授業が始まり、静まり返る教室。

先生が重要ポイントを説明している中。

私は彼の事が忘れられませんでした。





想いの行方
*The whereabouts of feeling*






「僕の気持ち、覚えておいて」


頭の中でぐるぐると繰り返される不二の言葉。
額に残る感覚。はそっと額に手をやる。
無意識に眉間にはしわが寄っていた。

「気持ちって・・・言われても・・・」

そしてぼぞっと呟いてノートに目を移した。・・・まだ、ノートは真っ白だった。
とりあえず、何か書かなくちゃ、と思うものの、実行に移せない。

?」

ぼうっとしているに、小声で手塚が声をかけた。
「何?」とも小声で返事をすると、心配そうに手塚はを見た。
そして「大丈夫か?」と続ける。どうやら、具合が悪いと勘違いされたらしかった。

そんな手塚には、申し訳なさを感じながら無言で傾いて、にこっと笑う。
すると手塚は「そうか」と言って黒板の文字をノートに書き込んでいった。





授業が終わり、昼休みとなった。
は友人に声をかけて屋上へときていた。

「そんで、大丈夫なの?
「うん、大丈夫!!」

一応、心配しているらしく、友人は軽い調子でに問い掛ける。
は心地よい風に吹かれながら元気いっぱいに答えた。

「でも、手塚って優しいね〜」
「え?」

突如、友人が空を見ながら、言った。は、きょとんとして友人を見やる。
そして、友人は今度はを見ながら続けた。

「だって、のこと気遣ってくれてさ?これで新たな恋の始まりv・・・なんてことになるかもよ!」
ってば・・・」

にやっと笑う友人、。彼女の発言に、呆れた様子では返した。
弁当を広げながら、は「冗談よ」と続ける。





「で?」

弁当を食べ始めた二人。
昨日やっていたドラマやニュースなど、他愛も無い話をしていたが、ついにが話を切り出してきた。

「何か、悩みがあるんでしょ?言っちゃいなって。不二に告ってどうだった訳?」
「うん・・・」

は「ばれてた?」と返すと、「ばればれ」と呆れたようにはため息交じりで答えた。
そして、は箸を一端置くと、昨日の出来事と今日保健室であったことをに話し始めた。





「と、言うわけでさ・・・如何したら良いんだろうって思って・・・」
「うーむ・・・・」

一通り話し終えたは、ちらっとを横目で見やる。
するとは考えるように腕を組んでみせた。

「で、まずの考えでは如何したいわけ?」

そして、は真っ直ぐな瞳でを見る。
無言では首を横に振った。

「わかんない・・・」
「やっぱ、不二君?」

は顔を伏せると、蚊の鳴くようなか細い声で一言呟く。すると、の顔を覗き込むように、口を開いた。
その言葉にはパっと顔を上げる。の顔を見ると、さも当たり前、とでも言いたそうな表情だ。

「だって、そうでしょ?不二は初恋な訳だし?告白して振られたけど、不二はその後自分の気持ちに気づいたわけだし・・・ハッピーエンドなわけじゃん?」

「ね?」と微笑んではご飯を口にする。・・・・・・・・・・確かにの言うとおりだった。
は「うん・・・」と腑に落ちないような面持ちで頷く。でも、なんか・・・素直に喜べない・・・。
何故、はそう思うのか、自分でも良くわからなかった。

「もしかして・・・」

考え込むに箸を突きつけてにやりと笑う
の笑顔に底知れぬ不安を感じつつ、は眉根を寄せる。
そして、ウインナーを口の中に入れた。

「手塚のほうに惚れた?」

ぶほっ

ごほごほ、とむせた。はトントントンと自分の胸の辺りを叩く。
は「あーあ」と言いながら、の横に移動すると、彼女の背中を優しくさすった。
それから、落ち着いたは、ふう、と安堵の息を漏らすと、キッとを睨んだ。

「そんなんじゃないよ!!」

の言葉に、一瞬呆けたような顔をしただが、すぐにさっきのあの、憎たらしい笑顔を取り戻すと
「照れなくてもいいのに〜」と茶化すように言った。その言葉には思わず立ち上がった。

「違う・・・!!!」
「・・・そんな、一生懸命否定しなくても、冗談よ」

そんな彼女の態度に驚いたのか、は目を細め手を振った。
そして、はぽかんと口を半開きにした後、我に返って、ストンとゆっくりと座り込んだ。

「・・・が変な事言うから・・っ!!」

顔を赤くさせながら、遠慮がちに、言った。さっきの威勢のよさは何処へ消えた。
そんなことを頭の隅ではつっこみながら、の言葉に続ける。

「いや、真面目な話でさ?如何なのかな〜と思って。だって、恋愛感情無いなら、不二君と付き合う筈じゃん?」
「そ、そうだけど・・・」

ぐさくざと、箸でご飯を突付く。
その様子を見て、にばれないように小さく息を落とした。

「まあ、決めるのはアンタだけどさ。ゆっくり考えればいいんじゃない?」

そう言うの言葉には傾いて蒼く晴れ渡った空を見上げた。





「予鈴だ、さ、教室に戻ろう?
「うん、そうだね」

よりもは先に立ち上がった。
・・・そして、に手を差し伸べる。
はその手をとって、立ち上がった。





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