教室に戻ると、私の席に誰か座っていた。
其の人物は直ぐに解ってしまって、行きづらさを感じた。
重い決断
*Heavy decision*
「あ、」
ふわっと微笑むその人物は、にとって今は会いたくない人だった。
は不二に少しずつ近づく。
すると、不二は席から立ち上がると、に椅子を譲った。
は無言で椅子に座ると、次の教科の用意を始める。
隣に座っている手塚は不二から借りた本を熟読していた。
「じゃあ、帰ろうかな。本鈴なっちゃうし。また今度ゆっくり話したいな」
そう言って、不二は教室を後にした。
は帰っていく不二から目を離して手塚をぼーっと見やる。
すると手塚は視線に気づいたらしく、本を閉じて見てきた。
前にもあったような光景だ。と、は思った。
「何だ?」
「あ、いや・・・別に・・・」
嘘だった。
聞きたい事はたくさんあった。
手塚君は私の事を好きなんじゃないのか?
手塚君は私と不二君が話していても気にならないのか?
手塚君は不二君が私に会いに来る事を如何思ってるのか?
だが、そんな事を言えるはずがない。
考えていた思いを、振り払うかのように、頭を振って「何でもない」と小さく呟いて、ノートを開く。
その後すぐに本鈴は鳴り、先生が入ってきた。
そして、学級委員の声と共に皆が立ち上がり、授業が始まった。
此れから、私は如何すれば良いのだろう・・・・。
は、ぼんやりと黒板を見つめ考えていた。
けれど悩んで簡単に出る答えではない。
「やっぱり不二君?」
不意にの言葉を思い出す。
そうなのだ。本来ならば不二のはずだ。
一年の頃からずっと好きで・・・テニスをしている彼に恋をしたのだ。
そして、自分も女子テニス部に入っているということもあり、それなりに話をするようになった。
それと同様に二年になって、三年生が引退した時、は女子テニス部の部長に推薦された。
その為手塚とも、少しではあるけれど、話をする機会が増えた。
そして今年三年になり、手塚と同じクラスになって、もっと話すようになったのも事実。
一体私はどっちが好きなんだろう・・・。は悩む。
今までは不二のほうを追いかけてきた。不二に似合うようになりたいと、毎日気を配ることもしてきた。
手塚はというと、同じ部長である事もあり、時々助けてくれて良い人だとも思っている。だけど、それは恋ではない、とは思った。
では、私はやっぱり不二君を好きなんだろうか・・・?でも、何故だか手塚君の事が頭から離れない。
どんどん考えていると、わけがわからなくなって、は乱暴に頭を掻いた。
結論の出ないこの思いが腹立たしかった。
そしてふと、は必死にノートを書き写している手塚に視線を向けた。
真剣に先生の言葉に耳を向けながら書いている。
そしては、ふう、と小さく息を吐いて、自分のノートに目を落とした。
「、ちょっと良い?」
「うん、いいけど?」
休憩時間になり、はを廊下に呼び出す。
そして先ほど授業中に考えていた事を淡々と話し始めた。
「私、不二君と付き合うよ」
「マジ!?」
「だって、1年のときからの片思いだし・・・」
「がそう思うなら、そうすればいいんじゃない・・・?でも、その・・・・」
続きが言いづらそうなにはふっと力なく笑って、彼女の肩に顔を埋めた。
「良いの、それは・・・。私は不二君が好きだから・・・・」
・・・自分に言い聞かせるように、そっと呟いた。
あれからすぐしては不二と付き合うようになった。
ずっと夢にまで見ていた不二の彼女に、なったのだ。
付き合い始めてから、帰りはいつも一緒でいつも家まで送ってくれる。
付き合い始めてからの不二は前よりも優しく、本当にの理想の人そのものだった。
「ねぇ、、明日何か予定ある?」
「?無いけど?」
いつものように、一緒に下校していると、不二は思い出したように口を開いた。
その問いにきょとんとしながらは答える。
すると、不二は更に目を細めると、優しく微笑んで続けた。
「じゃあ、何処か遊びに行こうよ。丁度部活休みなんだ」
「え?」
「何処が良い?」
「えっと・・・じゃあ・・・」
初めてのデート・・・。
は典型的過ぎたかなと思いながら、不二にいうと、不二は笑顔で「いいよ」と笑った。
「これがいいかな〜?それともこっちのほうが・・・?」
家に帰ったは、鏡の前で、一人唸っていた。
クローゼットの中から、自分の限りある洋服を引っ張り出して、それを鏡の前で交互に合わせる。
だが、一向に決まらない。
んー、と眉間にしわを寄せながらは明日着ていく服を選んでいた。
なんたって相手はあの不二君なわけで・・・・。
一緒に歩いてもまだ許せるなってくらいにはならないと。
「うん!」握りこぶしを作って、頷いた。
気合は十分、なのだが・・・・
「でも、服がないよーーーー!!」
いつまで経っても服は決まりそうに無い。
そしては携帯を取ると、慣れた手つきで操作をして、に電話をかけた。
『はい、もしもし・・・』
「あ、??」
『何?』
はぁ、とため息交じりでは素っ気無く答えた。
「何って失礼ね!!あの私ね、明日不二君と遊園地に行くの」
そう言うとは少し黙り込んで、やがて口を開いた。
『あ、そうなの?良かったね、オメデトウ』
棒読みだ。
「心がこもってない・・・」
は、がくんとうな垂れると、「ていうか、自慢しにわざわざ電話してきたわけ?それなら切るからね」と受話器越しに聞こえた。
その言葉に慌てて制止をかける。
「あーーー!!待って待って待って!!!聞きたい事があるの!!」
『・・・何?』
少々うんざりと言った風に、はため息交じりで聞いた。
あぁ・・・今のの顔が目に浮かぶ・・・。
そんなことを思いながら、は苦笑して、続けた。
「着てく服が決まらないの。色は何色が良いんだろ。あんまりブリッコしたような服は、きっと引いちゃうよね!!?」
『はぁ、んなもん、どうでもいいじゃん。あっちはそこまで気にしないって』
「解ってない!!不二君モテる事を忘れてない!?街中歩いてたらきっと目立つのに・・・」
『彼女が凡人だと、嫌だと?』
はまるでの言いたい事を全てわかっているようだった。
の言葉を呆れた声で遮る。は、うっと、言葉に詰まる。
「阿呆らしい」の声が、聞こえた。
『んなもん、気にしなきゃいいじゃん。が彼女って事は代わらないんだからさ』
「そう・・・だけど・・・」
『それに、私はドラ●もん見たいに、あんたをちょー美人にしてあげる道具なんて持ってないしさ』
まあ、せいぜいメイクしてあげる事くらいね、と付け足しては言う。
「だよね・・・」
しゅん、とうな垂れる。
それから、色々な話をした。
そして、ふと、電話越しに欠伸をする声が聞こえて、時計を見る。
「ご、ごめん!話聞いてくれて有難う・・・。またね」
『如何いたしまして』
長々と続いた話にピリオドを打って、は未だ決まらない服装や髪型について夜遅くまで一人、騒いでいた。
気がつくとすでに時計の針は3時を回っていて、はベットに寝転び、天井を見続ける。
モヤモヤとした気持ちと嬉しい気持ちが交差しながらは電気を消して瞳を閉じた。
さぁ、明日は夢のようなデート・・・は心の中で呟いて、瞳を閉じた。
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