2012.04.01

ラブ・ユー 白石蔵ノ助

蔵とは小学校、中学校が一緒。家もご近所さん。故にいつも一緒にいるのがなんだか当たり前になっていた。蔵は女系家庭にいるせいか、妙に女の子の扱いが上手だったし、何より小学校も高学年になれば、男女でつるむなんて恥ずかしいとか絶対茶化されたりして、それが原因で疎遠になったりするだろうに、蔵とはそんなことなかった。
「だって俺ら仲良しやもん。羨ましいやろー?」
笑顔が眩しかった。それから時折はからかわれることもあったけれど、それに対しても蔵は綺麗に流していたから、きっとこうして一緒にいれるんだと思う。いつしか、あたしの隣には蔵。蔵と言えばあたし。みたいな図式が完成していた。最初こそ妬みみたいなものもあったけれど、今では公認、だと思う。けれども、あたしらの付き合いは幼馴染のそれであって、甘酸っぱい青春の一ページみたいな事は無かった。
あたしは蔵の事をいつしか異性として好きになっていた、けれども。蔵があたしの事、妹みたいな風に思っている事は知っていたけれど、それでも一緒に居られれば良かった。幼馴染ポジションは、傍にいるには単純な理由となりえたから、だ。友達以上、家族以上、恋人未満。そんな関係をずっと続けていたあたし達に転機が訪れたのは、それから数カ月が経ってからだ。



「あんな、。お前好きな奴でけへんの?」
突然の質問に、あたしは唖然としてしまった。蔵、どうしたん?一呼吸おいて質問に質問を返すと、蔵はああ、いや…と言いながら後ろ頭を掻いた。言いにくい。と顔にしっかり書かれている。じっと蔵の返答を待っていると、その目とかち合って
「いやな。なんや…俺ら当たり前のようにずっと一緒おるやんか。せやけど、まあ…世間様では中学にもなったら彼氏やなんや色めいた話が飛び交いますやん。でもからそういう話聞いたことあらへんなあ思て」
単なる好奇心や。
たははと笑う蔵に、まさかあたしの好きな人はアンタや。と言えるはずもない。ハハ、と曖昧に笑うと「そういう蔵はどうなん?おるん?」今まで避けてきた話題を口にした。そうすれば蔵は一瞬きょとんとした顔を作って、……また言いづらそうに頭を掻いた。いつもスマートで余裕綽綽な蔵にはあるまじき行為だ。
あー。
また濁した声が聞こえてきて、続いて咳払い。
ちゃうねん。
何がちゃうん?
尋ねる声は落ち着いてた(と思う)が、内心は心臓が張り裂けそうなくらいドキドキしていた。見上げた蔵の横顔が、ほんのり赤い。これだけで、好きな人がいる事は明確だった。ズキン、と胸が痛む。それから、蔵が口許に手をやって
「すまん、ズルイ言い方したわ」
「は?」
「ちゃうねん。……その、あの…な。………俺が、を好きやからの好きな奴っちゅーんが気になっただけやねん」
その顔は今や真っ赤に染まっており。まさか嘘をついている風には到底見えなかった。もしこれが嘘であるならばとんだ役者だ。今すぐテニスから演劇に転向した方が良い。って、そんなこと冷静に考えてる場合ではない。ちらりと蔵の双眸があたしを捉えた瞬間、まるで伝染したかのようにあたしの顔も熱くなった。「顔、真っ赤やで」突っ込まれたのが癪だったから「蔵のが移ったんやって」とそっぽを向いた。さよか。呟きにも似た小さな声があたしの聴覚を刺激したけれど、そんなのどうだっていい。今やパンクしそうな程胸がドキドキしていて、破裂しちゃうんじゃないかと思ってしまう程。
「………で、……どうなん?」
「……………や」
「は?」
決死の台詞はあまりにも小さすぎて聞こえなかったらしい。これ以上ドキドキさせないでくれと心中で叫んで、あたしは両手を力強く握った。それから、蔵の方を見つめて
「あ、あたしも蔵が好き、や」
きっかり十秒後、言葉の意味を理解した蔵が、とびきりの笑顔をあたしに向けた。

貴方との距離 切原赤也

赤也にとって私は、空気、なのだと思う。それが無ければ生きていけない、とかそういう甘ったるい意味ではない。ただただ、空気なのだ。近くに居る。ただそれだけ。赤也は私の存在を一応認識はしているものの、一緒に何かをするわけではない。本当に、空気みたいな関係。居てもいなくても一緒。それなのに、一緒にいるって、きっと傍から見たら可笑しな関係だ。けれども、そんな関係も半年もすれば周りにとっても当たり前になってくる。

今だってそうだ。一緒に下校していると言うのに、赤也は私の三歩ほど前をずんずん進んでいる。歩幅や歩く速度が違うから――赤也とは約十センチ違うから、必然的にコンパスが違う――私はただただ置いて行かれないように着いて行く。だからと言って、わざわざ走って隣に行ったりなんて可愛げのある事等出来るはずもなく、距離が一定以上離れそうになったら小走りになる程度。決して触れられる距離にはいないし、視線が交わることもない。会話も無い。それなのに、私達の関係は"恋人同士"だ。本当は赤也の隣で笑って他愛もない話でも出来たら…なんて夢見た時期もあった。けれどもそれは叶わない。だって、私は赤也の事が好きだけれど、赤也は私の事を好きではないからだ。それでも、こうして私と付き合ってくれている。会話も無く、スキンシップも無い。気の利いた事等何一つ出来ない。付き合ってはいるものの、"彼女"としての役割を何一つ果たせていない。それなのに、赤也は私と別れず付き合ってくれているのだ。…何故、赤也が"別れ"を切り出さないのか、考えた時期もあった。

告白は私からで、赤也からは好きだとか愛してるだとかそう言った戯れは一度も聞いたことが無い。私も私で赤也には付き合ってほしいと言ったものの、好きだとか愛してるだとか甘い戯言を言った事は一度もなかった。普通考えれば、半年も良く持っているな、と思う。じっと、赤也の背中を見つめる。腰まで下げたズボンが、地面を擦ってボロボロになっているのが目に映った。面倒臭そうに両手をズボンのポケットに突っ込んで、気だるげに歩く後ろ姿をただただ見つめる。
好き、
好き、
赤也の事が好きだ。背中に告げるのは、決して本人には言えない気持ち。
どうか私を見て
その瞳に私を映して
好きなの、大好きなの
付き合ったからと言って、両想いになれた、なんて思わない。そこまで自惚れてはいない。きっとこの関係も赤也が飽きるまでの期間限定だ。解ってる。この先、「別れよう」と言われたら間違いなく私は「解った」と承諾するのだろう。だって、この恋は私の我儘からなるものだもの。一方通行の恋だもの。いつか訪れる"別れ"の為に、なるべく冷静に別れられるように、私は何度も想像をする。それでも、私は赤也の事が好きなのだけれど。欲を言えば、別れたくなどないのだけれど。それでも、だけれども、私の傲慢な考えで、赤也の人生を踏みにじりたくなんてないから。
好き、大好き、愛してる、
そっと背中に想いを告げる。この気持ちが赤也に届けば良いなんて思わない。だって、こんなにも赤也の事が好きだと赤也にばれてしまったら、きっと一瞬にして終わってしまう恋だから。だから、このままで良い。このままの距離が良い。

「………ん?」
呼ばれたそれだけで、胸が高鳴る事なんて、赤也は知らない。こんなにも嬉しくて、泣きそうになる事なんて気付くはずもない。私はなんでもない風に顔を上げると、久しぶりに交わった視線。ただ、その距離はいつもよりも近くて。「……お前、何立ち止まってんの」馬鹿じゃないかと、私の腕を掴んだ。それだけで、胸がいっぱいになる。きゅう、と切なくなって、わけもなく此処から離れたくなった。…触れられた距離が嬉しくて、そんなことしないんだけど。
「帰り道で迷子、とか…間抜けな事すんなよ」
「………大丈夫、だよ」
すき、
すき、
すき、
……それでもやっぱり、この気持ちだけは口に出してなんて言えないんだけれど。

恋愛について本気出して考えてみた 仁王雅治

どうやらこうやらさん家のさんが彼氏と別れた(振られた)ご様子です。
しかもそれが1度や2度ではないのでさんはそれはもう目に見えて落ち込んだそうな。けれどそれでしょげて「もう恋愛なんてしない!」なんて打たれ弱いさんじゃあございません。此処は、恋愛マスター★である友人、仁王さんへ相談事を持ちかける事に致しました。

「またフラれたんじゃって?」
「またっていうな、またって」
「本当の事やろ。で、また今回も同じ理由か?」
「そーなの!そこで、女殺しの仁王に色々伝授してもらおうかと思って!」
「…女殺し…いやなあだ名じゃのう…」
「本当の事でしょ」
「で、伝授出来るかどうかはわからんが、何が知りたいんじゃ?」
「直球で良いかしら?」
「どうぞ」
「なんで、男はエッチしないと駄目なの?」
「…別に、性欲があるんは女もと違うか?個人差だと思うんだが」
「でも性欲ある人は多かれ少なかれ、付き合う=そういう情事を期待するよね?」
「まあそうやろ。好きじゃから繋がりたいってやつじゃなか?」
「じゃあヤれなきゃ駄目なわけ?」
「…うーん…難しい…つうか、こればっかりはデリケートな問題じゃからなあ…」
「……」
「男は単純な生きモンで、まあたとえ話として、話すが」
「なあに楽しそうな話してんだよ。俺も混ぜろぃ」
「ブンちゃんには刺激強いからやめんしゃい」
「どういう事だおいこら」
「良いじゃん。色んな意見聞きたいし!」
「まあ、まずの言うとるんは『エッチしないけど付き合える?』つう事やろ?それは、『ラストシーンは見せられないけど この映画見ますか?』と言われとるんと同じ事じゃと思うんよ。」
「ふんふん」
「『ラストシーンのない映画なんて 見てもしょうがない』っちゅう男の意見に対し、『この映画の事を 大切に思ってないからでしょ?本当にこの映画が好きなら ラストシーンがなくても映画を見たいと思うはず』と彼女に言われとるようなもんじゃ。まあ、あくまでも感覚の話やけど」
「でも…」
「まあ黙って聞きんしゃい。んで『じゃあいつなら ラストシーン見れるんじゃ?』の問いに対し『う〜ん、三ヶ月後くらいなら』と答えられ、男は『(我慢出来るかなぁ〜まあしかたないや。)この映画みたいし 我慢するよ』と大抵の男は我慢するわけじゃ」
「…つまりエサがなきゃ無理って事?」
だって、ご褒美無いままの人生なんて哀しいやろ?似たようなもんじゃ。まあでもさっきも言うたが、性欲強い女もおるから、そういうのはバンバンラストシーンを見せるわけ。そしたら、すぐ見れるとすぐ興味を失って閉館する映画館もあるんじゃが」
「……悲惨」
「で、だ。ラストシーンを見られん男は『ここまで引っ張ったんだからラストシーンはさぞかし素晴らしい 夢の世界なのだろうなあ』と 期待と妄想を膨らむ。男は基本単純馬鹿やからのう。ブンちゃんみたいに」
「なんで俺なんだよ!?」
「へえ、」
も納得すんなよ!仁王のデマだっつーの!」
「まあ、でもだからこそさんざん引っ張られた挙げ句のラストシーンが 期待ハズレでないとええよなあ?
「うぐ…っ」
「まあ…二人の恋にエンディングなんてないんやから、それでええんじゃないか。永遠に終わらん恋がしたいっちゅうのは男女共誰しも想うちょることじゃ。じゃけちゃんとした男は『確かに、彼女の全てを知りたいし、感じたいけど、彼女が望まないなら一生我慢するさ』『セックスで伝えられる愛があるって、分かってもらえるまで我慢するさ』とエンディングを待つわけやのう」
「………なんかキモイよ仁王」
「失礼な奴やの」
「だって、絶対そんなタイプじゃないんじゃん!入れ喰い状態じゃん!何純情キャラっぽい台詞をぽんぽんと…」
「いや、そう言ううけど実は仁王の奴こう見えて童」
「ブンちゃん」
「どう?」
「どうしようもなく純情少年ってことじゃ、なブンちゃん」
「(…………目が笑ってねえよ…!)あ、ああ」

相思相愛 不二周助

「周助、 別れようか」
「急だね」
「うん。だって、今日じゃないと言えないし」
「…………まさか、エイプリルフールだから言ってみたって言うベタなオチじゃないよね?」
「………………わかっちゃった?」
「今日じゃないと言えない、なんて言われて、丁度4月1日だったらわかるよ」
「ちぇーやっぱ騙されないよねえ。…『なんで!?どうして!?』って慌てふためく周助見てみたかったのになあ」
「……にとって僕ってそういうイメージなの?」
「ううん。違うけど。そういう一面もあったら面白かったのになあって話」
「――でも、僕って僕が想い以上にに愛されてるんだね」
「はっ。なんでそういう話になるの!」
「だって今日じゃないと言えないってことは、そういう事言う気が無いってことでしょう?愛されてるじゃない」
「………!」
「まあ僕は嘘でも『別れようか』なんて言えない程の事愛してるけどね?」
「ば、ばか!」