彼氏×彼女←年下少年




、入るよ!」

突然開けられたドアから見えたのは、周助の怒った、顔。唖然と周助を見つめると、周助はそんなの関係ないとばかりにずかずかと部屋へとはいってきた。そこではっと気づいて、「の、ノックくらいしてよ」とあたしは弱弱しく抗議して、でも強く言いだせないのは、先日の赤也君との出来事があるから、だ。あれからちょっと周助と気まずい関係になっていて。

話があるんだ」

冷たい声に、あたしはビクリとする。それが真剣な話なのだということは、嫌でもわかった。あたしは周助の言葉に、恐る恐る「なに?」と問いかける。その声はあまりにもかすれていたけれど、多分周助には届いたと思う。周助は一切あたしを見ないまま、「あれ、どうしたの」とやっぱり冷たい声のまま一言。『アレ』と言われて、とっさに出てこない。あ、あれって?また弱々しく尋ねると周助はいつもの笑顔はどこ行ったのか、というくらい苛立たしい声色で「アレだよ、僕とが交換した、アレ」そう言われて、はっと思い出すのは―――学校で支給されるという、伝説のメダイユ。

「あ、…あれは」

ずっと言い出しにくくなってた、事。あたしはぎゅっと手を握って、俯く。言おう、言わなきゃ、ってずっと思いながらもなかなか言えなかった、事。だって、あれはとっても大切なものだ。あたしと周助が付き合うことになって、交換した、大切な―――あたしの宝物。

「実は…その、…バイト先で、落としたらしくて…探したんだけど………見つからなくって………」

そんな大事なもの、なんでなくすんだって怒られるのが、怖かった。
だけど、いつまでも言わないままにはしておけないし、これ以上隠し事出来ない。嘘をついてまで、隠していたくない。

「……ごめん、…なくしちゃったんだ」

その声は、あたしの広くはない部屋に、こだました。シンと静まり返った部屋に、時計の針の音だけが響く。周助はどういうだろう。なんて軽率な、とかここまで馬鹿だったか、とかあきれるだろうか。そう思うと周助の顔を見ることができなくて、ただただ、黙り込む。すると、一呼吸置いて、大きな、溜息。

「なんで、それを早く言わないの」

あきれたような声が聞こえて、でも先ほどまでの冷たさはなかった。
けれど、あたしの心は浮上出来るはずもなく、ただただ、膝の上に置かれた手の見つめる。罪悪感で、いっぱいになる。

「だって、あんな…大事なもの、無くしたなんていったら、いくら周助でも怒るでしょう?…だから、言えなかった」

でも、だからと言って、肌身離さず置いておきたかった。あれは周助に貰った大切なものでもあったし、あたしたちの絆、でもあったから、無造作に置いておきたくはなかったんだ。ぎゅっと、強く手を握る。

「黙ってて、ごめん。無くしちゃって…ゴメンナサイ」

ぽつり、とした謝罪を唇に乗せる。その事実が、痛い。すると、周助はまた溜息をついて、「無くしてないよ」なんて、言った。そこでようやくあたしの頭はあがり、周助を見つめる。周助はやっぱりあたしを見てはいなかった。横を向いたまま、視線が合わないままあたしに向かって言葉を投げかける。

「無くしてないんかないんだよ。あいつ……切原が持ってた」
「えっ、赤也君が!?」

その事実に、あたしは驚いた。だって、落とした次の日、あたしはきちんと赤也君にも訪ねたのだ。

「だ、だって赤也君あたしには知らないって!」

そう、確かに彼はそういった。わかりにくい説明だったのかもしれない。けれど、大体の特徴を言ったのだ。金色の丸い小さい写真入れだって。なんで、どうして。その疑問ばかりがあたしの頭に浮かんでくる。

「本当だよ。さっき見せられたんだから」

周助の言葉が、また降ってきた。顔を見ると、やっぱり周助は怒っていて。

が、もういらないから捨ててくれって言ったって。もう必要ないからって。がもう対して僕の事好きじゃないって言ってたって」
「う、嘘だよ!!そんなこと、あたし言ってない!」

だって、あれは本当に大事なものだもん。あたしの、宝物なんだもん。なんで赤也君がそんなことを言ったのか、わからない。だけど、そんなこと、冗談にしては悪趣味すぎる。彼はちょっと生意気なところがあるけれど、今回はそんなの、嘘でも許せない。「わかってるよ。そんなこと」周助の声がちょっとやわらかくなった。けれど、そんなのあたしはかまっていられなくって、ただただ、可愛いと思っていた年下の少年のことばかりが頭にあった。最初は、どうなるかと思っていたけれど、最近ではよく話をするし、多分、嫌われてはいないと思っていた、のに。

「なんで、赤也君、そんな嘘…」

ただ、ただ悲しかった。嘘をつかれたことが。可愛い弟分がそんなことをしたってことが。
ぽつりと呟いた台詞に、周助の声色がまた変わる。

「決まってるでしょ。あいつ、のことが好きなんでしょ」
「えっ!そんな…あるわけないよ!だってあたし…赤也君より1コ年上、だし」
「だから対象外?…そんなの関係ないでしょ。年上ったって、精神面じゃ同じようなものなんだし」
「なっ…そ、そんな言い方って」

確かに、あたしは大人っぽいだとか、頼りになるだとか、そんなイメージはないかもしれない。それに自分でも子供だなーって思うこと、たくさんある。だけど、だけどそんな言い方しなくなって、良いのに。カチンときて、あたしはきっと周助をにらみつける。けれどもそれよりも周助の鋭いまなざしがあたしを見据えて

「誰でも彼でも無防備すぎるんじゃない?変な男に気に入られて、へらへらしてたんだろ!どうせ!」
「な、へらへらって!何よ、それ!」

信用されてないことが、悲しかったし悔しい。

「だ、大体自分はどうなのよ!自分だって、クラスの子たちにへらへら笑って愛想ふりまいて!不二くんかっこいい!とか言われてちやほやされて!じ、自分こそ、良い気になってるくせに!!」

違うのに。本当に言いたいことはそんなことじゃないのに。でも、言われたまま黙ってることなんて出来なくて、ああ、ほんと精神年齢低いのかもしれない。頭の中で思うのに、それをとどめることは出来なくて。

「何それ…、そんな風に思ってたの?」
「自分だって今そう言ったじゃない!」
「………わかった。そんなに僕が信用できないなら」

そう言って、投げつけられる、それ。え、っとそれに視線をよこすと、目に映る、金色の―――数カ月前までは、あたしの手元にあった、それ。

「…これ、あたしの…メダイユ」
「返すよ」

え。衝撃的な一言に顔をあげて周助を見ると、周助はあたしではなくあたしの持っているメダイユを見て、「…なんかそれを交換してから、お互い縛られてるみたいで嫌なんだ」そう言った。がらがらと、何かが崩れていく。あたしはこれを、絆だと思っていた。宝物だと思っていた、のに。周助にとってはただの重荷だった。それが、つらくて、悲しい。

「……まるで、それで僕はを縛ってるみたいで」

周助が、ぽつりと呟いたけれど、そんなの耳に入らない。ぽたぽたと涙がこぼれおちる。

「―――か、」

口の中で、小さくこぼす、台詞。一度出ると、止められなくて。周助が、え?っと聞き返した瞬間、それは堰を切ってあふれ出した。

「ばかっ!あ、あたしは、大切だったのに!でも周助は違うんだね!それならもう良い!付き合ってくれなくったっていい!周助なんか、別のコと付き合っちゃえば良いじゃない!お守してくれなくったって結構!短い付き合いでしたありがとうございました!!」

言い終わるか終わらないかってところであたしは自分のベッドから立ち上がると、周助の胸を思いっきり押し出す。「ちょ」とか周助がなんか言ったけど、あたしはそのままばしばしと周助をたたいて、部屋を押し出した。

「出てって!もう出てって!!」

ドン!と最後に力いっぱい渾身の力で押し出して、あたしは扉を閉めた。



「…勝手にしなよ」



そうドア越しに周助の言葉を聞いて、あたしはやっぱり涙があふれ出て止まらない。
そのままドアの前で座り込み、嗚咽を押し殺して泣いた。










2009/12/23
ブログでupした作品。これもとあるヒトコマ(ちょっと違ってますけどね)