2006.12.31
不二周助
「今年ももう終わりかぁ…」
今日は12月31日。大晦日。2006年の1年もあと数時間すればお別れだ。今年は何だかとても時間がたつのが早かった気がする。
「何か、1日1日が楽しかったもん」
「あっという間だったしね」
隣の温もりを感じながら重心をそっちに向けると私の肩を優しく抱いてくれる。
「周助と同じクラスになって体育祭文化祭、修学旅行…楽しかったもん」
「そうだね」
見上げれば変わらない笑顔の周助。でもどこか私に向けられる笑顔がいつもよりも優しくてあたたかい感じがする。それはまるで周助の煎れてくれる紅茶みたいな、そんな感じ。頭を周助の肩に預けるとくすっと落ちてくる笑い声。何?と顔を上げて周助を見やれば、いや。と言いながらもクスクスと笑みは絶えない。
「今日はやけに甘えてくるなと思って」
言われて、急に恥ずかしさが私を襲った。にこっと笑った顔はとても綺麗なはずなのに、怖いくらいで。バっと周助から離れると、アレ?と言った風に不思議そうな顔をした。
「どうしたの?」
「そ、そんなこと言われたらくっついてらんない!」
突然離れたことが疑問なのか、周助は変わらない表情で何故?と首を傾げる。ハニーブラウンの髪の毛がふわっと揺れた。私はそれを無意識のうちに追いかける。やっぱり、綺麗だなー…。女の私は完璧に男の周助に負けてると思った。ちょっと悔しいというか悲しいところだ。周助はきっと気づいてるに違いない。どうして?と言うけれど、私が恥ずかしがってること、知ってるに決まってる。知ってるからこそそれをいう。本当に周助の性格はアレだ。
「だ、だって…っ」
むっと眉間に皺を寄せながら、年末の恒例紅白を見つめる。少し出来てしまった距離がちょっと寂しい。コタツの中に入っているけど、どこか寒い。心が。
「……はずい、じゃん…」
きっとこのままだんまりしても埒が明かない。周助はこうなったら絶対言わないと許してくれないのだ。なので、一言ポツリと呟くように言えば、クスっと笑う声が聞こえた。やっぱり笑われた!カァっと顔が紅くなるのがわかって、周助の方を睨みつけた。と、その瞬間だ。
「えっ?」
すっと左肩に触れる周助の腕。気づいたときには私の重心は周助の方へ。周助の胸へポスンとダイブする形で着陸した。「周助!」と焦った風に声をあげてしまったけれど、周助を見れば、別になんとも無い様子だ。
「本当には可愛いね」
それから額に落とされる唇。もう!って文句を言うけれど、周助は快活に笑うだけだ。
「良いじゃない。たまには甘えてよ。ね?」
「…っ」
そう言って笑われてしまったらもう私に何か言える術は無い。周助はわかってるに決まってる。私が周助の笑顔に一番弱いのだってこと。わかってやってるに決まってる。でもこうやって心の中でごちるけど、でも。
「…しょ、しょうがないなぁ、もう」
結局のところそんな周助が大好きなのです。来年も宜しくね、マイダーリン!
切原赤也
今日は大晦日。今年初雪が降ったのはつい先日。今年の一年は去年よりも凄く早く過ぎ去った気がする。そう思いながら私は一人、自分の部屋に居た。結局今年も彼氏は出来ず、フリーな大晦日。いや、ていうかクリスマスも一人だったんだけどさ。高校1年にもなったというのに未だに彼氏いない歴更新中だ。親からは今年こそはと思ってたのに、とさっき厭味を言われたばかりだ。淋しげに哀れんだ顔で言われた私はかちんときてほっといて!と言って、二階の自室に逃げ込んだということだ。
「はーあ!もうっ」
いいながら、ボスンとベッドに身を投げた。自分のベッドが軽く二三度スプリングして私を包んでくれる。ベッドの隅に置き去りの抱き枕をぎゅうっと抱きしめて、私は瞳を閉じた。すると、ヴーヴーと聞こえる、バイブ音。携帯が鳴ってる、と気づいて、同様にベッドにおきっぱなしにしていた携帯に手を伸ばす。手に振動が伝わってきて、パカっと開けると、メールではなく電話だった。着信中のそれを通話ボタンを押して耳に押し当てる。
「あい?」
『…うわー、気の抜けた声』
「煩いってーの、あたしは忙しいの!」
『…今年も彼氏出来なかったのに?』
「うっさい、ガキ!」
電話越しに聞こえてきたのは、幼馴染の声。二つ年下のコイツはもう家族同然ってくらい仲が良い。今はもう無いにしろ、お風呂に入ったこともあるし、一緒に寝たこともある。あたしが中学にあがったときに、あっちからもうさすがに一緒は…と断られてから寝ることはなくなったけど。幼馴染、赤也はあたしが何か言えば必ず生意気なことを言う。だからあたしもつられて可愛げないことを言ってしまうのだ。
「アンタだって出来なかったでしょーが!」
『あのね、俺は出来ないんじゃなくって、作んないだけー』
「むかっ」
言いながら体を起こすと、だから、と赤也の声が耳に通る。続いて聞こえてくるのは、ガラって音。ん?と思うと、続けて聞こえてくる赤也の声。
『そんなかわいそーうなと一緒に過ごしてやろうと思って』
窓開けて。と言われて、カーテンをしゃっと開けると、赤也ん家のベランダから身を乗り出してる赤也の姿。あたしが窓をあけた瞬間、にかっと赤也は笑うと、ベランダに足をかけて、こちらに向かってきた。ばっ!危ないよ!と言うがもう遅い。よっと、って言いながら次の瞬間には赤也があたしん家のベランダに見事着地した。
「…危ないってば、バカ」
「大丈夫大丈夫」
こんなん朝飯前だし。言いながら、あたしの部屋に入ってくる赤也。あーさみ。一人ごちて、窓を閉めた。そんな赤也に当たり前だよ、と言いながら赤也の後をついていく。
「色気のねえ部屋だよなー」
「煩いなーもう」
「こんなんじゃあ彼氏出来ないって」
「もう黙れ、お前」
ハハって笑いながら小ばかにしたことを言う幼馴染の後頭部を本気で殴りたくなった。悪かったな、と言いながら睨みつける。きっと今なら完全犯罪が狙えるような気がする。あたしは赤也に気づかれないようにはあ、と拳に息を吹きかけて、振り上げようとした瞬間。くるり、と振り返った少年。…む、もしかして殺気が伝わったか?吃驚して振り上げようとした拳を勢い良く下に降ろした。すると、にかっと間抜けに笑う赤也。どうやらあたしの気持ちには気づいてないみたいだった。
「悪くねえって。俺安心してるもん」
「は?」
「今年もに彼氏が出来なくて」
「……厭味っすか?」
「まさか。…つーか気づけって」
言いながら苦笑した赤也を確認したあと、意味が解らなくて首を傾げた。
「は?…っ」
言いたかった言葉は触れたそれによって遮られる。ちゅ、っと唇に触れた感触。え。何。これ?え。
「…あかっ!」
「俺がのこと好きだっつーこと」
悪びれた風もせず、にっと笑う姿はいつもの生意気言うときのそれと一緒で。突然のキスに声が出ない。ただ、わかるのは、それが夢じゃないってことだけ。
「あっ、あたしのファーストキス返せ!」
きっとあたしの顔は今真っ赤に違いない。こんな顔で言っても説得力無いんだろうなと思いながらも、毒づいてしまうのは年の所為。でもきっと赤也には全部バレてるんだろうね。今年最後の日に、ようやくあたしにも彼氏が出来たようだ。相手は生意気な年下の幼馴染。あたしのファーストキスは高いんだから、きっちり責任とってもらうよ?そう言ったら勿論、ともう一度キスが落とされた。
彼氏いない歴、ついに更新停止いたしました。
宍戸亮
ねえねえ。そう言われたのは、紅白で大塚愛の歌が流れ始めたときだった。あ?と言いながら向かいにいるの方を向けば、頬っぺたを両手で包んで俺のほうを見ている姿があった。ちょっとばかり身を乗り出した感じのにどうしたよ、と素っ気無く問いかければ、はにっと笑って言葉を続けた。
「2006年はズバリ!亮にとってどんな年だった?」
にこにこ〜っと何を期待しているのか楽しげなの顔。突然何を言い出すんだといいたくなったが、今日は年末だ。そう聞きたくなるのも肯ける。しばし間を置いた後、そうだな…言いながらアゴに手を当てながらぼんやりと紅白を見る。
「やっぱり亮にとっては素敵な1年だった?中学最後の部活でレギュラー獲れたし」
嬉しそうに、まるで自分のことのように話す仕草に、ちょっとばかり不覚にも照れて。でも生憎素直に喜べず、つんけんした表情で淡々と述べる。
「…負けたけどな」
言えば、は一度きょとんとしたが、すぐににこっと笑う。
「それでも!素敵だったよ?」
…長年の付き合いとは言え、こいつの素直なところは正直時々恥ずかしくなってくる。もう中学3年だと言うのに、すれることなく自分にいつでも正直だ。
「そういうこと、言うなよな」
「えっ、なんで?」
照れ隠しに冷たく言い放つけども、はなぜそんなこと言われるのかちっともわかってないようだ。どうして?とコタツから身を乗り出した所為で、俺の目の前にの顔が近づく。あと少し俺が近づけば、キスできるんじゃないかってくらいの近さで、アホみたいに正直な心臓が煩く鳴った。
「あーもう、わかんねえなら良いッ!」
「ええ!なんで亮怒るのよ?!」
俺の気持ちなんて全然わかってないようだ。そんなところも好きだけど時々困ってしまうのも事実だ。ペシっと軽くの頭をはたくと、痛い!と冗談交じりでが言う。
「もう亮は怒りんぼのひねくれ屋なんだから」
「お前がバカ正直なんだろうが」
言えば、は一度ぽかんと呆気に取られた顔をする。何か変なこといっただろうか?と自分の言動を思い返してみるけど、特に変わった様子はなく、何でコイツがそんな顔するのかわからなかった。何だよ、そう言い返すように言えば、はにこっと笑うと。
「だって、亮が素直じゃないから。だから亮が素直じゃない分、あたしが素直になるの。そしたらプラマイゼロでしょ?」
「……」
相性良いってことだよ?ふふっと笑いながら、不意打ちのキス。唇に触れたそれに気づいたのは数秒後。すぐさま離れる掠るくらいのキスに、一瞬ポカンとしてしまった。
「バッ!ばっかじゃねえの!」
「だ〜いすき!これからもよろしくね?」
きっと、来年も振り回されるんだろう。そんな自分も嫌いじゃなかったりするんだが、が図に乗るといけないから黙っておくことにする。