ウサギは寂しいとしんじゃうの
わかってるつもりだった。
あいつの一番はテニスなんだって事。
ちゃんと、理解してるつもりだった。
だけど、ほんとうに「つもり」で、ちっとも理解なんて出来てなかったんだ。
「ごめん、わりー、すんません。何度も聞いた!聞きあきた!」
「んだよ、じゃあ申し訳ありませんっていやー良いのかよ?」
「そういう問題じゃない!馬鹿っ」
誠意が伝わってこない言葉なんて、無意味だ。ただ、並べただけのセリフなんてイラナイ。
なのに、目の前の彼氏はそんなことどうでも良いって言うような感じで。だから、余計に苛立ちが強くなるんだ。
「ガミガミガミガミうるせーな。しょうがねーだろ?テニスなんだから」
たかだかデートがキャンセルになったくらい。
ブツブツと自分は悪くないと自己主張。
でも、たかだか、なんてセリフで済ませてほしくない。
だって、わたしはこの日をずーっと心待ちにしていたんだ。
それなのに、デート前日になって突然のキャンセル。
…だって、デート、一か月振りなんだよ。それなのに
「テニスしてる俺が好きなんだろ?そう言ったのだろ?」
「言った、けど」
「ならいつまでも文句言ってんなよ」
はあ、と大きなため息に、なんだか泣きそうになってくる。
確かに、テニスをしている赤也が好きだ。惚れこんでる。でも。
付き合えたら、少しでも二人で居たいって、思うものでしょう?
「ウサギは寂しいとしんじゃうの」
「…何、急に?」
「あんまりほっときすぎると、ウサギはさびしいと死んじゃうんだって!」
突然のセリフに、きょとんとした赤也の顔が視界に映った。
「っ…わ、わたしだって、淋しすぎるとしんじゃうよ!」
普段なら絶対言わない恥ずかしいセリフを大声で訴える。多分、冷静になったらお前何言ってんだって自分で自分を叱咤すると思う。
だけど、今はそんなこと考えてられるほど冷静ではいられなくって。
頭半個分高い赤也を見上げて睨みつける目は、ちょっとだけ潤んでた(こんなことで泣きそうになるんだから自分もまだまだ子供だ)
数秒のにらみ合いが続いて、そして、赤也の顔がくしゃっと崩れた。
「ブッ、お前!ウサギって!草食動物じゃんよ!はどう考えたって、肉食動物だろーよ!」
!!!
だはは!と爆笑しだす恋人を、これほどまで憎いと思ったこと、あっただろうか。
ぷるぷると無意識に握りしめたこぶしが震える。こんな体験、自分がするとは思わなかった。
げらげらと声を隠すことなく笑続ける赤也を見つめ、わたしは静かに瞳を閉じて息を吐き出した。そして、
「こんの…っっ…ばかやーーーーーーーーっ!!」
この日初めて彼氏を殴りました。
お題:「ウサギは寂しいとしんじゃうの」
Seventh Heavenさまより