手塚君の事が、好きなんだ―――。
気づいてしまった思いに私はただ一人、涙した・・・。
不二君に別れを告げて、私の心のもやもやは少しだけだけれど、すっきりしたようにも思えた。
本当はずっとあなたのことが好きだった
*I loved you in fact*
いつもと同じ朝がやってくる。小鳥の鳴き声が、何故か私には心地よく思えた。
私は体をゆっくりとベットから起きあがらせ、大きく伸びをするとベットから降りて、ゆっくりとキッチンへと降りていった。
「おはよう」
毎朝の同じ光景。いつもと同じ様にキッチンに立って微笑むお母さん。
いつもと同じ様に新聞を読んでいるお父さん。そんな両親を見つめ、私は小さく微笑んだ、
そして、いつもより少し早く学校へ着くと、待っていたと言わんばかりにが嬉しそうに私に抱きついて来た。
「ねーねっ、昨日どうだった??」
「どう・・・って?」
「昨日の初デート!」
にこやかな笑みを浮かべると、私の前の席に座りコチラを頬杖を突きながら私のほうを向く。
昨日、迷惑をかけて嘘までも付き合ってくれたに罪悪感を感じながらも、不二君に昨日別れを告げたこと
・・・そして手塚君のことが気になっていると言うことを正直に話そうと、口を開いた。
「ごめん・・・協力してくれてたのに・・・あの私・・・」
「・・・・・・あのとき、観覧車でキスしてたんだよね?」
しかし私が話し始める前に、から意外な返事が返ってきた。「隠さなくて良いって〜!」と笑う。
私の脳は、一度フリーズしたかのように、何も考えられなくなったが、暫くしてサーっと血の気が引いていくような感覚に襲われた。
も、もしや・・・
「か、観覧車・・・って・・・・・しかもあのときって・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・・」
「・・・もしかして・・・・!???」
私はガタンと椅子を後ろに勢い良く引く。
そんな私の行動に吃驚したのか、は唖然とした顔で私を見つめる。
「そ、そんな怒らないで??・・・英二君に如何しても不二が気になるからって頼まれたのよ〜〜」
あははと苦笑交じりに言うと私の肩をポンっと叩いた。そんなを、私は疑いの目で見る。
すると、は暫くじっと私を見て観念したのか、両手を合わせて「ごめん!」といってきた。
「いや・・だって・・・ねぇ??面白そうだったから!」
「面白そうだったから、じゃないでしょ・・・やっぱり時々聞こえてきたあの声はだったんだね」
私は、はぁ・・・と深いため息を落としてを見る。
「ま、過ぎた事はしょうがないじゃん。・・・で、不二君と本当にチューしてないの?」
「してません!!!!」
「何で?・・・不二君って、手がはやそうって感じがしたんだけどな〜」
「ちぇ〜」と言って口を尖らせるに私は小さく、だって観覧車に乗ったときに別れてっていったから、と呟いた。
すると其の言葉には、目を丸くして唖然としている。
「・・・別れて・・・・って・・・?」
オウム返しに、私の言葉に続いて言う。
そんなを見て、少し俯き加減で昨日の出来事を話し始めた。
「・・・・・付き合えないって・・・言った」
「・・・・なんで!??」
「・・・・其れは・・・・」
驚きを隠せないと言った表情のの視線から逃げるようにフっとドアの方を見た。
すると丁度少し開いているドアの間から不二君と手塚君が見えた。
私は其の光景を見て、何も口に出来なくなってしまった。
「?」
心配してが声をかける。
私ははっと我に返ると、のほうに視線を移し、「ごめん、昼休憩にでも話すね」と無理に笑顔を作っていった。
「うん、わかった」
好奇心旺盛のだけど、私のことを良く知っているためか、あえて何故なのかは聞こうとはせず、ただはっきりと頷いた。
其の優しさが、何だか私にとってはくすぐったかった。
「おはよう、」
「おはよう、手塚君」
いつもと同じ朝の光景。いつもと変わらぬ表情で手塚君は私に挨拶をしてくれた。
私もいつもと同じように装って、ごく普通に挨拶を返した。けれど、私の内面には変化があった。
手塚君のことが好きなんだ・・・と気づいてしまった今、気持ちの面では前と同じようではいられない。
私は少しずつ、ゆっくりではあるけれど着実に気持ちを整理させていた。あと少しで答えに近づくことが出来る気がするのだ。
「・・・でも、僕は待ってるから。が手塚の事、気になっていても・・・僕は諦めないから。
だから・・また、にその気があれば・・・・また付き合おう?」
「・・・・ごめんなさい・・・・嬉しいけど・・・駄目」
「・・・・なんで?」
「・・・・・・きっと、私不二君の気持ちに応えること、出来ないもん」
あのとき、不二君の顔が辛そうで・・・。
そんな顔を見たくなくて、目を合わせることが出来なかった・・・。
「ごめんなさい」
「・・・そんなに・・・手塚のほうが良かったんだ・・・・」
笑いながら言っていたけれど・・・・微かに、声が震えていた。無理してるって、わかってた。
「ごめん・・・不二君」
「もう、良いよ」
私を落ち着かせるために、髪を撫でてくれている手が・・・・とても優しかった。
「もう、謝らないで。・・・ね?」
あんなに酷いこと言ったのに・・・。結果的に私は不二君を傷つけてしまったのに・・・。
其れなのに、不二君は私を責めることなく、最後の最後まで優しかった・・・。
昨日の出来事をぼーっと思い出していた。今は、授業中。
そして、我にかえるとぼんやりとした意識の中で、先生の説明を聞いた。
其の中で、何故か自分だけが、別世界に居る気さえしてならなかった。
昼休憩となり、がやがやと別のクラスの生徒がはいってきた。
其の中に、不二君の姿を見つけると、不二君も此方を見て、近づいてきた。
「、おはよう。少し・・・時間もらえるかな?」
「・・・・うん・・・」
真剣な声色に私は小さく呟いて、不二君が進むがままついて歩いた。向かったのは裏庭の木の下。
不二君は、木陰に腰を下ろすと、私にも座るように自分の横をポンポンと叩いた。私は其処に座ると、不二君は口を開いた。
「・・・手塚には・・・言った?」
「・・・・え・・・?」
「・・・僕と別れたこと、そして自分の・・・の本当の気持ち・・・」
不二君は少し躊躇ったように私に微笑みかけた。
私は其の不二君の言葉を聞くと、不二君の瞳を見つめ話し始めた。
「・・・言えるわけ・・・ないでしょ・・・?・・・だって・・・不二君と付き合ってたのに・・・第一、不二君に悪い」
「でも手塚なら、は幸せになれるでしょ?・・・僕には其れが出来なかった」
「・・・不二く―――」
「・・・僕は、の笑顔に惚れたんだと思う。だから・・・僕のことを気にしないで、幸せになって、笑っていて欲しいって思う」
「なんて、フラれた男の月並みな台詞だけどね」とクスっと苦笑して、不二君は顔を掻く。
私はそんな不二君を見てただただ黙っていた。
「ほーら、?そんなに泣き出しそうな顔しないで、ね?いくら手塚が好きだからって手塚の真似して、眉間に皺寄せないの」
不二君はそう言うと、右手で私の顔に触れた。不二君の暖かな温もりが、指を通して伝わってくる。
私はその場で、泣き始めてしまった。泣かないで、と不二君が困ったような声色で言うのが、耳に伝わる。
きっと辛いのは不二君のほうなのに・・・きっと泣きたいのは不二君のほうなのに・・・
なんで、この人はこんなに優しいんだろう・・・。溢れる涙を拭っても拭っても、止めどなく溢れて・・・。
「ふ、不二君・・・ご、ごめんなさい・・・本当に・・。有難う・・・・」
「・・・うん」
もっと言いたい事はあった。
沢山伝えたい事があった。
だけれど私は其れだけ言うのに精一杯で、後は声を押し殺して泣いた。
不二君は、ただ、静かに私の背中を擦り続けてくれていた。
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