…悪趣味
「ひどい!女の子相手に!」
「…手加減なしの真剣勝負だって言ったのどっちッスか」
「だからって!気付かれない程度に力抜くのが紳士ってもんでしょーが!」
「中一に紳士を求めないでください。てゆうか、どうやって力抜くんスか」
「大石君は中一の時からあんな感じだよ!」
ブツブツ文句を言いながら、は「金欠なのにぃぃ」なんて言いながら、財布を取り出した。
財布を取り出したまでは良いけれど、まだ希望は捨てきれないらしい。
うらみがましく、もう一度リョーマの方を見つめて「ねえ」と小さくポツリ。
「オゴらないッスよ」
「………………ケチ」
バッサリと言い渡され、は小さく唇を尖らして見せる。
「ケチって言われても…負けた方がオゴるって話し持ちかけたの、先輩じゃないッスか」
「だって…勝てると思ったんだもん」
財布の角を撫でながら、は子どものような言い訳を繰り返す。
その姿は、二個も年上だとは思えないようだ、なんてリョーマは心の中で思った。
「ともかく、早く買って来てくださいよ。ほら、ダッシュ」
「先輩を先輩だと思ってないね、君!絶対あたしの事敬ってないよね!むきー!」
「何莫迦なこと言ってんスか。ほら、興奮すると更に暑く感じるから。アイス早く買ってください」
そう言ってリョーマはの背中をポンっと軽く押して先を促す。
いい加減、コンビニの中でこういう押し問答は恥ずかしくなってくる。アイスコーナーの前で、だ。
そうすれば、ようやくも落ち着き始めたのか、はたまた本気で暑さに勝てなくなったのか、レジへと歩き出す。
自分が食べる分と後輩が食べる分を持って、だ。
「…しょーがないなぁ」
「……先輩」
「なによ」
「ありがと」
どうせ「当たり前」だとか言われたとしても「サンキュ」程度だと思っていたのに、あまりに素直な言葉と、その声には振り返った。
そうすれば、いつもの澄ました顔じゃなく、あるのは少年らしい笑顔。
いくらいつもは生意気な後輩だとしても、やっぱりそういう可愛らしい一面を見てしまうと
「……どーいたしまして」
ああ、やっぱ素敵だなーとか思ってしまうだった。
★★★
「…今度は絶対負けないんだから」
恨みこもったような声に、リョーマはを見つめた。
コンビニでアイスを買って、今は近くのベンチに腰掛けている。
ぺろり、とコーンのアイスを食べながら、リョーマはふう、とため息を漏らした。
「まだやるんスか?どうせまた先輩負けますよ。いい加減認めたらどうッスか。じゃんけん弱いって」
「くぅ!むかつく!やっぱり返せ!」
「何言ってんスか。しかももう食べちゃったし」
「途中でも良いから返せーー!」
「何?先輩そんなに俺と間接キスしたいの?」
「…へっ?」
「なんなら間接じゃなくって、直接してみる?」
「………ちょ、え、ちぜん?」
先ほどよりも顔が近くなっている気がする。
の顔に暗い影が出来て、
「……プッ、顔真っ赤」
「〜〜〜〜〜〜!!先輩からかうなーーーっ!」
「てか、先輩。アイス下に落ちてるんですけど」
「いやーーーー!まだちょっとしか食べてないのに!」
「俺の食べる?」
「……っ!!いらないっ!」
「…プッ」
「…悪趣味」
お題:「…悪趣味」
Seventh Heavenさまより