抱きしめられた腕を今でも忘れられない・・・。
ドキドキが止まらないんです・・・。
どっちつかずの恋心
*Noncommittal loveheart*
今日から新学期。気持ちも新たに3学期の突入!と言いたいところなのだけれど、どうやら、彼女には無理なようである。
原因は昨日の出来事。そのことを思い出すと、は顔を真っ赤にさせた。
わ、私・・・告白された、んだよね・・・?
自分に問い掛けて、そしてまた顔を赤くさせる。そして、ぶんぶんと頭を横に振ると、騒がしい教室に静かに入った。
一番初めに目にしたのは、手塚だった。いつものように、読書をしている手塚を見て、はほっと安堵の息を漏らし、静かに席に座った。
・・・・・・横目で彼を見る。
「・・・お早う、」
そんなの視線に気づいたのか、手塚は読んでいた本を閉じると、を見た。
どきっとの胸が高鳴る。
「?」
「え!?あ、お、おはよ・・・」
「どうかしたのか?」
「いや、別に!!何でも無いの!!あ、其れより何読んでるの?」
は話を逸らすように、本を指差す。
すると、手塚はパっと鞄の中へ其の本を閉まってしまった。
「如何したの?」
は不思議そうに見ると「何でもない、気にするな」と少し困惑した顔で手塚は応えた。
はその手塚の不審な行動に疑問を抱き、聞こうと口を開いた瞬間
「あ、手塚」
今一番聞きたくない声を耳にした。
「僕の勧めた星の王子様如何だった?英語バージョンも中々面白いよね?」
「・・・ああ」
「あ、。お早う」
その声の張本人は、今までと何ら変わりの無い表情と態度で、まるで、昨日のことなんてなかったかのように、に微笑みかけた。
「お、はよ・・・」
もしかしたら、気まずくならないように、との彼なりの気遣いだったのかもしれない。
だけれど、どうしてものほうは、今までと同じようには出来なかった。
俯き加減で答えたを見ると、不二は何を思ったのか、少し彼女のほうを見やっていたが、不二は手塚の方に目を向けた。
「あ、手塚、それでさ・・・英語の辞書貸してくれない?忘れちゃって」
後頭部に右手をやって、あはは、と笑う不二。その声には、微かにびくっと体を強張らせた。
心臓がどくどくと早く脈打つ。顔が上げられない。は、ひざの上に置いた手を、ぎゅっと強く握り締めていた。
「あ、じゃあ僕戻るよ。辞書有難う、手塚」
「ああ」
「・・・じゃあ、もまたね」
「う、うん・・・」
時計を見て、不二は片手を顔の辺りくらいにやって、と手塚に背を向けた。
その姿をは見る。すると、昨日の出来事が、フラッシュバックして、涙が出そうになり、下を向く。
本来ならば、上を向くのだろうが、泣きそうな顔を誰にも見られたくはなかったは、敢えて下を向いた。
がらっという音で、ドアが開き、不二の姿は見えなくなった。それから、少し間を置いては口を開いた。
「て、づか君・・・その本、不二君に勧められてたんだね」
「・・・ああ」
頑張って無理やりに声を出したが、その声は、とても小さく弱弱しく、掠れていた。きっと、気遣ってくれたんだ。
は手塚の優しさに感謝しながら、目をぎゅっと瞑り、ゆっくりと目を開けて、手塚を見つめた。
「そ、そんな気にしなくって良かったのに!!私、そんな軟じゃないよ?本人が来たら、そりゃ動揺はするけどさ!名前、出してくれても良いよ?!」
は精一杯の笑顔で手塚に言う。
けれども、手塚は黙ったままだった。
先生の声だけが、静かな教室に響いている。古典とは、何故こうも子守唄のように聞こえてしまうのだろうか。
先生の声は、の耳に入っては、すぐに出て行く。という状態だった。
不二君のことが好きなのに、手塚君のことも気になる自分が嫌だ。そんな中、は思っていた。
は真っ白なノートを睨み付ける。そして、シャーペンを持ち、真っ白なノートに黒板の文字を乱暴に書きこんだ。
不二の事はもう嫌いなんだと、自分に言い聞かせるように・・・。不二とはただの友達でしかないんだと、言い聞かせるように・・・。
「――では此処のところを・・・、読め」
「・・・・・・・」
「!!!寝ているのか!!!」
「え?あ、いえ・・・っ」
は我に返って先生を見る。先生が声を荒げるので、は慌てて教科書に目を落とした。
・・・・・・・・・けれども、肝心な場所がわからない。
「聞いてなかったのか!?」
先生はかなり怒ってるらしかった。
つかつかと、大またでの席へと向かってくる。
「先生」
「え?」
すると、静かな教室の中、手塚の声が響いた。
「如何した?手塚」
「は何やら具合が悪いみたいなので、保健室へ連れて行きたいのですが・・・」
え・・・・?
手塚の言葉に、はばっと顔を向ける。
「そうだったのか?言わなきゃ解らないだろ。じゃあ頼むな」
「はい」
先生は、簡単に手塚の言うことを信じると、前を向き直って今度は黒板に向かって歩き始めた。
そして手塚は立ちあがると、に声をかける。その声につられて、はゆっくりと席を立った。
がらっと後ろ側のドアを開けて、廊下に出る。・・・・・・静かな廊下を二人歩いた。その間、手塚君は何も言いはしなかった。
また、気遣ってくれたんだ・・・
は、手塚に感謝と、申し訳なさを心の中で呟いて、少し前を歩く手塚を追いかけるように歩いた。
「失礼します」
手塚が保健室のドアをガラッと開けて言う。けれど、其処には誰も居なかった。
それでも手塚は保健室に入ると、にも入るように促す。
言われるがまま、は保健室に足を踏み入れると、じんわりと我慢していた涙が溢れた。
「・・・っく」
「大丈夫か?」
泣いているを見てか、手塚は彼女の頭を撫でる。
その小さな優しさがとても痛く、そして同時に撫でてくれる手がとても優しくて、は涙を止める事が出来なかった。
「ごめん・・・」
「・・・何が?」
「サボらせちゃったね・・・、手塚君を」
「気にするな」
手塚はぶっきらぼうに答える。ぐずっと、は鼻をすすった。
そして、手塚は横目でを見やると「辛かったら言え」と真剣な目で言った。
「言っただろう?好きな女の泣いている姿は見たくないと・・」
「・・・っ」
は下を向くと「笑っていて欲しいんだ、には」と手塚は続けて呟いた。
そして軽く微笑むと「保健の先生には言っておく」と教室へ戻って行ってしまった。
は彼がドアから出るのを見送った後、ベットへと入った。
「ありがとう、手塚君」
は、ベットの中で小さく呟いて、瞳を閉じた。
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