ネーミングセンス

20060420 不二周助

いつも大人びて見える彼。でもやっぱり年相応なんだと再確認することがある。そして時には小学生みたいに子どもっぽくて。味覚オンチなトコロも名前付けるのが下手くそなトコロも愛しく思う。結局のところ、あたしは貴方にベタ惚れなわけデス。

「新しいサボテン買ったんだ」
久しぶりに、周助の部屋に遊びに来た。見に来て。とよほど新しいサボテンのことを気に入ったのか、電話越しに訊いた周助の声は意気揚々としていて、断ることは勿論ナシ。呼ばれるがまま次の日にはこうしてお部屋にお邪魔することになった。 部屋を開ければいつの間にか増えているサボテン達。前に来たのはそれでも2週間くらいしか経っていないはずなのにサボテンの数は5個は増えてる?そこまでサボテンのことが好きなのか、と思うといつもは大人びて見える周助もやっぱり幼心を持ってるんだなあなんて思ってちょっと可笑しかった(馬鹿にしたわけじゃなくて、純粋に可愛くて)
「凄いサボテン増えたんだね」
可愛い。言いながら部屋に足を踏み入れて、窓際に寄せ集められたサボテンを眺める。するとすぐさまにあたしの隣に周助は来た。それから嬉しそうに笑うんだ。こんな顔、滅多に見られないからちょっと悔しい(サボテンに嫉妬してどうするんだって話だけど)でも妬けちゃうくらい優しい目をするんだ。
「うん、サボテンってね、人の言葉が解るんだ」
「…人の言葉が?」
「そうだよ。だから、僕は一つ一つにちゃんと名前を付けて、毎日話しかけてあげるんだ」
それはまるで子どもを見守る親のように。とろけるような優しいまなざしをサボテンに向けていた。あたしはそんな周助を一瞥すると、サボテンに話かけている周助の姿を想像した。それは結構安易に想像出来た。
「じゃあ、コレにも名前があるの?」
「うん、これはね、サボちゃんって言うんだ。で、その横にいるのがテンテン」
嬉々としてサボテンの紹介をし始める周助を見つめる。
「サボちゃん…テンテン…」
「うん、それでこのちっちゃいのがチー君(チビ)で、他のよりトゲが鋭いコレが」
「…トゲちゃん?」
数個のサボテンの名前を聞いただけで、瞬間的に予想した名前を口に出してみたら見事正解。そのとき、思った。
「周助、あたし、そのネーミングセンスはいかがなものかと…思う、のですが…」
言いにくそうに言えば本人は指して気にしていないのか、おどけた表情で、そう?と言うだけだった。きっと、周助は大真面目に考えたんだろう。そういう人だ。何処までが本気で何処からが冗談?なんて訊こうものなら絶対全部本気だと答えると思った。ふと思いに耽っていると横では何か思案している周助の顔。そんな顔も素敵だなあと思ってしまうあたり、相当周助バカだ。
「あ、じゃあ新しく買ったこの二つのサボテンの名前をがつけてよ?」
「えぇ…!?」
そんなことを考えていると、急に話を振られてしまった。素っ頓狂な声が漏れる。まさかそんな事態になるとは想像していなかったのだ。けどもすげなく断ることも出来ず(惚れた弱み!)そしてそんなことで喧嘩に発展するのも馬鹿馬鹿しいと思い(周助のことだからそんなことはないと思うけど!)安易に肯いてしまった。
 いいけど…と言えば、周助の笑顔が更に明るくなったような気がした。
いや、そこまで感激されると困るんですけど。
でも、今更取り消すことなんて出来ない。多分断ったところで「の付けた名前なら何でも素敵だよ」とか何とか甘いこと言っちゃって逃げ道を塞ぐに違いないから、あたしは、考えた。いや、たかがサボテンの名前一つ一つで悩むほうがアホらしいんだけど。横では待ち遠しいのか、にこにこと笑顔の周助。二個のサボテンに向かって「が名前付けてくれるからね」なんて話しかける始末だ。
「うー…」
唸り声が上がる。勿論あたしの口から、だ。必死に考えて考える。大体にして、犬や猫の名前を考えるならまだしも、相手はサボテンだ。普通名前なんか付けないだろ!と思ってみるけども、それを頼んでいるのは最愛の彼氏。大好きな大好きな恋人が嬉しそうに待っているのだ。とてもじゃないけど「タマ」とか「ポチ」なんてつけられるわけがない。けどぶっちゃけあたしはサボテン愛好家なんかじゃないし、詳しいわけでもない。一般的に見るのはいいけど甲斐甲斐しく世話をしたいとも思わない(ごめん、周助)
どんな名前が気に入るだろう。「ジョニー」や「ミケランジェロ」とか?それとも和風がいいだろうか。悶々と考える。(今思うとすっごいアホ臭いことで悩んでいるなと思う)(けどそのときは真剣だったのだ) アップルとティー(紅茶好きの周助のため)大和と撫子(和風攻め)何個か候補があがるものの、いまいちぴんと来ない。 また横をチラリと見つめた。そして後悔。そこには羨望に満ちた周助の顔。何だか必要のない責任感みたいなものが圧し掛かってきて。
「じゃ、じゃあ…イソちゃんと、フラちゃん」
「いいね、それ」
「…そう…?」
自分で言っておきながら、訝しげに周助を見てしまった。周助の表情からは嫌な素振りは全くなく、変わらない笑顔に罪悪感が生まれる。
「じゃあこっちのうねうねしてるほうがイソちゃんで、小柄なこっちがフラちゃんかな?ふふ、良かったね。に素敵な名前を付けて貰えて」
訊いていると凄く気恥ずかしい気持ちになった。かあ、と頬に熱が集まるのがわかった。周助にはネーミングセンス0だと言っておきながら自分もあまりにもお粗末なので泣けてくる。それでも周助は一言の蔑みもなしにただ褒めちぎるだけ。終いにはは名前付けの天才だね。なんて真の笑顔で言われてしまい、言葉に詰まった。
「これで僕らの子どもが出来たときも安心だね」
ふわり、と癒すような笑顔で言われ。 えぇえ!?と吃驚することも忘れ、反対に不安でたまらないよ。と心の中で突っ込んでしまったことは周助には内緒だ。
そして、最大の秘密は
「ところで、イソちゃんとフラちゃんの名前の由来は?」
「え、ま、まあいいじゃん!ね?」
「ふうん…?」
……………。言えない。最近豆乳にハマっていて大豆イソフラボンからつけた、だなんて。

恋愛事情

20050619 不二周助

きっとわたしは一生あなたに勝てないんだろうな。
それが悔しくもあり、少し嬉しい。

「やっぱダメだ、わたし」
そう言ってゴロンと寝転べば、太陽の日差しが眩しく照らした。キラキラとまるで宝石のように輝くそれを見ると、今悩んでいる自分が本当にちっぽけなものに思えてくる。はあ、と溜息をつく。そうすれば隣から笑い声が聞こえてきた。
「……何が可笑しいの?」
む、っとした。だから隣で笑っているカレを睨むように見つめた。そうすればカレはわたしの視線に気付いたのか、はたまた偶然か、わたしの方を見下ろした。寝転んでいるわたし、そして座っているカレ。自ずと目線も変わるものだ。
「別に」
そういいながらカレは読んでいた本にまた目を落とす。何だか気に入らない。その一言で全てを終わらしてしまうカレも、言い返すことの出来ないひねくれた自分も。しかも、カレときたら、別に。とか言いながら今も本に目を通しながら口の先が笑ってる。そんな些細なことも気に入らない。なんでそんなに気に入らないのか、自分でもわからないけど(普段わたしはそこまで短気じゃないはずだから)でも、なんだか今日は気に入らなかった。
「……なら笑わないでよ」
カレに言い放つとわたしはゴロンと横向きになった。カレの方向とは反対向き。つまりはわたしはカレに背を向けた状態になったわけだ。そうすればまたクスクスと笑うカレの声が耳についた。
「ちょっと!」
本気で怒ってるんだ、とわたしは拳を上げた。そしてその手でカレの腰辺りをバシリと叩く。痛い、と言う声が聞こえた。でもやっぱり笑顔だ。本当は痛くないんだろうな、って心の中で考える。
「もう、いいもん。周ちゃんはこういう人だもん」
「ごめんごめん」
拗ねたように言えば謝ってくれる。だけどその顔は始終笑顔。その笑顔が凄く憎い。だけどその笑顔が果てしないくらい好き。そう思ってるからわたしはカレに勝つことが出来ないんだと思った。
惚れた弱味、なんだよねぇ……
はあ、って溜息をつく。そうすればカレの笑い声が一端止んだ。それから視界が暗くなる。影が出来たことが解かった。そしてその影の正体も。
「……?」
「何?」
カレがわたしの顔を覗き込んで出来たモノ。不思議そうな顔がわたしの目の前にある。サラサラなカレの髪の毛が太陽の光に当たってキラキラと輝く。薄茶のカレの髪の毛が宝石になったみたいで、一瞬見惚れる。

もう一度名前を呼ばれて、わたしは我に返った。何、ってまた同じように返す。するとカレがまた笑った。何だか笑われてばかりのような気がする。ちょっと癪だ。だけどそれがちょっと嬉しかったりする自分は多分末期。
「好きだよ」
カレはわたしの心情を察してくれたのか。サラリと。まるで挨拶でもするかのように。まるでそれを言うのが当たり前みたいに言うから。
「なっ!だ、だから周ちゃんはどうしてそう…!!」
どうして、そんなに余裕なのか、問い掛けたくなる。でも問い掛けたところで返ってくる答えはいつもの返事。
「だって、本当のことだから、ね?」
そして、いつもの笑顔。
「〜〜〜〜っ!!」
「アレ?、顔が赤いよ?」
熱があるんじゃない。って言いながら近づくカレの顔。ドキドキする。そのカレの行動が、余計にわたしの顔を赤くさせてることがわからないんだろうか。ううん、きっとわかってやってるに違いない。カレはそう言う人だ。付き合ってからわかったカレの本性。
「ちょ、しゅ、周ちゃん!」
静止の声も聞かず、どんどんカレの顔が近づいてきた。反射的に目をぎゅっと瞑る。そして、感じるのは、おでこに何かがぶつかる感覚。
「?」
恐る恐る目を開ければ、カレの顔のドアップ。おでことおでこがくっついて。 何やってんの、って言えば、熱測ってるって。間の抜けた返事に脱力してしまった。顔を近づけてくるから、"ソウ"思っちゃったじゃない。真っ先に"ソウ"思ってしまった自分が恥ずかしかった。
「もう!紛らわしいよっ!!」
「?何、もしかして……」
カレは何も悪くないけれど、何か一言文句を言ってやらねば、と思った。だから、苦し紛れの一言。そうすればカレの顔が少し離れて目が合う。そうして次に喋るのはカレ。ふふ、っとまたカレは笑った。そうして次に来るのは。………わたしの唇とカレの唇が触れる感触。
「周ちゃん!!」
「アレ?待ってたんじゃないの?」
「待ってなんかない!!」
やっぱり、わたしは一生カレには勝てないんだろうと思った。いっつもいっつもわたしばかり振り回されてばかりで何だか癪だ。カレを見ればいつも余裕のある笑顔。とっても悔しくてやるせない。だけどそれと同様に、こんな関係がいつまでも続けばいいな、と思ってたりもする。
でもね、このことは悔しいからカレには内緒。まあ、きっとカレにはバレてるんだろうけどね。