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いたいのいたいのとんでいけ




「うううっ、きっと…あ、アタシは、神様に見放されてるんだわっ…きっと、この先誰とも付き合うことなく生涯を終えるのよ。死ぬ直前に、彼氏との甘酸っぱい想い出も思い返すことなく一人死んでいくのよぉぉ…っ」
「…、悲観的すぎだよ。たかが一回の失恋だろ?まだまだこれからなんだから、14歳で一生を決めるのは良くないよ」
「そ、そんなことゆっちゃって、こ、コジは失恋したことなんかないくせにぃぃっ」」

ぐずぐずとハンカチで涙を拭いても、とめどなく涙があふれ出る。
勇気づけてくれるコジ…もとい、佐伯虎次郎の優しさはありがたかったけど、でもそんなコジは、この学校ではプリンスと呼ばれ女子に人気の人なのだ。
たかだか14年で、モテ期を堪能してる人に言われたって、嫌味にしか聞こえない!

「う、うわーーーんっ!どうしよう!ずぅっと独身だったらどおすればいいの!アタシ、将来の夢は可愛いお嫁さん☆だよっ!?どうすんのこの夢!」

涙でしおれたハンカチをぐしゃりと握りしめて、隣に座るコジを睨みつけると、コジはううん、とちょっと困ったように眉をひそめた。
それから、ふわりと笑って

「大丈夫だよ。はこんなに良い子なんだから。…彼氏が出来ないハズがないよ」
「何を根拠に!」
「周りの男が見る目ないだけだって」
「だから、何を根拠に!」

キラリと光る笑顔が憎らしい。これが噂のプリンススマイルだ(そのまま)
この笑顔にハートをぶち抜かれた乙女は星の数。そして見事想いを打ち砕かれた乙女も星の数。
コジに初めて会ったころ、見事あたしも撃ち抜かれた(そして、見事散ってった)
コジに恋してた時ほどときめきは無いにしろ、それでもやっぱりちょっとドキっとしてしまう色気がある笑顔だ。

「てゆうか、一回じゃないもん!前にも一回失恋してるし!」
「え?それ俺知らないよ?」
「……」

あんたにだよ。とはさすがに言えなかった。
失恋、と言っても直接的にコジにフラれたわけじゃないけれど。
噂と言うものでコジの理想の女の子を聞いたことがある。その時に、ああ、自分じゃ駄目だと早々にあきらめて、それなら友達に…とシフトチェンジしたのだ。傷口が浅い前に、逃げたと言っても良い。
だから、コジはあたしがコジに片想いしていたことなんて知るわけがないから、今回の失恋が初めてだと思っていて当然なのだ。

「…ううわーーーっ!もうなんか色々思い返したらへこんだ!うぅっ、あたしのモテ期はいつですか!人生一度はやってくるって言うけど、本当に来るのか謎なんですがっ!」
「…そんなヤケにならないで」
「コジは良いですよ!女の子よりどりみどりですから!うわーん!なんかもうモテる奴はみんな敵だよっ!心臓がマジ痛い!もう痛すぎて恋する気が無くなってくるよーっ」

「もう、恋するのやめようかな」言って、あたしは背中を丸めて縮こまった。顔を伏せると今日の失恋シーンが今にも鮮明に思い出される。
凄く、本当に、ショックだ。
すると、そっとあたしの背中をさする、手。静かに顔をあげると、コジの優しい笑顔があって

「そんなに悲しまないで。ほら。いたいのいたいのとんでいけ」
「……馬鹿にしてる?」
「いいや。ほら、子どものころ怪我したときそう言われて痛くなくなったことない?」
「…つまりは子供扱いしてますか」

なんて、憎まれ口を叩いてみたけれど、背中をさする手が暖かくて、やさしくて。本当にちょっとだけ安心してしまった。子どもみたいに単純だって事なんだろう。
うう、と顔をまた伏せる。そうすれば、コジが「ちょっとは落ち着いた?」なんてまた優しい言葉をかけてくれるから、別の意味で泣きそうになった。

「…ちょっとは、ね」
「良かった」

ふうわりと笑う仕草が、あまりにも綺麗で見とれてしまう。そうして、気づいた。
ん?見とれる?ちょっと待ってよ。あたし今失恋したばっかりだよ。しかも、相手は前好きだったコジですよ。何ときめいちゃってんだ!
さっき恋する気失せるとか言ってたくせに、なんてザマだ。でも、ドキドキする気持ちは止まらない。
顔が、心なしか熱くなった。見られたくなくて、ふっと顔を逸らすと、フッてコジが笑う気配がした。

「ねえ、知ってる?」
「何、を?」
「失恋の痛手は、新しい恋だよ。言っちゃ悪いけどあんな奴にはもったいないよ。には悪いけどうまくいかなくって良かったって思ってるんだ」

それって、一体どういう意味、なんだろうか。顔が赤いままなのが気にかかったけれど、コジの言葉の方が更に上を言ったもんだから、あたしは恐る恐るコジを見た。そうすれば、やっぱり笑顔の彼。
でもさっきの優しい笑顔とは違って、ちょっと幼い感じのそれ。

「せっかく目の前に新しい恋があるんだから、もう恋なんてしないなんて言うなよ?」
「え、ちょ…コジ、それって」
「…俺はが好きってこと」

だから、あんまり他の男に目を向けないでほしいな。そう言ったコジの顔が、ほんのちょっぴり赤い気がした。



 

お題:「いたいのいたいのとんでいけ」
Seventh Heavenさまより

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