2007.01.01

千石清純

彼女であるちゃんの家に行って、新年早々の挨拶をするため、ちゃん家のインターホンを鳴らした。すると、ドアの向こうからパタパタという足音が微かに聞こえて、んでもってその音と共にちゃんのお母さんの声だろうか。
「そんなカッコで走らない!」
と注意する言葉が聞こえた。それでも足音は一向に止まない。だって!っておばさんに抗議するちゃんの声とぼんやりと映るちゃんの姿をドア越しに確認した。かちゃ、と音が聞こえてドアが開いた。
「あ はっぴー にゅー いやー!」
「…」
「あけまして、お、おめでと!今年も宜しくね?」
ドアの向こうから覗いたちゃんの姿に、カッコ悪いけど言葉が出なかった。今日、ちゃんに会う前に絶対俺のほうが先に「おめでとう」って言うんだって意気揚々と此処まで来たって言うのに、実際は何もいえない俺。でも、はっきり言って不意打ちだって、そのかっこ。
「えと、キヨ?」
「………え?あー、おめでとう!」
名前を呼ばれてはっと我に返った俺は、本当ならもっと元気良く言おうと思ってた言葉をあっさりと口にしていた。目の前にはきょとん顔のちゃん。暫く俺を見て、あ、っと何かに気づいたみたいで眉をきゅっと寄せた。
「もしかして、変…かな?」
どうやら俺が何も言わないことが不安だったみたい。気まずそうに自分のかっこを見ながら、あちゃー…って顔してる。勿論そんなわけなくて、えーっと、なんていうか、うん。かっこ悪いけど、
「いや!すっごい似合ってる!」
見惚れちゃったらしい俺。早口でそう囃し立てると、ちゃんがようやくにこっと笑った。いつものカジュアルなかっこじゃなく着慣れない着物姿の所為か、今日のちゃんはどこかしおらしい。そんなギャップに見事心奪われちゃったみたいだ。
「で、でも、どうして急に?いや、嬉しいけど!」
「え、だって…折角の新年だし。それに…」
「それに?」
「今日くらいはキヨの視線を独り占めしたいからさ!」
言ってにこって極上の笑顔。あーもう駄目。何この子!なんでこんな可愛いこと言うんだよ!思わず抱きしめたくなる衝動にかられるけど、我慢我慢。着崩れしちゃったらやばいからね!(俺の理性が)寒い所為か、照れた所為かそれともメイクの効果か、ほんのりと紅い頬がまた可愛い。
「なっ、俺はいつでもちゃんしか見て無いよ?」
「ハイハイ、ありがと!でも、さ。本気の話で、今日くらいはあたし以外の女の子みちゃダメだからね?」
照れた仕草で俺を見てそんなこと言われたら、もう本気でちゃんしか目に入んない。
「あたりま…!」
当たり前でしょ!言いたかった言葉はちゃんのキスによって阻まれる。いつもは恥ずかしくって絶対してくれないのに、何だか今日のちゃん大胆なんじゃない?びっくりしてちゃんを見ると、あ、口紅ついちゃった…って悪戯な笑み。…本当に今日のちゃんはいつもよりも魅力的!俺の今年の目標!絶対絶対目移りしない!…今年こそ実行できるといいんだけどな。今年もきっと、この可愛い可愛い彼女に振り回されそうです。