ママレード×マスタード




あたしの親と、周助の親が同居をすることになって早い事で一週間あまりが経った。安息の地だったハズのあたしの居場所は今やない。楽しかった高校生活は、お互いの親同士子ども同士が同居するにあたり、新居からは通えなくなってしまったので、あたしは青春学園に編入となったのだ。グッバイあたしの青春。唯一の救いは、念願だったお姉ちゃんが出来たことくらい、だ(しかも美人)

そうして、あたしが転校してから、わかった事がひとつ、ある。

周助は学校では凄く、そりゃもう凄く、モテている。と言う事。
何の因果か、クラスまで一緒になってしまった日にはもうどうしようかとか色々考えたのだが、一緒に暮らしている周助と学校での周助は、余りにも…違いすぎた。
あたしに対しての周助は、凄く、凄くすごぉく底意地が悪いのに学校での周助はとても、(特に)女の子には優しい。かと言って、男の子をないがしろにしているわけではないので男子からのやっかみなどはないようだった。クラスのムードメーカーとは違うが、良い具合にクラスに溶け込んでいるように思う。
クラスメイトと喋る周助はとにかく笑顔の多い男だ。いや、これじゃあ語弊がある。
あたしと一緒に居るときも笑顔だ。けれど、なんていうのか…クラスのみんなに見せている笑顔と言うのは、人当たりの良い笑顔。優しさあふれる笑顔、と言うべきか。そんな感じなのだけれど、あたしに対する笑顔は、どこか意地悪だ。
あの半分…いや三分の一で良い。その優しさを何故あたしにもくれないのかと、常々思う。
本当なら、「その笑顔は偽物だ!」と声を大にして叫んでやりたい。だけれどもあたしと周助が一緒に生活していると言うのは、内緒なのだ。
一応、転校初日に「親同士がちょっとした知り合い」とクラスの子には説明しておいた(その方が、後が楽なのだと言う事を知っているからだ)だって、なんだって一緒に住む必要があるの?…どう見ても、非常識である。そう思うから、あたしと周助が一緒に住んでいる事は、周りには一切他言無用なのだ。

『僕は別にかまわないけど?』

そう言ってた周助の顔は本当に意地の悪い笑顔で、それでも本気であたしが嫌がって見せると、言わない事を納得してくれた。…多分、全部が全部悪い奴ではないとは、思う。だけど、素直に優しくないのだ!


「…早く食べないと、遅刻しちゃうよ?」
「…わかってるもん」

周助の声かけに、あたしはハっと気付いて、小さな声で呟くと、焼きたてのトーストを手に取った。ちらりと向かい側に座る周助を見つめると、周助はもう食べ終わったのか、食後の紅茶を飲んでいる。これじゃあほんとに遅刻してしまう。あたしはまたトーストに視線を移して、それから、ジャムを塗ろうと辺りを見渡した。

「あ、ねえ周助。そっちに苺ジャムあるはずだから、取って」

そう声をかけると、周助は新聞から視線を外し、ジャムが置いてある方に視線をよこして、それから一つ瓶を掴むと、「これしかないみたいだけど」と手に持っていたそれをあたしに差し出した。印字を目で追いかけて

「えええ、ママレードォ?…あんまり好きじゃない」
「ぜいたく言わないの。しょうがないでしょ、ないんだから」
「だって、苦いんだもん、皮のとこ!」

そうまで言って、あたしはハッと黙りこんで、考える。
すると、周助はあたしをじっと見て、「?」とあたしの名前を呼んだのだけれど、あたしはそれにこたえず、ぽつりと、呟いた。

「周助って……ママレードに似てる」

ぽつりと独り言のように言ったのだけれど、それはきっちり周助にも届いたようだった。もう一度紅茶に口づけようとしていた周助はその動きを止め、「はあ?」と呆れた声を出してあたしを見た。その顔は珍しく、驚いた様子。そんな周助に、あたしはにっと笑って

「似てるよお!ほんとはすっごくすっごく苦いとこあるのに、みんなうわべの甘さに騙されて気付いてないの!」

この場合の苦いとこ、ていうのは意地悪なところの事だ。みんなうわべの優しさや容姿等に騙されすぎているのだ。
確かに、あたしも初めて見た時に不覚にもときめいてしまったが、だけれど性格(ママレード)に問題ありだ。それなのに、それさえも見つくろって良い具合に誤魔化している。

「ママレードボーイ!ねっ、ぴったりでしょ?」

我ながら良いたとえだと思う。うんうん、と頷きながらママレードジャムを見てほくそ笑んでいると、周助は何が良いたとえなんだと呆れたようにふうん…と呟いてから、「それなら」と次の瞬間にはまた笑顔に戻って、ずいっとあたしの目の前に何かをつきだした。

「じゃあはこれだね。ピリピリ辛いばっかの、マスタードガール」

…………

時が、止まった。
周助はいつもの意地の悪い笑顔をあたしに向け、ニコニコニコニコと笑っている。その顔と目の前に突き出されたそれを見比べて、頭の中で考える。

ピリピリ、辛いばっかりの、マスタードガール?………ピリピリ?

「ちょっ、周助!」
「さ、学校行こうかな」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、周助!あたしのどこがマスタードなのよっ!」
「そういうところ、じゃない?」

にっこりと笑った奴の顔は、やっぱり、天使の顔した悪魔の笑顔、だった。










2009/12/19
大好きな朝の一コマ(笑)ぱっとアニメを見た時に、周助っぽい!って思った(笑)