向日はどうしていいかわからずに、の元を離れ、や忍足にくっついてくる。必然的には一人でウィンドーショッピングをしているようなものだ。チャンスを何度となくつぶす向日についにはキレてしまい、少し離れた場所で向日をお説教していた。
「大体ねえ、アンタがどうしてもって言うから!」
「あーわかったわかった!!わかったからそんな怒んなよー」
「じゃーしっかりやんなさいよ!」
フンっと鼻息を荒くして、はキッと向日を睨んだ。向日はそれに怯んで、ビクっと肩を震わせる。まさに蛇に睨まれた蛙状態である。ははあ、とため息をついて、少し離れた場所にいるを見る。今は忍足と一緒にいた。一人っきりにしっ放しは駄目だと言うことでが向日を説教中、忍足がの元へと行ったのだ。
「忍足とのほうが全然カップルっぽいじゃん」
いっそのこと、忍足とをくっ付けてしまおうか。そうが呟く。その呟きを聞いて、向日は焦った。それは困る。非常に困るのだ。向日は顔を真っ青にさせる。それから彼は今度からはきちんとやるから!と何度もに頭を下げ、手を合わせた。プライドなんてあったもんじゃなかった。
「これなんか自分、良いんとちゃう?」
「え…そうかな?」
一方のほうは、気に入った服を手にとって見ていた。それに対して、忍足が別の色の服を取る。そしてそれをに勧めてみた。はそれを見て、自分の持っている服と忍足の手にしている服を交互に見やる。それからうーんと唸った。
「まあ、俺のイメージやけどな。みたいんは、オレンジよりもピンクのほうが似合うわ」
「そ、そんなことないよ〜」
顔をほんのり赤らめて、空いている手をブンブンと振る。照れているのは一目瞭然。向日はとの話が終わって、即急にの場所にきた。しかし、きたはいいが、何故か入るスペースがない。どうしようかと考えながら、ぽつんと立ち尽くす。すると、忍足がそれに気づいたようだった。
「おお、ええとこにおったわ。はオレンジよりもピンクやんなぁ?なぁ岳人?」
そして、助け舟を出す。向日はそんな自分の親友に感謝しつつ、二人が持っている服を見た。それから、コクコクと無言で頷く。
「お、おう!は、ピンク!」
「岳人君まで……」
そうすれば、は困ったように笑った。そんな顔も可愛いなーなんて向日は思う。もう、末期だ。それからは悩んだ末、じゃあこっち買う。とピンクの服を忍足から受け取って、店員の居るレジのほうへと小走りで行ってしまった。
「どないしてん。いつもの岳人とちゃうやんか」
「だって、緊張すんだもんよ」
俺だって出来ることなら、普通に喋りたい。だけど、今日は初めてと休日一緒なわけで。しかもいつもと違う私服姿で。妙にドキドキして、うまく言葉が出ないのだ。向日のその様子に忍足は小さくため息をつく。それから、ポンと向日の頭に自分の手をやって、口を開いた。
「まあ、その気持ちわからんでもないわ。フォローもしたる。けどな、フォローにも限界があんねん。最終的には、岳人が頑張らな、なんも得られん。誤解されんようにせな。そこんとこわかっとき?」
「お、おう……」
そうして向日は力強く頷いた。―――――勝負はこれから始まるのだ。
しばらくして、買い物をすませたは向日と忍足。そしての待っているところまで帰ってきた。先ほど買ったばかりの服が入っている服を両手で持って。それから、四人は別の場所へ移動することになった。次に行きたいと言った場所は小さな雑貨屋さん。ここも、実は学生たちの間で密かなブームとなっていて、穴場だったりする場所だった。そこでもは忍足の横をわざと歩いて、と向日を何とか会話させようと、再度試みた。しかし歩いて移動する中、後ろからはぎこちない返事しか聞こえてこない。自身は普段どおりなのだが、問題は向日だった。……今度こそは、と言いながらもやっぱり意識してしまうと駄目らしい。の言葉に返事を返すだけで、いっぱいいっぱいの様子だった。それを前を歩く二人は呆れながら聞いていた。
「ほんまに大丈夫かいな」
「わかんない」
はあ、とため息をついて。ちらりと後ろを盗み見れば、顔を真っ赤にしてと目を合わそうとしない向日の姿。初々しいといったら聞こえはいいかもしれない。しかしここまでくると、前を歩く二人にとってはじれったい。と言うよりも、いい加減イライラしてくるのだ。早く決着をつけろ!そんな感じなのだろう。そうして、また前を向き直って、忍足とははあ、とため息をもらした。
それから、雑貨屋についたのは数十分後。どうやらは、この店のことは知っているようだったが、来たことはなかったらしい。瞳をきらきらと輝かせ、、忍足に続いて入っていく。向日はそれを見ながら、少し頬が緩んだ。入ってみると、可愛らしい小物、日用品。色々種類があって、見ているだけでも楽しめる。学生……しかも女の子の趣味をうまくツボをついていた。「これ可愛い」は小さなキャンドル(オーガニックティーライト)を見つけると、そこに駆け寄る。それから手に持ってそれを眺めた。向日はポカンとを見つめ、そこで視線を感じて別方向を向く。視線の相手はだった。見つめられている。と言うよりは、睨まれている。まるで監視されているようだった。ここからの行動をチェックするつもりなんだろう。このままではいけない。声をかけろ!とが口パクでジェスチャーをする。向日はそれの意味が一瞬わからなく、きょとんと首を傾げた。しかし、の形相が一層悪くなると、怖さを感じ、そそくさと慌ててに駆け寄る。そして、ゴクっと生唾を飲み込んだあと、勇気を出して口を開いた。
「そ、そういうのが好きなのかよ!?」
少々気合を入れすぎたためか、声が大きくなってしまった。は急に大声で聞かれたことに驚いて、目をパチクリさせる。それから、すぐに笑顔に戻ると照れながら、うん、と頷いた。向日はそっか、とどもりながら後頭部を掻く。それから目をまたそらして、をチラリと見た。こんな調子で良いのか?と、目で訴えれば、はそれが伝わったのか、少し納得のいかないような表情を浮かべながらも、まあまあだと言う意思を示すように、コックリと頷いた。そこで、ようやく向日は安堵の息を漏らす。は向日との様子を黙ってみていた。そのことに誰も気づきはしなかった。
そして、キャンドルを見終わったが次に行ったのは、ぬいぐるみの場所。大きなテディベアが沢山置いてある。その少し横に中くらい。そして、そのもっと横には、小さいぬいぐるみ。それからストラップくらいの大きさのもの。は、順々にそれを見ていた。向日も一緒にそれを見る。しかし気が付けば向日はを盗み見るようにしていた。そこでも、チラチラとの行動を見る向日。どうやら、さっきのお説教が思いの外、怖かったらしい。もう二度とあんな思いはしたくない。切実に思い、向日は心の中で誓った。
「私ね、小さい頃、5,6歳くらいのときのことなんだけど、大きなぬいぐるみに憧れてたんだー」
はぬいぐるみを見ながら、向日に向かって話す。どこか優しげにそして、嬉しそうにぬいぐるみを見ている。
「それでそのことをお父さんに言ったら、その歳の誕生日に大きなテディベアを買ってきてくれたの」
ちょっとこれよりは小さいんだけど。とこの店で一番大きなくまのぬいぐるみを触る。ふさふさとして気持ちいいらしく、は何度も触った。そして、向日のほうに顔を向けて笑う。「それでね」しかし、そこで、話すのをやめた。の目に映ったのは、自分など眼中に無い向日の姿。向日が視線を向けているのは、。自分ではないんだと、は気づき、きゅっと唇を噛み締めた。それから、テディベアを撫でるのをやめ、手を離す。ぎゅっと手を握って、もう一度向日を見た。
「岳人君!」
「え、ああ、何か言った?」
は向日の袖を何度か引っ張って、呼んでいることをアピールした。すると、ようやく向日も気づき、に目を移す。は、慌てる様子の向日を見て、ぎこちなく笑った。
「あのね、その、いいんだよ。別に、無理しなくて」
「は?」
「……のことが好きなんでしょ?私のことは気にしないで!のところに言っていいんだよ?私一人でも十分楽しい、し。だから、無理しないでのところへ行って?」
にこっと、は笑ってのほうを指差す。丁度それはに見られることはなかった。はコクっと頷くと、向日の背中を押す。行け、と言う意味だ。ぐいぐいと押されて、向日はの言った意味を考える。そして、が誤解していることに気づいた。
「ち、違うって!」
「いいんだよ、ほんと!無理しなくて。あの、だから……」
そこまで言って、は自分が泣きそうになっていることに気づいた。ノドが熱くなって、声が上手く出なくなる。はぐいぐいと尚も向日の背中を押した。力を強めて、ずんずん向日とは前に進む。
「お、おい、!」
「あ、わ、私、あの帰る、から。邪魔、したくないから」
それなら、忍足も邪魔なはずだが、きっと忍足は忍足でなんとかするだろう。つまりは自分が向日の邪魔をしているのだと。自分が先に帰ってしまえば向日は心置きなくのところへ行けるだろう。そうは自分の脳内で解釈した。そして、ゆっくり背中から手を離す。
「じゃ、また明日……!」
「ちょ、!?」
は言うなり、ダッと走り出した。それから商品に当たらないように慎重に出口に向かって、ドアを開ける。が出て行くまで、本当に数秒の出来事だった。
「ちょっと!?なんで帰っちゃうのよ!?岳人!アンタなんかしたんでしょ!!」
「え、いや!なんもしてねーよ!!」
はその様子に気づき、慌てて向日の元に走った。遅れて忍足も来る。鬼の形相とでもいえるその表情に向日はまた怒られると心の中で涙しながら、慌てて否定する。しかし、何もしてないのなら、何故は出て行くんだろう。嘘つくな!とが怒涛する。静かな店内が一気にやかましくなってきて、忍足はやばいと直感した。それからため息を吐いて、二人の言い争いを止める。
「なんでもええわ。はよ追いかけたほうがいいんちゃうか?」
ほれ、とドアのほうを親指で示して、向日に言えば、向日はドアの方を見る。それからもう一度押したりの方に目を映して。忍足が向日の背中を押す。そこで、向日はようやく決心したのか、コクンと力強く頷いた。そして、駆け足でドアまで向かう。
「ちゃんと連れ帰って来なさいよ!じゃないとどうなるかわかってるでしょうね!」
の声を聞いて、向日はうえっと顔をゆがめる。どうなるか、なんて考えたくも無い。向日はごめんだと言うように、ドアを開いて出て行った。
「っ!!」
見覚えのある後姿を捉えて、向日は叫んだ。名前を呼ばれたは恐る恐る振り返る。は予想とは違って、まだかなり近くにいた。とぼとぼと歩くにすぐ向日は追いついて、立ち止まる。はまだ状況がわかっていないのか、え、え、と戸惑いの色を瞳に浮かべながら、先ほど後にした雑貨店を見る。
「あの、は?」
「店」
そう言えば、は目を見開く。驚いているのは目に見えてわかった。「な、なんで、来たの!?」思わずは大声を出した。の瞳からは戸惑いの色は消えない。向日はそんなを見ながら、はあ、と息を吐いた。
「急にがいなくなるからだろ。なんで帰んだよ」
「だ、だって……私居たら、邪魔だし……だから、」
気まずそうな声が響く。最後のほうにいくにつれてどんどんと声が小さくなっていくのは、言い辛いからなんだろう。「誰が邪魔だなんて言ったんだよ」ぐしゃぐしゃと頭を掻いて、を見る。は顔を伏せた。そして、弱々しく声を紡ぐ。わかってるの。はまたじんわりとこみ上げてくるそれに気づく。それを気づかれないようにぎゅっと唇を噛み締めた。
「だって、岳人君はが」
「俺はのこと幼馴染としか思ってない!」
強く、否定する。それでもは信じてないようだった。ふるふると首を左右に振る。その仕草さえも弱々しい。
「いいの、誤魔化さなくて。わかってるから。だって、」
ぎゅっと、持っている紙袋を握って。それから、顔をゆっくりあげる。
「だって、気づいてたもん、私。朝からずっとと一緒に行動してたし。でも忍足君ものところに行っちゃうから、だから、そうすると私が一人になっちゃうから。だから、岳人君優しいからと一緒にいたいの我慢して、私のところに来てくれたんでしょ?でも、私そんなの、いいから。のところ行きたかったなら、私のところ来てくれなくて、いいから。が好きなんだってわかってるのに、我慢してるのわかってるのに、私のところにずっといられると。無理されてるってわかってると、こっちも辛いんだ」
うまく笑えず、ぎこちなくなる。それでもは無理して笑った。だんだんと自分の言いたいことが整理つかないまま述べられたけれど、は伝わってないと分かっていながらも、自分の気持ちを伝える。涙を堪えて。そこで、向日は違う、と首を振る。誤解しているのだと。
「雑貨店に来る前の移動だってそう。私の話、つまらなかったんだよね?さっきだって、雑貨店に入ってからずっとのことばかり見てて。ごめんね、始めに私が気づいてれば、……ごめんね……っ」
何度も、消え入りそうな声で、は向日に頭を下げた。そこで、やっと向日は理解する。自分の行動は、全て裏目に出ていたのだと。真意を知らないから見れば、つまらなそうにしか映っていなかったのだと。それから、思い出すのは忍足の言葉。「まあ、その気持ちわからんでもないわ。フォローもしたる。けどな、フォローにも限界があんねん。最終的には、岳人が頑張らな、なんも得られん。誤解されんようにせな。そこんとこわかっとき?」おう、って頷いてわかったつもりでいたくせに。結局忍足の忠告どおりになってしまった。向日は頼ってばかりいた自分に後悔する。でも、後悔してばかりもいられない。「違うんだって」必死に否定して。首を千切れんばかりに振って。手を血が出てしまうんじゃないかってくらい強く握って。
「俺が、俺が……俺が好きなのは、だっっ!」
大声で叫んで、を見る。そして、全ての誤解を解かなくては。とすぐにまた口を開く。
朝からずーっとと行動してたのは、にどんな態度を取ればいいかわからなくて。に頼ってばっかいたからで。でも、それやってたら、から説教くらっちまって。侑士からも、忠告ってゆうか、応援の言葉貰って。だから、と途中から一緒に行動するようになったんだって。優しいからって言うんじゃなくって、俺がそうしたかったの!のこと好きだから!雑貨店に行くときに一緒に歩いたとき、うまく言葉が出なかったのは、いつもと違う私服姿のが可愛くて戸惑っちゃったから!さっきもずっとを見てたのは、俺がドジやって、またに怒鳴られんのやだったから、気をつけようって。ちょっとでも、が指示したらすぐに気づけるようにって。だからなわけで。
一気にだーっと喋った。でも途中で向日はだんだんと自分の言っていることがわからなくなって、がーっと頭を掻く。もどかしいようで。
「つまりは、俺はのことが好きで!今日初めて休日会うわけで、どうしていいかわかんなかったんだよ!だから、の話がつまんねーとか、が邪魔だとかじゃなくって、が好きだから、大ッ好きだから、戸惑ったんだよ!」
ああ、かっこわりぃと、向日は全部言った後、大きなため息とともにしゃがみ込んだ。さすがにの顔が今は見れそうにない。恥ずかしいと言う気持ちもあったが、がどう思ったのか。どう感じたのかが不安で、確かめられなかった。向日は下を向いていると、視界に靴が映る。の靴だ。すると、次に見えるのは、のスカート。もしゃがみこんだらしかった。
「……岳人君……」
「好き、なんだよ」
ボソリと愚痴るように呟いて、向日は顔を埋める。顔が熱くなるのがわかる。こんな姿をに見られたくない一心だった。すると、腕に冷たいものが触れる。チラリと見れば、の手だ。ひんやりとするの手が向日の腕を恐る恐る触れている。それから、は小さな声で謝罪の言葉を紡いだ。
「私、嫉妬、してたの」
ぽつぽつとの口から落とすように漏れる言葉。それは本当に小さくて、蚊の鳴くような声で。神経を集中させないと聞き取れないくらい。
「……私もね、岳人君のこと……。だから、今日、ずっとを見てる岳人君見てたら、ああ、自分じゃないんだな。岳人君の目に映ってるのは、自分じゃ駄目なんだなって。はいい子だし、私の自慢の友達だから。だから、絶対勝てないって、そう思ったら、あの場所にいれない気がして。ごめんなさい……っ」
そこで、向日が顔を上げる。今にも泣き出しそうな表情のが目に映る。向日は腕に微かに触れているの手を見て、自身の手を添えた。「俺も、気づかなくって、ごめん」ぎゅっと手を握って言えば、はふるふると首を振った。それを見て、向日はの手を引っ張って、抱きしめる。の頭に手を添えて、の肩に顔を埋める。
「まじで、が好き」
は?と向日が問う。ぎゅっと空いていた左手で向日の袖を掴んで、は頷いた。
「めでたしめでたしやな」
「全く、人騒がせな!」
後ろの方でその一部始終を見ていたと忍足が、そんなことを呟いたことなど、今の二人には知るよりも無い。
― Fin
2005/02/18