「む、無理だよ無理!」
「ここまで来て待ったはないやろ、空気読みぃや」
いや、空気読むとかの問題では…。反論しようとしたが再度口を開いたが声を出す間を与えず、財前の手が降ってきた。口許を掌で覆われての声がくぐもった。もう片方の手はの腰を引き寄せて離さない。ざ、いぜん…っ。苦しげな声が掌越しに伝わるも、そんなのに気を回す余裕などないようだった。口許を覆っていた掌を排除すると、待ったの声も出せぬよう今度は自身の唇で塞いでやった。んぅ、ぬるりと口腔内に入ってくるそれを拒否する暇などにはない。侵入を許してしまったからには後はされるがまま。
自身の舌とは違うそれが我が物顔で徘徊するのを必死で追い返そうとして、まんまと捕まる。そうなればあとはなし崩しだ。絡め取られた舌をちゅっと吸われたりつつかれたりと悪戯をされているうちに、先ほどまでの頑なだった身体が緊張から解かれる。その隙を財前は見逃さなかった。
くちゅ。水音と共に、下半身に侵入する、それ。いくら先ほどのキスで力が抜けていたとは言え、経験のなかった蕾には激痛が走る。声にならない声がと財前の口の中でこだまして消えた。ぎゅ、と自身の手に込める力が強くなる。今やの掌はくっきりと爪痕が残っており、痛々しささえ感じていた。
そんな彼女の手をやんわりと掴んだ財前は、
「阿呆、手ぇ赤くなっとるやん」
「…っ」
だからと言って辞める気なんて早々ない、けれどもが苦しむのは嫌だった。一人だけ辛い想いなどさせたくはない。そのための行為ではないからだ。ちゅ、と今度は軽い口づけを落とすと、の両手を掴んで自分の背に回した。ぎゅっと瞑った瞳がうっすら開いたのがわかったが、涙で滲んでいた。
「すまん。今回だけ、やから」
囁かれた言葉に何か言う間もなく、動き出す。また、先ほどよりも強い痛みがを支配した。
「――――っ」
一筋の涙がの頬を伝った。同時に財前の表情が歪む。ぎゅう、と抱きしめられる感覚と、背中に小さな痛み。今までの女ならそんな事しようものならきっと無理やりにでも引き剥がしていたに違いない。きっとだけ。
相当自分頭おかしなっとるな。
自覚せざる得なかった。その爪痕さえも、愛おしい。なんて。
「ざ、い…ぜっ」
同時に痛みを共有できたようで、たまらなく幸せに想う、なんて。きっとこの彼女にはわからない。
「………めっちゃ痛かった」
「……………」
「財前、優しくする言うたのに。めちゃめちゃ痛かった」
責められるとは感じていたが情事を終えたすぐにそれとはあまりにもムードがない。財前はがしがしと後頭部を乱暴にかき乱すと、未だ恨めしげに睨みつけるを頭をぽんぽん、と優しく撫でた。
「………そんなんじゃ、騙されへんからね」
言いつつも、先ほどよりも柔らかくなる声と表情。へいへいと適当に相槌を打ちながら、そっと彼女を抱き寄せた。ちくちくと背中が痛んだが、それは彼女との幸せの証。