予想外のプレゼント




・・・・・・・・・・・・・。
鳴らない携帯を手に、いつからにらめっこしているだろう。メールボックス開いたって待っているメールは全然来る気配なし。あたしからメール送ったの、いつだっけ?そう思って送信メールを見れば、一時間前だという事態に気づいた。

…。これは、無視なんだろうか。いや、多分無視ではなく相手は気づいてないだけだという事はわかっている。でも、携帯しない電話なんて携帯電話じゃないわけで、明らかにあっちが悪いわけだ。忙しいなら忙しいで構わない。でも一言くらいメールよこせよなコラー!ってなるわけだ。
…こんなの、アイツからのメール待ってたら今日が終わっちゃうよ。

カレンダーを見れば日付は今年最後の日。
しょうがない。此処は幼馴染の特権と言うことで…。
ふう、とため息をついてわたしはダウンコートを着ると、親にちょっと隣行ってくるー!と伝えて外に飛び出した。





ピンポーンと一応はチャイムを押してみる。それから直ぐにはいはい、と優しげなおっとりとした声が返ってきて、カチャリと玄関が開けられた。「こんばんは、おばさん。ごめん、こんな遅くに」とぺこりと頭を下げるとおばさんは嫌な顔せずにあたしを家の中へと上げてくれた。「…上?」とおばさんに合図すると縦に首が下ろされて肯定。
じゃ、ちょっと良いかな?ととりあえずおばさんに承諾を貰って、もう何度も行き来する階段を軽快に駆け上がった。

ドアの前で一つ深呼吸。それからヤツはノックをしないと怒るから、一応コンコンとノックして本人の承諾もなしにガチャリと開けた。

「くーにみーつくーん、あーそーぼー!」

そう言ってドアを開け広げれば国光が少し驚いたような表情をした後、またあの厳しい顔を戻して「…」とあたしの名前を呼んだ。その声が不機嫌そうな事も、そしてこれから言われるであろう言葉もあたしは勿論わかっていたけれど、それでもわからない振りをして「なあに?」と間延びしたように言うと、国光の眼鏡越しに見える瞳が一瞬細められ、はあ、と明らかに聞こえるようにため息を吐き出した。
ドアをパタリと閉めて、勉強中の国光の前に座り込む。机を挟んだ距離。机の上のちらりと確認すれば、携帯はないようだった。

「電話、したもん」

メールもしたもん。と国光が何か言う前に言いやれば、またため息一つ。言われる台詞はわかってる

「今年は、受験生だろう。遊んでも居られないんじゃないか?」

ほらね。心の中で呟いて。どこまでも堅物な幼馴染の台詞に眉間に皺がよるのが分かった(これじゃあ国光とおそろいになっちゃうじゃん)既にテキストを見つめる瞳に、嫉妬して。「大丈夫だもん」とふてくされた声を一つ。

「今日くらい、ちょっとくらい一緒に居てくれても良いじゃん」

勉強勉強って、先生や親みたいな事。
そりゃあ国光が真面目なの知ってる。けど、でも今年は…。

「今年が、最後かもしれないんだよ」

そう言ったら、英語の参考書から目を外して、国光があたしを見た。まっすぐなまなざしを一身に受けて、居心地が悪くて一度身を堅くしてしまったけれども、ぐっと自分の拳を握り締めて、きっと睨みつける。

「だって、もうお隣さんじゃなくなっちゃうもん。今年が、最後なんだよ。受験合格したら、大学別々で…」

気を強くして言った言葉は、だんだんと小さくなっていくのがわかった。意気地なし。弱虫。泣きそうになってる事に気づいて、あたしはついに俯いた。国光のお隣さんとして生まれて、18年。来年は受験で北海道に行く。それはあたしの夢の為。勿論、受験にすべってしまったら、そのまま上に上がるつもりだけれども、落ちる気なんて、毛頭ない。そうすると、必然的に、此処を離れる事になるのだ。

「……高校最後の年くらい、相手してくれたって良いじゃない」

国光のバカ。って愚痴ってやった。沈黙が流れる。気まずくて顔が上げられないままだったけれど、ちゃんと国光には聞こえただろう。
暫くの沈黙の後、国光の方からカシャ、って音がして、机に視線を向ければ今まで国光の手の中にあったはずのシャーペンが置かれていた。

「なんで、決め付けるんだ」

それから聞こえたのは低い声。中学校の頃に声変わりしてからずっと聞いてきた声だ。

「俺はと離れるつもりは無い」

言われた言葉にパッと顔を上げると、射るような瞳とかち合った。でも、国光の言葉の意味を考えると、それはあたしが受験にすべると言ってるのと同じだ。カッとなって立ち上がって文句一つは言ってやらなければ!と口を開いた。

「お前は、受験に合格したらもう俺は必要ないのか?」

けれども、あたしが何か言う前に、国光の方が先に言葉を紡いでしまうから、そしてその言葉があたしの脳みそをショートさせるには十分すぎるほどの威力を持っていたから、すぐに言葉が出てこなかった。

「俺はお前が北海道に行ってしまっても、もう会えないだなんて思った事は無い」
「くに」
「たとえ離れてしまってもこれからもの隣にいるのは俺でありたいと思う」

そんな言葉、反則だよ。つぶれる声で言ってしまったのは、いつの間にか勝手に出てきてしまった涙の所為だ。
だって、そんなの…まるで、プロポーズみたいだ。でもそんなの絶対有り得ない。だってあたし達は、付き合ってもない、ただの幼馴染で。国光にとってはただのお隣さんのポジションだと思ってた、のに。



違う違うと否定してるのに、あたしを呼ぶ声があまりにも優しくて、勘違いしそうになる。
そんなの、国光が困るでしょう。

「そんな、こと…言われたら、あたし、バカだから…勘違いしちゃう、よ」

頑張ってはじき出した言葉に、国光が立ち上がるのがわかった。
それから、そっと抱き寄せられる。「勘違いじゃない」…ほんと、今日の国光はおかしいよ。

「…それって、あたしの事好きだって言ってるような、ものだ、よ」
「そのつもりだ」
「家族愛、とかじゃないんだからね?」
「わかってる」

淡々と聞こえる声が、そして耳に届く鼓動が余りにも優しくて。

「だから、今日で最後とか言うのは寄せ」

ぎゅ、っと後頭部を寄せられて、背中に回ったがっしりとした腕が、現実味を帯びていて。

「でも、最後じゃなくてもあたしは今日を国光と過ごしたいよ…っ」

そう言ったら、しょうがないなって、ため息交じりの苦笑が聞こえてきた。

2008年12月31日…ついに、あたしと国光は恋人同士になった。





― Fin





あとがき>>大晦日SS2弾。訳の分からない作品ですみません。久しぶりに意気込んで書いたら案の定偽者になっちまいましたよ。ヒロインが北海道に行くのはアレです。ただあたしが行ってみたいからです(…)
2008/12/31