本当は、ずっと、ずっと、あなたのことを見ていた。
でも、ずっと気づかないでいたの・・・。
今歩き始めた私たちの物語・・・
*Our story which began to walk now...*
やっと泣き止んだ後、不二君と教室に行き、私がドアの前に立つと「じゃあ・・・」とだけ言って、自分のクラスへと戻っていった。
私はそんな不二君の背中を、見えなくなるまで見て、教室へと入った。
「あ、・・・ごめん・・・・話すって言ってたのに・・・」
私がクラスに入ると、と目が合い、朝の出来事を思い出して、思わず眉が歪む。
すると、怒っていると思っていたからは意外な言葉が返ってきた。
「・・・・不二君と、ちゃんと話せた?」と・・・。私は少々驚きながらも、コクンと黙って頷くと、はにこっと微笑んだ。
「・・・不二君とのこと、気にならないって言ったら、すっごい嘘になっちゃうけどさ、あたしは本当にいつでも良いから。・・・・ほら、昨日はデートを見に着いていっちゃったしね」
「・・・」
「・・・・・そんで、何か悩みがあったら聞いてあげる」
「うん・・・・私も・・・に聞いてもらいたい」
じわっと来て、其れを抑えるかのように、無理して笑った。
しかし、感動したのも束の間・・・・。
「・・・・じゃあ、行こうか!ちゃんがぜーーんぶ聞いてあげる!」
「・・・え?!・・・今から!???」
「ザッツライト!」
私は強引にに引きずられ、連行されてしまった。
キーンコーンカーン・・・・・
予鈴が聞こえる・・・。
「ねえ、・・・授業・・・・」
「今日は良い天気だから、サボろ」
「はい?」
「うんうん」と一人納得するに唖然とする。すると、は大の字になって、寝転んだ。
私は困惑しながらも、とりあえずの横にしゃがみ、を見下ろす。
「ねえ・・・」
「・・・んー?」
私は、呟くように言った。
「・・・私、手塚君に告白しようと、思うの」
「・・・・・そう・・・」
淡々と話す。
「・・・本当はしないでおこうって、思ってたけど・・・不二君に言われたし・・・・」
「・・・・」
「其れに・・・自分の気持ち、素直に伝えたいんだ・・・」
あの時、手塚君は言ってくれたから。有りのままの気持ちを、率直に伝えてくれたから。
だから、今度は私が伝える番なんだと思う。に思っていた気持ちを話すと、は真剣な顔をしてたけど、ふ、と薄く笑った。
「そか・・・・が自分で決めたんなら、其れで良いんじゃない?ま、ガンバレ」
「うんっ!」
ひょいっと上半身を起き上がらせて、私を見る。
私はまた涙を流して、に抱きついた。
「・・・もう、子供なんだからさー、は」
「・・・うん・・・本当子どもだよ」
「よしよし」と私の頭を撫でて、は言う。そんな動作にまた涙した。「ひっく」と嗚咽を含む声を必死で押し殺す。
いつから、私はこんなに涙もろくなったんだろう。指で涙を拭うと、の方に顔を埋めた。
そして、今度は5時間目の終わりを知らせるチャイムが鳴った―――
しかし、思いを伝える・・・と言ってもどうやって言えば良いのだろう・・・・?元々内気な性格なため、何処か積極性に欠けるところが私にはあるのだ。
のような性格ならば、きっと直ぐに思いを打ち明けられるだろうが・・・私には其れすら一苦労だったりする。
しかも、手塚君はまだ私と不二君が付き合っていると思っている。其れなのに、別れた・・・なんて言ったら、軽蔑するんじゃないだろうか?
あーーー!やだやだ!!マイナス思考!!
ぶんぶんと頭を横に振る。色々な想いが交差する中、本鈴が鳴り、私は黙って席に着く。
まずは・・・呼び出さなければ何も始まらない。其処で最初の壁。さて、いつ呼び出すかが問題・・・。
手塚君は、テニス部の強豪テニス部部長。そうそう簡単に放課後に時間をあけられるのだろうか・・・?
其れに、一応私にも部活がある。なら、部活が終わったあと・・・・。
しかし、男テニは毎日遅くまで辛い練習をしている。私達女テニとは同じテニス部でも、全く違う。
・・・疲れているのに、悪いだろうか・・・・・?かといって、明日、という訳にもいかない。
明日になったら勇気が出ずに終わってしまいそうだ。・・・・・・其れでは、今までと一緒・・・。
(・・・そうか!!)
私はある事を思いついた。そして、せっせと白い何も書かれていないルーズリーフを、机の中から取り出すと其れにペンを走らせた。
「手塚君・・・」
小声で、手塚君の名前を呼ぶ。するとこっちに気づいた手塚君は「何だ?」と小声で返した。
私は手塚君に其の紙を渡すと、ジェスチャーで、見て と指を動かした。
困惑していた手塚君だったけど、静かに其の紙を表に向けて、書かれている文字を読む。すると、手塚君は其の紙を机に置いて、何か文字を書き始めた。
そして書き終えるとサっと私の机に黒板のほうに顔を向けた。私は裏返しにされている紙を、表向きにして目を落とす。
たった一言・・・。本当に一言だったけれど・・・とても嬉しくて手塚君を見て笑った。心なしか手塚君も私に微笑んでくれた気がした。
「・・・・・手塚君・・・さん・・・仲が良いのはわかったからきちんと教科書を見て!!」
そして、先生の言葉に、クラス中笑いが溢れた。私達はただただ顔を赤くして俯いた・・・・。
そんなこんなで、私と手塚君はクラス中の公認カップルとなってしまったのは、言うまでもない。
「手塚君、私不二君と別れたの。・・・・手塚君のことが好きだって、気づいたから。
自分勝手なのはわかってるけど・・・・付き合ってもらえませんか・・・・・」
「こちらこそ」
― Fin