ただ今放課後。今日は全部活がなんかの会議の所為で中止となって、部活所属者にとっては早めの放課になっていた。朝いつもどおりに部活の準備をしていたあたしにとっては予想外の誤算で、まあ別に良いのだけど、準備が勿体無かったなあと思いながら、そう考えてても仕方ないと先生の話を聞いた後には早々に帰り支度をしていた自分がいた。
いつもどおりのSHRが終われば、早めの放課に殆どの皆が嬉々して帰っていく。ざわざわと煩い教室の中、あたしもそろそろ帰らないとなぁと考えて、けど別に早く帰ったって何があるわけじゃないので、他の人の群れを逆らってあたしは椅子に座ったままだった。別に慌てる必要もない。暫くは出入り口がすんなりと出られないので空いた時間に帰れば良い。無駄な体力は使うことはないに限る。そう結論付けて、あたしは机の上に突っ伏した。
そうすれば、自分を呼ぶ声。
その声だけで相手がわかってしまったあたしは、んーと気の抜けた返事とともに、重々しく体を上げれば、予想通りの人物が立っていて、にっと笑っていた。彼、ブン太はあたしが気づいたと解ると、「よ!」と片手を上げて挨拶をするとあたしの前の席に座った。とりあえず挨拶されたので、同じように手を軽く上げて挨拶する。その時にはもう机に突っ伏してる場合じゃないなと潔く体はブン太を向いていた。
それからブン太の口から零れるのは、部活中止になったこと。適度な相槌を打って、時には賛同したりしながらブン太の話を聞く。
ブン太とあたしは中学一年からの付き合いだったけれど、初めて会って話したときから意気投合してしまって、あっと言う間に仲良くなった。ブン太とあたしは同じ部活には所属していないけれど、仲良くなってから、良くお互いの部活の話もするようになった。その為か、今まではロクに公式のことも知らなかったテニスが、今では人並み以上は出来るようになった。
「で、も間抜けに用意してきたってやつ?」
「そうだよ、あたしなんか演劇で使う衣装を昨日徹夜して作ったんだよ!次回部活のときまでに作っといてって言われたから」
「うわーそりゃ悲惨だな、でも大会近いもんな?」
「そうそう、此れが終わればうちらは引退だし、気合入れなきゃね。だから作っといて損はないっちゃー損はないんだけどさ」
ブン太がテニスの話をしたあとは、今度はあたしの部活の話の番だ。自分の悲劇を語ると、ブン太がご愁傷様という風に苦笑いを浮かべた。きっとそんな表情を浮かべるのは今のあたしの顔がよほど変な顔をしていたからに違いない。自分でも眉間に皺が寄っているのがわかるからだ。
けれど、此処で長々と愚痴っていたって、部活中止の決定は覆されないし、もし中止じゃなくなったにしても、殆どの生徒は帰路しているため部員が揃わず部活なんて出来ないだろう。結局のところ、今日はどう足掻いたってもう部活は出来ないわけだ。さっきブン太が言ったようにあたしの所属している演劇部は近々大会があって、それがあたしたち三年生にとっては最後の舞台だ。これが終われば、実質上、引退となるわけだ。どうしても最後だから良い結果を出したいと思う。金とか銀とか絶対獲れ!とかそんなん拘ってるわけじゃないけど、最後なんだから悔いが残らないようにしたいとは思って、最近の部活は通常以上よりも頑張って取り組んできた。
そんな中での急な職員会議。今まで会議があって、吹奏楽とかそんな文化部が中止になることは合ったけど、第三体育館を使っているあたし達演劇部にとっては中止になるなんて無関係だったのに。一体どんな会議をしていることやら。
そこまで考えて、小さく息を吐いた。過ぎてしまったことを言っても仕方ないのでこの辺で止めることにした。
教室の中をぐるりと見れば、もう残っている人間はおらず、出口はもぬけの空だ。今ならすんなり昇降口までたどり着けるんだろう。さっきまでは廊下までもが騒がしかったのに今は遠くのほうで時折足音とほんの小さな笑い声が聞こえるだけだ。
「そろそろ帰る?」
目の前に座っているブン太に声をかけると、ブン太はんー…と気の無い返事を返した。どっちの「んー」なのだろうか?そうだなって言う「んー」なのか、それともどうしようかなって言う「んー」なのかあたしには判断がつかなかった。けれども、一向に立ち上がる気配を見せないところからすれば、きっと後者なんだろう。動こうとせず、頬杖までついて窓側を見つめているブン太をあたしはじっと見つめた。そうすれば、あたしと視線を合わせないまま、ブン太の口が微かに動く。
「…もちっと、此処居ようぜぃ」
その声が何だか淋しげに聞こえたのはあたしの気のせいなんかじゃないと思う。それは二年間半と言う付き合いの所為か、良くわかる。あたしはブン太の言葉にわかったと一言呟いて、同じように頬杖をついた。それから同じように窓側を見てみるけど、生憎此処は真ん中の列の為、グラウンド等は見えなかった。ただ、見えるのはまだちょっとだけ日の明るい青空。
沈黙があたし達の間を支配していた。けども別に嫌な沈黙じゃなくて、反対に気が楽になれるような沈黙だ。ブン太はあれ以上何も言いはしなかったし、あたしもあたしでそんなブン太の心情を汲み取って何にも言わなかった。何に対して悩んでいるのか、とかは解らなかったけど、今は黙っていたほうが良いと踏んだのだ。もう完全に廊下から声は消えていた。きっとみんな帰ったんだろう。まだ数人は校内にいるのかもしれないけれど、今この空間にいるのはあたしとブン太の二人だけだ。ひんやりと冷たい空気があたしの頬を撫ぜた。
このままあと十分くらいは沈黙が続くんじゃないかと思わせるくらいだったけれど、次の瞬間それは違ったのだと気づかされる。
「はぁ〜」
それはほぼ同時だった。重なり合ったあたしとブン太のため息は、見事なまでのハーモニーを奏で出し、空気中へと消える。あたしもブン太も、お互いのため息に気づいたのか、二人そろって顔を見合わせた。
「…急にどうしたんだよ?」
今までずっと黙って外を眺めていたブン太が、ようやくあたしの方を向いた。明らかに不可思議そうな顔があたしを覗き込む。やっと話してくれたブン太の声はさっきの声とは違ってちょっとだけ元気があった。そのことに少しの間安堵するけれど、そうだからと言ってブン太の悩みが解消されたわけじゃない。
「…ブン太こそ」
言えば、ブン太はあぁ…、とすぐに沈んだ声を出した。それからまた、外をぼんやりと眺める。机に肘を突いて、広げた手のひらに顎を乗せて口まで覆ってしまう形だったが、そのままブン太は言葉を紡ぎだした。手が口を覆っている所為だろう、ブン太の声は淀んで聞こえた。「あのな…」って小さな声があたしの耳に届く。
「俺、彼女居たじゃんか」
ポツ、と呟かれた言葉にあたしは小さく頷いた。ブン太の彼女、それは勿論知っていた。付き合うことになった当日に、嬉しそうに電話してきたのを覚えている。別に決まりごとではなかったけれど、あたしとブン太が仲良くなってからと言うもの、お互いに好きな人が出来た場合だとか、恋人が出来ると必ず報告をしていた。(って言ってもあたしは彼氏出来たことなかったけど)その度にお互い「がんばれ!」とか「頑張ろう!」とか励ましあったりしていたのだ。
その一言を聞いただけで、何が起こったのか、わかってしまった。ぎゅっと、心臓を鷲掴みされたような感覚があたしの中に駆け巡る。ドクドクと荒く、血液が体内を走り抜けていく。
「別れたんだよ」
振られたと抑揚の無い声色で言い放つ。辛いはずなのに、何の気ないような表情が痛かった。そんな風に平気で言うことないでしょ?声に出して言ったら、ブン太がちら、とあたしを見て。くしゃ、と笑う。痛々しい笑顔に、こっちが泣きそうになった。
「だな」って言いながら苦笑するブン太に、切なくなった。辛かったね、と呟くように言うと、ブン太があたしを見た。だって、今までこんなに辛そうなブン太を見たの、始めてだ。今まで別れたって言っててもここまで辛そうな顔したりしてなかったのに。
それだけ本気だったんだと伝わって、あたしの口からもそう言うしか出来なかった。もうちょっと、上手く言葉が紡げたら良いのに。ブン太の辛さとかちゃんとわかって、ちゃんと慰められる力があたしにあれば良いのに。色々思うものの、結局口から出たのは月並みな一言だけ。…辛いのなんか当たり前なのに。
前ならあっちが「あ、でも俺へこんでるわけじゃねえから下手な慰めすんなよ〜」って笑ってたから、もっと良い人見つかるよってあたしも軽く言葉をかけられたけど。今のブン太にはこれ以上言えなかった。
ブン太に対して凄く申し訳なさでいっぱいになる。自分のことじゃないはずなのに、しゅんと項垂れてしまう。色々考えたら涙が出そうになった。
ぐず、と鼻をすする音が教室に響いて、ブン太に泣いてることがバレてしまったんだろう。そんなあたしにブン太は慌てて口を開いた。
「な、泣くなって!」
泣いてないよ! ブン太の言葉に鼻声交じりで対抗する。実際あたしは泣いてはいなかった。多分、泣く一歩手前だったのかもしれないが、ブン太の言葉で涙がちょっとだけ引っ込んだ気がする。強気でブン太を見れば、ブン太は泣いてないあたしを確認してあからさまに大きなため息をつく。それからかし、と頭をかいた。ブン太の手の所為でワインレッドの髪の毛がゆらゆらと無造作に揺れる。二度目のため息はすぐだった。
「ていうか、さ。違うんだよ」
言われた言葉が上手く理解できなくて、何がとしか言えなかった。訝しげに見つめればブン太は決まりが悪そうにあたしを見つめてくる。あたしはずずっともう一度鼻をすすって、手のひらで口を覆い隠すとまだ続くであろうブン太の言葉に耳を傾ける。すう、と息を吸う音までもが敏感に聞き取れて、いつもと違うブン太にドキっとして。
え 、ドキって、なに、さ?
「彼女に言われたことで、考えこんでるっつーか。あ、別にそれで傷ついてるわけじゃねーからな?」
「え、あ、うん?」
何が言いたいのか良くわからないブン太の口ぶりに疑問符が沢山浮かび上がってくるが、今のあたしにはそんなのは重要点ではなかった。「だから、その、な…」といつもとは違う、消極的っぽいおどおどした感をあらわしているブン太をただ、見つめる。ちら、ちら、と何度かあたしを見ては逸らし見ては逸らしを繰り返すブン太の奇行。不審に思わなかったわけじゃないが、よほど言い辛いんだろうと勝手に解釈して黙っていた。
「…笑うなよ?」
何秒か経って、ようやく出た言葉は確認の台詞。そんな笑うような台詞なのか?と不思議に思ったけど、ブン太の顔を見たら凄く真剣で、あたしは素直にコクンと肯いていた。それを確認したブン太は、よし、と独り言のように呟いて、小さく息を吐き出す。そして、また、目が合う。
「は、俺の…友達だよな?」
似合わないほどのマジ顔に、ゾクっとした。なんでそうなったのかわからない。言われた言葉を頭の中で何度もぐるぐるぐるぐると繰り返して、また黙って肯いた。そうすればブン太は安心したようにようやくその真面目顔から笑顔を覗かせる。こっちまで笑顔になるような笑みを浮かべたブン太は、ようやく本調子を出し始めたのか、次の言葉は落ち着いていた。
「元カノに言われたんだよ、と仲良すぎだって。俺とお前が友達だってことは信じてるけど、不安になるんだって。だから、ちょっとだけでもいいから距離、置いてくれって言われたんだよ。前から結構の話題を出しては突っかかってくるなーって思ってたけど、まさかそんな風に思ってるなんて思ってなくて。でもだからって俺はお前のこと友達だって思ってるし、大切な友達と距離置くなんて俺にはできねぇって言ったら、」
「フラれたんだ…?」
言ったら、ブン太はあたしを見て、罰が悪そうにコクリと肯いた。
ブン太と彼女が付き合い始めてから彼女の何度か話したことはあった。そのときにも時々不安そうな顔をしていたのは知っていたし、時々「やっぱりなんかあるんじゃないんですか」と言われたりすることもあった。でもまさかそこまで重要視されていたなんて気づかなくて。そして喧嘩になりそうになったときに彼女の気持ちをわかってない風な発言に対して、本当なら友達として莫迦でしょ!アンタは!って言わなくちゃ駄目なはずなのに。
ブン太の言葉に嬉しく思う自分がいた。
なんでよ。あたしの所為で彼女と別れてしまったのに。
「莫迦だよ、ブン太」
普通ならそこは彼女の気持ちを汲み取らなくちゃ。もし、自分がそうだったら、と置き換えてみたら彼女の言動も肯ける。でも、何故かほっとしてる自分が居た。
折角大切な友達認めてくれてるのに。なのに、ブン太がフラれて喜んでるなんて、こんなこと知ったらブン太は軽蔑するのかな?そんなことを思う。
そんなあたしの様子にブン太は気づかない。俯いてしまったあたしに訝しげな視線を向けて、?なんて呼ぶもんだから、涙が出そうになった。(…決してあたしは涙もろいわけじゃないのに、変だ)もう一度莫迦だよ、と呟く。ブン太に伝わったかは定かではない。今のあたしは涙が流れて無いだけで泣いてるのと同じだったからだ。声が、震えてたのが自分でもわかった。喉の奥がじんと熱くなってた。でも悲しいわけじゃない、嬉しいんだ。
「…だって、しょうがねぇじゃん。…と彼女を考えたとき、…もし、どっちかいなくなったらって考えたとき、お前とは離れたくないなって、思っちまったんだから…」
ねえ、ブン太、それってさ、何か告白みたいだよ?…冗談めかしで言ってやりたかったけど、思いのほか嬉しくて、ついにあたしは泣いてしまった。何度も何度も莫迦莫迦莫迦って繰り返し繰り返し。声は掠れて上手く言葉にならなかったけど、何度も何度もブン太に向かって莫迦って言い続けた。どうせ莫迦だよとふて腐れたような声が頭上で聞こえたと思ったら、目の前にはブン太の腕があって、顔を微かに上げると、その腕があたしの顔にぶつかった。そしたら、そのままぐしぐしと左右に動く。涙を拭いてくれてる?自分に良いように解釈してしまう。
「ブン太…?」名前を呼ぶとブン太は短く返事を返すだけだった。素っ気無いそれになんだよと思うけど、でも拭ってくれる腕は優しいから何もいえなくなってしまう。
ブン太は結構自己中な発言で、いつも唐突で人を振り回す人だけど、だけど、ふっとしたときに優しさを垣間見せる。それがどんなに小さなことだったとしても、誰よりも優しいと感じてしまうことが良くあって。そんな優しさを見るといつも、ブン太がモテる理由は此処にもあるのかもしれないな、と思ったりした。いつもならそれで終わりのはずなのに。なんでだろう、初めてブン太の本心を聞いてしまったからか、さっきから心臓の音が煩く鳴り響く。
これじゃあ、ブン太に聞こえちゃうじゃんか
心臓に向かって怒ったりするけどそんなんで鎮まるはずもない。寧ろどんどん大きく早くなるテンポに顔の熱までもがプラスされて、どうにかなりそうだ。そのことにブン太は気づいているだろうか?
「俺、みたいな奴と付き合ったほうが良いかなー…つか本気で付き合うかいっそのこと?ほら、仲良くなってからずっと付き合ってる説も消えねえことだし、実際嘘の噂を本当にするっつーのも…」
気づいてないんだと知った。最後の涙を親指で拭い去ってくれたブン太はあたしをみて苦笑を向けた。おどけた口調。そんなのいつものことだ。いつも言う冗談の一つだ。それくらい知ってる、気づいてるよ、理解してるさ。なのに、なのに何で今日は。…今、自分の心臓がこれ以上ないくらい早く脈打ってる。制御出来ないくらいのそれ。こんなの初めてだ。こんな感情、知らない。まるで、自分の心臓が自分のじゃないみたいに、暴走し始める。壊れちゃうんじゃないかって本気で思ってしまうほど。
「ば、っ莫迦!そんなこと言ったら惚れちゃうよ!そしたら困るでしょうが!」
「いや、今回は結構マジだけど」
同じように冗談っぽく頑張って紡いだ言葉は、次のブン太の言葉であっさりと崩れてしまった(ほんと、困るよ…莫迦)今やもう顔が沸騰しそうなくらい熱くなってる。
顔を上げると、真顔のブン太の顔があって、時間が止まったように動けなくなった。そんなあたしをじっと見つめて、ブン太の両手が頬に触れる。今や熱いくらいの頬に、ブン太の冷たい手が触れてちょっと気持ち良いけど、落ち着かない。?とブン太があたしを呼ぶ。その声はいつもとなんら変わらないはずなのに、心臓が煩い。止まれ、莫迦。いや、止まったら死んじゃうんだけどさ。
「ちょ、ほ、本気!?正気なの、ブン太!」
「俺は至って本気の正気。でもが嫌なら今の友達のままで良いけど」
でも、と続けられて、ブン太を見れば、顔を背けるブン太。耳の方がちょっとだけ赤くなってることに気づく。普通なら何その反応、って無理やりにでもこっちを向かせてやるのに、今日は出来なかった。
「あ、あたし…さっき、ブン太が彼女よりあたしをかばってくれたこと、凄く、嬉しかった。でも、それが恋愛なのか友情なのか、わかんない。そんな、中途半端なまま付き合って、ブン太との関係、壊したく、ないよ」
そういって、気づいた。今まで沢山のカップルを見て来た。初めは幸せそうだった友人。それがある日を堺に壊れてしまった。壊れてしまうのを何度となく、見て来た。そのとき、あたしはブン太とは友達でよかったと、思ったんだ。友達だったら、このまま進んでいけばずっと一緒にいられる。恋人だったら壊れてしまう。壊れて一緒にいられなくなるなら、このままが良い。このままで居たい。そう思ってたこと。
ねえ、あたしは、もしかしてずっとブン太が好きだったのだろうか?友達としてじゃなく、ずっと好きな人として見てたのだろうか。
きっとブン太の彼女は気づいてそれに気づいていたのかもしれない。そして彼女は一抹の不安を覚えていたんだ。そしたら、何だか申し訳なくなって、また少しだけ涙が零れた。涙はブン太の手を伝う。それをすっと拭う優しい手。
「あたし、ブン太のこと、好きだったかもしれない」
ずっと、ずっと、好きだったのかもしれない。言ったあと、とめどなく涙が溢れ出した。こんなに泣いたのいつ振りだろうってくらい、大粒の涙があたしの目から流れた。何度も何度もそれをブン太の指が拭ってくれるけど、きりが無いと判断したのか、頬にあった感触がすっと消えた。ぼやけた視界がブン太を捉えたのは一瞬のことだ。
ガタっと音がした。
瞬間にぐいっと、ブン太の手が頭に回って。…一緒にあたしの頭にも疑問が回る。
なんだこれ、何が起きてる?ぐるぐるぐると答えを探し出そうと必死になって、暫くしてブン太のブレザーが目の前にあることに気づいた。右を向けばブン太の綺麗な赤い髪の毛がふわっと揺れている。これほどに無いほど近くでブン太の匂いがした。抱き寄せられてるんだろうか、と覚束無い脳味噌で判断して、戸惑いがちにブン太の名前を呼ぶ。「やべえ…」耳元で聞こえるブン太の声。本当に心臓が壊れてしまいそうだ。くらくらとめまいにも似た感覚があたしを襲う。座っているはずなのに、身体中が麻痺したようで感覚が掴めない。そんなあたしをよそに更にブン太が呟く。
「マジ、反則だそれ」
「、え」
「……俺、本気でのこと好きなんかも…こんなん初めてだ…うわ、マジ有り得ねぇ」
「ぶ、ブン太っ」
独り言に似た台詞に戸惑いを隠せない。さっき呼んだときよりももっと大きな声で名前を呼ぶと、ブン太があたしを放してくれた。でも、後頭部を支えている手はそのままだ。ブン太の顔を近くで見るのはいつものことなのに、まるで今のブン太はあたしの知ってるブン太じゃないみたいだった。髪の毛と同じような真っ赤な顔。
また名前を呼ぼうとしたら、ブン太の顔が近づいて、額に触れる唇。ちゅ、と音が鳴ったと思ったらすぐに離れてしまった。一瞬の出来事だったけど、あたしの言葉を失わせるには十分すぎるくらい威力が強くて。声にならない声があたしの口から漏れる。大きく開けた口は何も言えないまま固まってしまった。
「!…俺と、付き合ってくれっ」
たったそれだけで、あたしの全てを持ってっちゃった。
あたしは何も言わず、ぎこちなく首を縦に振ることしか出来なかった。
(気づいたんだよ、もう完全にブン太に惚れちゃってるんだってさ)
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