「もしかして・・・手塚君に惚れた?」
私の脳裏に、そんな言葉が走った。でも、そんな事は無い。
だって、私は今目の前にいるこの人が大好きな筈なのだから―――。
気づいた思い
*Noticed feeling*
「はい、お待たせしました。オムライスです」
店員さんは運んできたオムライスを目の前に差し出すと、「ごゆっくり」と付け加えた。
「美味しそうだね」
「うん」
私は大きく頷いて、スプーンでオムライスを一口すくった。スプーンですくったオムライスから寄り一層湯気が立つ。
そのオムライスをパクッと食べた。口の中で卵がとろける感覚がして、思わず微笑む。
「美味しいねっ!」
「うん、本当だね」
にこっと笑う不二君に自分も微笑んで。
いつかこの笑顔を自分に向けて欲しいって、願ってた。いつかこの笑顔を独占したいって、思ってた。
こんなにも望んでいた事なのに・・・こんなにも願っていた事なのに・・・
「好きな女の泣いている顔は見たくない」
「辛かったら言え」
なんで、手塚君の言った事を思い出してしまうんだろう・・・・。
「・・・?」
「・・・え?」
「如何したの?さっきから手が動いてないけど・・・・」
「あ、ごめん!!」
私は不二君に謝って、またオムライスをすくって口に入れた。
一番初めに食べたときとは違って、暖かくはなかった。
「僕の話、つまらなかった?」
「ううん、違うの!!本当にごめんね!」
苦笑交じりに言う不二君にもう一度謝って、また一口オムライスを食べた。
「だーーー!!もう!!なんなのアレは!!!謝ってばっかりで、息苦しいっての」
「・・・・ちゃん・・・だからって、そんな身を乗り出して見なくても・・・!」
身を乗り出してと不二を見つめる(?)の腕を掴んで、其れを静止する菊丸。
「だって、なんか歯がゆいんだもん!!何さアレは」
「それは解るけどー!でもダメだって!此処は抑えて、ね!?」
「何よ、英二君・・・いつもはあたしと同じやじ馬やってるクセに」
「そうだけど・・・今日はダメ」
当たり前だ。菊丸だって命は欲しい。
コレがまだ桃城だとか、越前だとかそういう奴らならば、菊丸だって面白がれるだろう。
・・・・・・・・・・だが、相手は不二なわけで。
俺だってまだ死にたくないにゃ!!!
そういう心境からか今日の菊丸はいつもと違い、慎重に行動していた。
「・・・じゃ、休憩もしたし、出る?」
「うん」
私はオムライスを食べ終えて、不二君に続いて席を立って不二君の横を歩いた。
そしてレジまで行くと、入場券の時と同じ様に不二君は奢ってくれた。
「有難う、ご馳走様でした」
外に出て、不二君にぺこりと頭を下げて言うと、不二君は「如何致しまして」と微笑んた。
「さ、空中ブラ●コ行こうか」
「うん」
不二君は私の手を取って、歩き出した。
「わ!手繋いだっ・・・ふぐっ」
すると、またに似た声が聞こえてきた。
「・・・・?」
「・・・・どうかした?」
友人の名前を呼んで見る。私は振り向いて辺りを見回すと、やっぱりそこには彼女らしい人はいない。
不二君は不思議そうに私に問いかけた。
「ん・・・友達の声に似てたな・・・って思って・・・」
「・・・気のせいじゃない?」
私が不思議そうに答えると、そう言って再び歩き出した。
私は少し不満を残しながらも、不二君に小走りで駆け寄って隣を歩いた。
「か、間一髪だにゃ・・・・」
の口を自分の手で思いっきり塞いで、安堵のため息を漏らす菊丸。
少し前では自分たちがつけているが不思議そうに辺りを見回していて、
ようやく今不二の後を追って走っていった。
「んーーーんーーー!!!!!」
「あ、ごめん」
そして今の状況に気づき菊丸は大慌てでの口から手を離した。横で「ゼェゼェ」と荒い息をする。
そんな彼女を横目に、ヤバイかな?と思いつつも、菊丸はまるで人事のようにその動作を見やった。
「何すんの!窒息死させる気!???」
キっと睨んで顔を赤くしては菊丸に言い放った。
「ご、ごめんにゃぁ〜〜だって、さっきいきなり大声だすから〜・・」
やっぱり、と言う言葉が菊丸の脳裏を掠める。
の威圧に押され気味で控えめな主張をする菊丸に、呆れ顔で『はっ』と気づきは前を見た。
「あーーーー!!!!たち見失ったじゃないーーーー!!!!!!」
そしてその周辺にはの声が響いた。
「私、小さい頃から此れが一番大好きで、毎回乗るんだ」
「そうなんだ」
ふわふわとゆっくりではあるが回り始めたとき、私は笑って話し始めた。
だけど、不二君は相槌しか打ってくれない・・・。楽しくないのかな・・・?と心の中で落ち込んで・・・。
でも、決して顔には出さずに笑って話していた。だって、自分のワガママに付き合ってもらっているのだから。
せっかく両想いになったのに、文句を言ったら嫌われてしまうから。さすがに、初デートでフラれるのは悲しい。
私は、空中ブ●ンコを心から楽しめずに、次のアトラクションへと移動した。
急●滑りや、ミラーハウス、オバケ屋敷・・・・と次々にアトラクションの制覇をしていった。
そして、気づけばもう日は傾き始めていた。どれも、これも、楽しいはずなのに、私は心ここに在らず、状態だった。
「此れで最後にしようか、遅くなるし」
「うん」
「じゃあ、どれが乗りたい?」
不二君に促されて私は一つの乗り物を指差した。
「あれ・・・あれが乗りたい」
「観覧車か、良いよ」
すると、不二君は私の指差した方向を見て優しく微笑んだ。
案外人は少なく、すんなりと自分達の順番が並んできた。
「最後は観覧車で締めくくりかー」
「つ、疲れたにゃ・・・・」
「ダラシナイな〜もう。それでもテニス部レギュラーなの?」
テニス部レギュラーとか関係ないにゃ!!!と、心の中で菊丸はの言葉にツッコミを入れながらも、「と、とにかく行くんでしょ?」との背中を押した。
「観覧車で、キスすると思う?」
すると、は押されながらも菊丸の方を向いて、嬉しそうに笑っていった。
「ま、まさか〜」
「見た感じ、不二君って優しそうだけどー・・・手は早いほう??」
「ねぇ、どうなの?不二君の親友の英二くん」とからかうように言うと、
菊丸は困ったように眉をしかめた。そして、暫く考えて、口を開く。
「し、しないだろー」
「・・・・・・ふーん・・・・」
は菊丸から聞くや否や、ちっ、と舌打ちをして、「意気地がねえな」と散々な物言いで言う。
菊丸は、そんな彼女の言葉を、聞こえないフリをして、前を見ていた。そして二人はと不二の後を追って歩き始めた。
「其れでは、次の方どうぞ。足元にはお気をつけ下さい」
やっと私達の番が回って来て、不二君が「、入って」と私を先に入らせると、自分もゆっくり入った。
アトラクションの人は其れを確認すると、安全の為カチャンと鍵をしめ、ゆっくりと観覧車は動き始めた。
「なんか・・・・あっという間だったね」
私は不二君の顔色を伺いながらそう言う彼は苦笑交じりに頷いた。
そして不二君は「でも、今日は楽しかったよ」と付け加えて言った。
「私も・・楽しかった。まさか不二君と遊園地に来れるなんて、夢みたいで・・・」
テレながら私は不二君に言う。
すると不二君はクスっと笑って言った。
「僕も、夢みたいだよ」
そう言った瞬間、不二君の顔が近づいてきた。
私は静かに瞳を閉じる。
「好きな女の泣いている顔は見たくない」
「?」
なんで、こんなに手塚君の事を思い出してしまうの・・・!?
「――――めて・・・」
「・・・?」
「嫌っ!やめて・・・!!!」
気がつけば、私の瞳からは溢れんばかりの涙が溜まっていて。私はハッと我に返って涙を拭う。
其の仕草を不二君は何も言わずにただ静かに見ていて。私が涙を拭ったのを確認すると、静かに口を開いた。
「・・・・・・」
「・・・ごめ・・・」
「・・・謝るのは僕のほうだよ、急にあんな事、ごめんね。吃驚したでしょ?」
「・・・・・」
「まだ、早いよね」
苦笑交じりの不二君の顔を、私はぼやけた視界で見つめる。
「ち、違う・・・の」
不二君の話が終わると同時に私は首を振った。
すると不二君は不思議そうに私を見る。
「違うって・・・何が?」
「・・・・ごめんなさい・・・」
「・・・のごめん、の意味が解らないんだけど?」
「・・・・わ、別れて・・・ください・・・・」
小さな言葉で、でもはっきりとした口調で、私は不二君に頭を下げた。
「何で?」
「・・・不二君は、付き合う前も、後も凄く私の理想どおりの人だった。優しいし、いつもレディーファーストで私の事を考えてくれるし・・・落ち度は・・・全くないの・・・」
「じゃあ―――」
「だけど、ごめんなさい!!!」
不二君の言葉を遮って私はまた頭を下げる。
勢いで、どっと悲しくなり、瞳からついに涙が溢れる。
「私が・・・全部駄目なの。私の我侭なの・・・っ」
「・・・・・・」
「お願い・・・別れて・・・」
「・・・手塚、の事・・・?」
いつもの優しい声とは裏腹に、低い少し怖いくらいの声で、
不二君は呟くように私に言った。私はコクンと静かに頷く。
「・・・こんな楽しいデート中にも・・・手塚君の事を思い出しちゃう自分が居るの。
だから・・・こんな中途半端なまま、不二君とは付き合えない・・・。不二君に、悪い・・・」
「・・・僕がそれでも良いって言っても?」
「・・・ごめんなさい、不二君は良い人だから・・・傷つけたくない。自分にも嘘をついていたくない」
私は強い口調で叫ぶと、不二君は「そっか」と呟いた。
「・・・でも、僕は待ってるから。が手塚の事、気になっていても・・・僕は諦めないから。
だから・・また、にその気があれば・・・・また付き合おう?」
そして優しく笑いかけて私の頭を撫でる不二君に涙して、泣きながら頭を横に振った―――。
気がつけば私達の乗っていた観覧車はもう一周していてゆっくりと降りる。
そして、私達は遊園地を後にした。一番早い電車に乗る。
その間、お互いに何も口にせず、私はただ不二君から受け取った濡れたハンカチで自分の瞼を押さえていた。
「送って行かなくて良いの?」
「うん・・・辛くなるから」
「・・・そっか」
「じゃあ・・・ね」
「・・・うん・・・」
目的地について電車から降りた私は、最後に不二君に笑いかけて、その場から離れた。
てくてくとゆっくり家に向かって歩く。
「私が、もし・・・不二君と付き合うって言ったら、手塚君はどう思う・・・?」
「・・・・・の好きなようにすれば良い。不二は良い奴だしな」
不意に、不二君と付き合う前に何気なく言った手塚君との会話を思い出した。
あの時も全く顔色一つ変えずに、言った手塚君。其れを聞いて、ショックだった事。
如何してだったのか、あの時は解らなかった。でも・・・今なら解る気がする。
・・・・・・私、手塚君が好きなんだ――――。
抑えきれない涙を指で擦って、夕焼け色に染まった道を一人静かに歩いていた・・・・。
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