絶対に一回しか言わないからな…スキだ
今の時代、結構ちゃらちゃらした男が多い中で、わたしの彼氏は多分、いまどき珍しいくらいの恋愛に関してはシャイな男子だと、思う。
普段の彼はクールに見えて実は凄く熱い。好きな事には凄い努力家で、男らしい。
「好き」とか「愛してる」とか軽々しく言わないそういうところも好きだった。
でも、やっぱりたまにで良いから「好き」とか「愛してる」とかささやいてみてほしいと思うのも乙女心というもので。
「素敵だったね、さすが忍足のチョイス」
二人きりの、彼氏の部屋。ロマンチックなラブロマンスなDVDを見終わった直後、わたしは思いきって話題を振ってみた。
隣に腰かけている彼氏である―――亮を見つめると、いささか楽しくなかったようである。
まあ、亮にラブロマンス見ろって言う方が酷な話か。
これを貸してくれた男友達である忍足を思い浮かべて、はあ、とため息をついた。
「…こんなん見て、楽しいか?」
まったくもって理解出来ないと言った風なセリフが返ってきて、心の中で苦笑。
ふあーあ、と欠伸のおまけつきだ。相当暇だったようだ。
「女の子は、恋愛物に弱いものですよ?」
DVDをレコーダーから取り出して、またわたしは亮の隣に腰かける。ポスン、と小さな音を立ててソファーが軋んだ。
それから亮を見つめれば、「そういうもんかね」とどうでも良いようす。
「でも、こんなんをあの忍足が見てると思うとこれからの交友を考えざるえねーな」
「うわ、人権侵害」
言ってはみたものの、確かにこれを忍足が見てると思うと、笑ってしまう。
あの、男が恋愛のなんたるかを語るかと思うと、…ちょっと面白い。
でも今はそんなことどうでも良い。今は、この映画を貸してくれた忍足に感謝こそすれ、笑い者にする気はないのだ。
「でも、一度はさあ、これだけ熱烈な愛の言葉をもらってみたいものだよ」
「へえ」
「……そういえば、亮からはそういう言葉、もらったこと、ないなぁ」
わざとらしかったかな。ちらりと亮を盗み見る。そうすれば、バッチリ目があって、それからすいっと逸らされてしまった。「そんなん、今更だろ」そっけなく返されてしまう。
いや、たしかに今更なんだけど…好きだとか愛してるだとか、軽々しく言う人は好きじゃない。だけど、たまには、そういう言葉がほしくなってしまうものだ。
「でも、言葉にしてくれないと、…時々は不安だよ」
「…俺は、好きでも無い奴と付き合うほど器用じゃねーよ」
そっぽを向いたままのセリフに、でも負けじとわたしは食ってかかった。
「そんなんじゃ、わかんない。遠まわし過ぎて、全然亮の気持ちわかんないよっ」
ぐっと身体を前のめりにさせて、亮の顔を覗き見ると、予想以上に顔が近くなる。
あまり、至近距離で見つめ合うのは、恥ずかしくて苦手だ。けども、ここで引き下がってしまったら、ほんと、一生亮から「好きだ」なんて告白してもらえない気がする。
告白したのはわたしだ。「付き合ってほしい」と。「ずっと好きだった」と。その時の返事はもちろんOKではあったけれど、実際「好きだ」と言われたわけではなかった。
亮の気持ちが信じられないわけではない。亮の言い分は良く分かってる。
なんとも思ってない人と、軽いノリで付き合っちゃえー!的な男子ではないことも理解してる。
だけど、やっぱり女の子だもん。そういう言葉、ほしいよ。
「……好かれてるのか、自信なくなっちゃうとき、あるんだよ」
淋しげにそう呟くと、亮の眉が寄るのがわかった。それから、ぐいっと肩を押されて、距離が離れる。亮を見つめると、やっぱりその顔はそっぽを向いていて、視線が交わることがなかった。それから、はあ。っておっきなため息。
そして、一度だけ、ほんとにちょっとだけわたしの方を亮が見て、
「…耳の穴、かっぽじって良く聞けよ」
「…うん」
「絶対に一回しか言わないからな…」
「うん」
ドキドキ、と鼓動がありえないくらいおっきくなる。
すう、と亮の息を吸う音が聞こえて、それさえもスパイスだ。
「…スキだ」
………、破壊力はすさまじかった。
普段そういうこと言わない人だからこそ、きっとこんなにドキドキするんだ。
亮の顔はありえないくらい真っ赤に染まっていて、それが真剣に言ってくれた単語だってことがよくわかる。
じんわりと、わたしの心が暖かくなる。
「も、もういっかい!」
「ば、馬鹿か!もう言えるか!こんな恥ずかしいセリフ!つかこっち見てニヤニヤすんな!」
「ひ、ひどぉい!いとしい彼女に向かってニヤニヤだなんて!にこにこって言ってよっ」
「おい!こら、じ、じろじろみんな!」
クールで一見偉そうで。どこか怖いイメージの彼。
だけど、実際はそこらの男の子と変わらない…ううんそれよりもっと純粋な彼。
そんなシャイな彼氏が、大好きです!
「亮!大好きだよっ!」
「…………。知ってるっつーの」
お題:「絶対に一回しか言わないからな…スキだ」
Seventh Heavenさまより